第8話「第二王子に会いに行きました」
朝…( ;∀;)
すみません、更新遅くなりました。
第二王子に会いに来た。
先生とアリス、ジャイルを連れて、カルデラの崖にたどり着いた。
ここは、カルデラ内のこの国と、カルデラ外のなだらかな山腹に住む獣族との境目である。
獣族にさらわれた俺を先生達が救出してくれて、襲撃されるだろうことを恐れて国は防衛ラインを引いた。
一時はだいぶ荒れたが、今はもう落ち着いている。
その一角を第二王子が担っている。
「どうしたんだ?」
第二王子は、隊長室というには簡素な土作りの小屋にいた。
俺一人だけ入室し、他のみんなは外で待っていてもらっている。
第二王子は上半身裸で、腕一本で腕立て伏せをしている。
背中や顔から、汗がしたたり落ちた。
マジカ第一の世界でも、筋トレはするのか。
背筋マジすげえな。
そのうち、背筋が鬼の顔になりそう。
「兄様、ご機嫌うるわしく。鍛錬を怠らない姿勢、さすがです」
「世間話をしに来たのか?」
第二王子はムダな会話が嫌いだ。
それが分かっているのに、ムダに機嫌を取りに行ってしまう俺のチキンハート。
それでも挨拶くらい素直に受けといたほうがいいと俺は思うの。
「兄様に協力していただきたいことがあります」
「お前に協力するつもりはない」
第二王子は体を起こし、布で体の汗を拭き取り始めた。
今まで、第二王子を仲間に引き入れようとしたが、まあこの通りである。
「今、国民は苦しんでいます。国を変えないと国は滅びます。僕たちは王族です。今こそ王族は一致団結して立ち向かうべきじゃありませんか?」
「くどい」
とりつくしまもない。
まあ、こんな感じだ。
ちょっとは、5年前の件で考えを改めてくれたかと思ったが、そう簡単に人は変わらんね。
とはいえ、これで諦めるわけにはいかんのよ。
「この5年間、獣族から襲撃があまりに少なすぎる、そう感じませんか?」
第二王子は何が言いたいとでも言うように、眉をひそめた。
5年前、俺は獣族にさらわれた。
その時に先生たちに救助された際、獣族のリーダーとその側近を殺している。
それがバレたら、獣族が一族の誇りに賭けて攻め入ってくるかもしれない。
この国がもっとも恐れている事態になる。
「予想よりは少なかったな」
「その少なかった襲撃を思い出しください。僕らを、この国の人間を恨んでいる様子はありましたか?」
第二王子は、俺の質問に首をふった。
「襲撃は何度かあった。しかし、報復という感じではなかった」
良かった。思惑通り。
獣族にあのことはバレていない。
「獣族は仲間を大切にし、執拗に報復をするという習性がある。おかしいと思いませんでしたか?」
「……まさか、すべてお前の仕業だとでもいうのか?」
第二王子の問いにうなずく。
「どうやったというんだ?」
「それは秘密です」
殺した二匹以外の獣族達は、第二王子部隊と戦闘中に眠ってしまっていた。
だから、すべて魔族がやったことにした。
リーダーを殺した場所、第二王子部隊と戦闘があった場所を、あたかも魔族がそうやったかのように見せた。
どうやったかはしらない。
先生は、すべて自分がやるからと、俺を連れて行こうとはしなかった。
俺がいたところで足手まといになるからだろうと思っていたが、今考えると、獣族の遺体にも、第二王子の兵士達の遺体にも、魔族がやった痕跡を残したのだろう。
それを見せないためだったんじゃないかと思う。
「信じられないな。口ならなんとでも言える」
「信じてもらわなくても結構ですよ」
信じてもらえたら楽だったが、そうは上手くいかないか。
でここで俺がやったかもしれないと印象付けることが大切だ。
「それに、どうですか。あの防壁は。獣族相手に一定の効果を得られていると聞きました」
「あの変わった防壁、あれもお前がやったというのか?」
第二王子がそう言う。
うなずく。
魔族の仕業じゃないとバレなくても、人族を襲う可能性は大いにあった。
第二王子は獣族を襲撃してしまっているし、そもそも魔族に土地を追われてカルデラ内の土地を狙っていた。
なんとかしなくてはいけない。
それでないと、戦争が起きるかもしれない。
それで、ふと思いついた。
ねずみ返しがイケるんちゃうかと。
ねずみ返しは、穀物などの食糧をネズミの被害から守るために、倉庫などの貯蔵施設に取り付ける、ねずみ侵入防止用の器具のことである。
あれを獣族用に応用できないものかと考えた。
この世界には、金級魔術師という便利な人たちがいる。
東塔にいる職人達を呼び、あらゆる鉄を持ち出し、文字通りの鉄壁を作らせた。
ななめ45°~60°で、油を塗りたくっている。
崖を駆け上がっても鉄の壁で真上にジャンプできず、後ろに下がるしかない。
壁を乗り越えても、油で滑る。
もしくは火を放てば油に引火する。
実際に作ると、金属が全然足らないし、重心が安定しないしで、作り終えるまで時間がかかった。
試行錯誤しながらも、その間獣族の襲撃がなかったおかげもあり、なんとか完成した。
今まで平穏なのは、この鉄壁のおかげかもしれない。
「防壁の件は、王も貴族たちも知っていることです。信じられないなら聞いてみてもいいですよ」
黙っている第二王子に言う。
第二王子は首を振った。
「お前には力がある。なぜお前は名誉を求めない?」
空耳かと思った。
第二王子が俺を認めてくれている。
「僕に力がある?」
「そうだ」
「信じてくれるんですか?」
「俺もずっとこの前線に立っている。お前の話のおかげでこの戦況に合点がいった。それに……、お前ならできると思わせる何かがある」
完全に信じたわけではないが、と付け加えて、第二王子は言葉を続けた。
「俺の部隊は、獣族に勝てなかった。お前達が来なければ全滅していただろう。いや、この国自体、危うかったかもしれん。お前の話が全て本当なら、それをお前はお前の遣り方で、被害をほぼゼロにした」
そうか。
ただ単に戦闘を回避しただけだが、これを力があるという見方もできるのか。
ふむ。
ただ単に脳筋じゃなかったんだなこの人。
「それならなぜ、その力に見合っただけの名誉をもとめない」
名誉、名誉ね。
ここまでがんばってるんだから、少しは報われてもいいとは思う。
でも、みんなが重税で苦しんでいる中、報奨金とかなんとか賞とかもらっても、心から喜べないとは思う。
そもそも今の王族が冷遇されているのを、ずっと城から離れている第二王子は知らないのか。
「兄様、今のこの国での名誉など、空しいものです」
「空しい、か」
第二王子は、俺の言葉を反芻した。
「それは何故だ? 俺にはお前が、何を望んで、何の目的に向かって生きているのか、さっぱり見通せない」
第二王子、そんなふうに俺のことを見てたのか。
「僕の望みは、皆が幸せになれる国にすることです」
無難にそう答えていた。
「皆が幸せになれる、か」
第二王子は、俺の言葉を反芻した。
「やはりお前は、甘っちょろい夢想家だ」
やはり、第二王子を引き入れるのは無理だったか。
と、簡単には諦めない。
第二王子を引き入れなくても、“本命”は引き入れさせてもらう。
「甘っちょろくて結構です。でも、夢は見続けます」
「勝手にしろ」
第二王子は話は終わりだと言わないばかりに、部屋から出ようとした。
「兄様、ここからが本題です」
第二王子は怪訝な顔をして、俺の言葉を待っている。
そういえば、兄様と呼ぶなとか虫酸が走るとかは言われないな。
「僕は獣族を仲間に引き入れようと考えています。兄様、魔族と戦ってみたくはありませんか?」




