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王族に生まれたので王様めざします  作者: 脇役C
第一章 幼少期

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第15話「王に呼ばれました」

 母親と朝食をとる。

 静かだ。

 母親は姿勢がぴしっとしている。

 さじをやわらかく持ち、音を一切立てず食べる。

 いや、食べるというより召し上がるという言葉がふさわしい。

 そんな感じだ。


 そんな感じなので、食事中の会話ははばかられる。マナー違反な気がしてしまう。

 いや、単に俺が母親との話題を見つけられないでいるだけか……。

 何しゃべっていいのかわからん。

 女性っておしゃべりなもんじゃないのか。

 年齢とともに口数が多くなっていくイメージなのだが、真逆をいってる気がするぞ……。


 堅すぎるんだよな。

 先生も堅い方だとおもうが、母親はそれ以上にとっつきにくいな。

 前世の母親とはどうだったけか。

 前世はほとんど母親と食事なんてしなかったし、食事以外の会話なんてただのののしり合いだ。

 今世の親とは良い関係を築きたいとは思っているが、関係が悪いわけでもないし、今のもままでもいいか。


「最近、どうかしら?」

 そんなことを考えていたら、久しぶりに母親が話しかけてきた。

 食事を終えて、口を紙ナプキンで拭きながら。

 どうって言われてもな……。

 なんて答えればいいのだろう。


「先生のもと、勉学や剣術に勤しんでいます」

「そう。それなら良かったわ」

 現状報告してほしかったのか?

 10歳になったとき、王に認められるように努力しているかの確認だったのだろうか。


 食事が終わり、いつも通り出かけようと荷物を背負う。

「行ってまいります」

 母親にそう挨拶して、扉に手をかける。

「待って」

 母親はそう言って、背後から俺の両肩に手を置く。


「………」

 沈黙が流れる。

 んんん? なんだ?

 また一緒に死のうとか言い出すんじゃないだろうな。


「早いものね」

 母親がポツリと言う。

「男の子の成長は早いと聞いていたけど、本当なのね。ついさっきまで乳飲み子だった気がするのに……」

 声がややこわばっている。

 本当になんなんだろうか。

 ちょっと怖いよ?


「いえ、僕はまだ5歳児ですし、右も左も知らない子どもですよ」

 5歳児はこんなこと言わないかもしれないが。

「いいえ、年齢の問題じゃないの。いつの間にか私の手を離れて、どこで何をしているかわからない。でも一日会わないだけで顔が変わっていく……」


 母親は気づいていたのだろうか。

 先生のところへ勉強しに行っているだけじゃないってことを。

 城外に出ることを反対された手前、何をしているか言わず、ウソをつき続けている。


 本当のことを言ったほうがいいだろうか。

 うん、言おう。


 やましいことをしているわけじゃないし、それで母親と対立することがあれば、ちゃんと話し合うべきなんだろう。

 それが本当の家族なんだろう。たぶん。


「母様、僕は」

「言わなくていいわ」

「え?」

 そうなの?

「無理に言わなくていいの。男の子だから、私に言えないことがあるのがふつうよね」


 なるほど……。

 周囲にメイドがいなくなって、子育てをどうするか分からず、俺との距離をはかりかねているんだな。

 もっとズカズカ入り込むくらいでちょうどいいのだが。


「ただこれだけは教えて。ジャンがやっていることは、国に反逆することだったり、法を外れたり、人の道を踏み外すことではないのよね?」

「してないと思います。むしろ国や人のためになっているのではないかと僕は思っています」

「なら、それでいいの。ジャンが話したくなったら話して。困ったり悩んだりしたときも話して。私の助けが必要なときも。できれば嬉しかったことも、なんでも……」


 5歳児の子どもを信用しすぎじゃないだろうか。

 前世なら、中学校くらいまでは親がうるさく干渉してくるもんだったが。

 それでも母親は母親なりに心配してくれていたんだな。

 高倉健なみに不器用な人だな。

 一般的な母親ですら、男の子の気持ちがわからなくて悩むというし、この母親もだいぶ悩んだのだろう。

 よく考えたら、母親とはいえ俺より年下なんだよな……。

 もっと優しくしよう。


「ごめんね、時間をとらせちゃって」

 母親は俺の肩から手を離した。




 シリスに着く。

 モイはあいかわらず、村の入り口あたりでピシッと立っている。

 出迎えなんていらんよと言ったのに、律儀なやつだ。


「今日はどこを掘るんだ?」

とモイが聞いてくる。

「いえ、掘りません」

「なぜだ?」

「その件で話があります。詳細は打合せの時に」

 モイは頷き、それ以上聞かずに村長のところに向かった。



 村長の家に着く。

 ここで毎朝、作業を執り行う前に打合せを行っている。

 ちなみに体操もだ。

 現場作業に、朝の打合せとラジオ体操は欠かせないね。ラジオはないけど。

 マジカでほとんど作業しているとはいえ、ケガをしたら大変だからね。


「ジャン=ジャック王子、本日もよくぞおいでくださいました」

 村長は深々と頭を下げた。

 毎回、こんな感じで丁寧に迎えてくれる。

「貴方様には、感謝してもしきれません。私どもにできることであれば何でも仰せ付けください」


 そんなに、うやうやしくしてもらわないでだいじょうぶなのたが…。

 同じ釜の飯を食う仲間じゃないか。

 そんなことを言っても、村長は「私の気持ちの問題ですから」とやんわり断られる。

 村長としての立場があるからだろうか。

 他人行儀で寂しい気もする。

 そうは言っても、感謝してもらえるというのは嬉しいものだ。

 がんばったのが報われる気持ちになる。


 そうこうしているうちに、スタッフが集まってきた。

 スタッフはここの村人で、発掘作業に手伝ってくれている人たちだ。

 最初の不安が顔ににじんでいたころとは違い、積極的に作業に当たってくれている。

 経験を積んで手順を覚え、俺が何も言わなくても、自分で進められるところは進めてくれる。

 いい感じだ。

 もうそろそろいいだろう。

 この地を離れ、他の村の発掘作業に入る。


 村長の前に地図を広げる。

「これを見てください。これはシリス村の地図です」

「地図?」

 そこには○と△と×でプロットされている。


「この記号があるところが、掘削作業をおこなったところです。記号は水量を表していて、それぞれ、○が多い、△が少ない、×がまったく出ない、です」

 だいたい1km間隔で掘ってあって、シリス全域で10プロット。

 どこらへんが水域かが見た目でわかる。


「水が出るところと出ないところが偏っているように見えますね」

 村長が指摘する。

 さすが村長なだけあって、他の村人と違うね。

「そうです。地下水は限られた場所にしかありません。つまり、水が出やすいところ出にくいところがあります。この地図を見れば、どこが水源か、見当がつくはずです」


 へーとかなるほどー、という声が上がる。

 テレビ番組のサクラみたいだな。

「水が出ない地域には、水を運ばなければいけませんね」

「ええ。そこは考えどころです」

 前世みたいにポンプで循環させるわけにはいかないからね。

 水路作っても、高低差が全然無いからダメだし。

 考えないとな。


「この地図を差し上げます。僕はそろそろ他の地に行きたいと思います」

「おお、そうですか……」

 村長は寂しげな顔をする。

 他の作業員もだ。

 頼りにされていたんだな俺。

 ちょっとジーンとくるね。


「工事が完了するまでここにいたいのはやまやまですが、他にも水が必要な地域がいっぱいあります。しかも一刻を争います。あとは大丈夫です。僕はみなさんを信じています」

 俺の言葉に、村長は手を胸に当て、深く頭を下げた。

「今まで大変お世話になりました。あなた様はこの村の救世主です。このお礼に、私ども、シリス村一同は、第3王子ジャン=ジャック様に忠誠を誓います」


「村長!」

 けたたましく扉が開かれた。

「役人がこの工事の責任者を出せと言っております!」

「通しなさい」

 村長がそういうやいなや、叫んだ村人を押しのけるようにして役人が入ってきた。

 ん、この間見た小太りな水級魔術師じゃないか。


「君か。至る所で地面に穴を開けて回っている者は」

 3人、騎士が控えているのも物々しい。

 先生とモイは戦闘態勢をとっている。

 先生はお面付けてる。いつの間に。

 役人相手だから、変装したのか。


「ちょっと来ていただきます」

 モイの肩を掴む。

 モイじゃない。俺だよオレオレ。

 まあ、モイだと思うのもムリはない。


「俺じゃない」

モイは俺に視線を送る。

「子ども…? まさか、この子がというのですか?」

「そうですが、なにか?」

 そう答えると、役人と騎士同士で顔を見合わせる。

 次に周囲を見渡す。

 誰もがそうだという顔をしている。


「この工事は国土交通省から許可を得てますし、貴方がたの労力削減にもなるはずです。役人の皆さんに連行される言われはありませんね」

「私も国土交通省の人間ですが、そのような話は聞いていませんね」

 だろうね。

「ともかく、行く気はありません。このまま工事を続けると、誰だか知りませんが伝えておいてください」

 そう言うと、騎士たちは剣に手をかける。


「王のめいです。貴方に拒否権はありません。無理にでも来ていただきます」

 え?

「父が?」

 思わずそう漏らすと、役人たちがざわめいた。

「貴方は、何者ですか?」

「第3王子、ジャン=ジャックです」


 あの父親が、俺に会いたがっている。

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