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王族に生まれたので王様めざします  作者: 脇役C
第一章 幼少期

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第13話「エリー」

アリスの失声症への変更にともない、大幅に改稿しました。

 夕暮にさしかかりつつある道を、先生とアリスと3人で歩く。

 途中でとんだ邪魔が入ったが、アリスの故郷と思われるノギス村に向かっている。

 モイは、自分の村に戻っていった。

 奴隷商から足を洗って過ごす家族との時間だ。

 わだかまりなく、良い時間を過ごせているといいが。


 そんなことを思っていたら、アリスに服をギュッと掴まれた。

 村に近いのだろう。

 こちらを見たり、うつむいたり、目を泳がせたり…、アリスの迷いを感じられた。


「だいじょうぶ?」

 しばらくして、アリスは、うんと微かに頷いた。

 やめておいたほうがいいんじゃない?

 そう言いかけたがやめた。

 村に行かなければどこに彼女を連れていけばいいのかわからないし、村に行けばなんとかなると思っていたのかもしれない。



 村に着いた。


 まず気が付いたのは焦げ臭さだった。

 すぐに次々にこの村の現実が目に入ってくる。

 畑は踏み荒らされ、家は破壊されて、焼き払われていた。

 至る所に切り傷だらけの死体がうち捨てられ、腐臭を放っている。

 生き残っている者もやせ細って、死体から何かをあさっている。生きているのに必死という感じだ。


 こちらの様子に気づいた村人が、痩せこけて飛び出した眼球をこちらに向けた。

 そしてすぐに視線を死体に戻した。

 死体から衣服を引きはがしている。

 死体から髪の毛を引き抜く羅生門の老婆を思い出した。



「アリス!」

 この惨状に気を取られているうちに、アリスは走り出していた。

 あわてて追いかける。

 おそらく自分の家に向かっている。

 村の現状がこれなら、アリスの家がどうなっているかだいたい想像がつく。


 アリスに全然追いつけない。

 身長は同じくらいだが、俺が室内育ちでひ弱なのか、単にアリスが早いのか。

 ここに来なきゃ良かったと思いながら、とにかく走った。

 そして着いてしまった。

 アリスの家と思われる家に。


 他の家と変わりのない簡易な土づくりの家。

 ほかの家と比べたら損傷は少ない。

 畑も荒れていない。作物は枯れ始まっているが、水不足によるものかもしれない。

 少なくとも、踏み荒らされた形跡はない。

 しかも耕されているあとがある。

 他のところと比べて、土が乾いていない。


 だからアリスの両親は、両親とはいかずとも、どちらかの親は生きている。

 そんな淡い期待を抱いていた。

 あれを見るまでは。

 

 アリスは玄関で立ち尽くしていた。

 声をかけようと近寄った。その瞬間。


「ぁ、ああぁ…」

 アリスは膝から崩れ落ちて、顔を手で覆って泣き始めた。

 慌ててかがんで、だいじょうぶかと声をかけた。


 だいじょうぶなものか。

 だいじょうぶなわけがないだろ。


 アリスの目の前にいる人がどういう状況なのか、幼いアリスにだって分かるだろう。

 自分の想像力の無さに腹が立った。

 とにかくアリスを慰めなくちゃと思った。

 けど、できなかった。無責任な気がした。

 胸に抱きしめようと思ってた手が宙で止まっていた。


 固まった黒い血の上に横たわる、アリスの母親と乳児の遺体が転がっていた。

 乳児のほうは……、男の子だとぎりぎり判別できる。

 日がたっているのか、唇と眼球は乾いていて、皮ふは青白く、ところどころ虫に食われて骨が見える。


 子どもが見ていいもんじゃない。

 実の身内ならなおさらだ。

 トラウマなんてレベルじゃない。

 2人の表情は苦しさで歪んでいて、怒っているような、泣き叫んでいるような顔に見えた。

 



◇◇◇


 その日はすごく青い空だったんだ。

 お父さんが、今日は暑くなるから早めに仕事終わらせるよって、

 だからお母さんが、早めにお食事の準備しなくちゃって

 エリーそろそろ起きて、ちょっと手伝って

 まだ眠たいから、ちょっとだけ、ってお布団から離れなかった。

 お姉ちゃんでしょ、しっかりしなさい、ペティが見てるよ

 なんて言うから頑張って起きた。

 畑から、お父さんに聞いて食べられる野菜もらってきて。


 そうお母さんに言われたから、行ったんだけど、

 お父さんに来るなって言われた。

 家に戻ってなさいって。お母さんに隠れろって言えって。

 怖い顔をしてた。初めて見た、そんなお父さん。

 怖くなって、すぐに家に戻った。

 カゴ、驚いて落してきちゃった。


 お母さんは、どうしたの、って聞いたから、お父さんがって

 お母さんが窓をのぞいたら、お母さんもお父さんと同じ顔になった。

 エリー、この中に入りなさい。

 ここ、野菜しまう場所だよ? 入ってかくれんぼしたら怒られたのに。


 いいから!

 中に入ると、狭くて暗くてかび臭かった。

 私にペティを渡して、お母さんも入ってきた。

 せまいよ、お母さん。

 ペティが泣いちゃった。

 お母さん、ペティの口を押えた。


 苦しそうだよ?

 今からは絶対にしゃべっちゃダメ。絶対。

 お母さんは、怖い顔でそう言った。

 ガタン、って上から大きい音が聞こえた。

 お父さんの叫ぶ声も聞こえた。

 何度もガンガン音なった。

 体中がガタガタなった。


 お母さんは、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 お母さんも震えてた。

 しゃべっちゃダメ。

 涙が出てきて、ノドが痛いよ。

 怖いよ。

 しゃべっちゃダメ……。



 静かになった。

 それでも、お母さんはずっと震えてた。

 まだなの?どれくらいしゃべっちゃダメなの…?

 

 虫の鳴き声が聞こえてくる。

 お母さんは、上の扉をそーっと開けた。

 私も出たいよ。ここは怖いよ。

 ダメ!


 お母さんは出てって、しばらく戻らなかった。

 寂しいし、怖いよ。

 お母さんがいないかも。

 私たち置いて、どっか行っちゃったかも。

 だから、そっと開けた。

 お母さんはいた。

 よかった。

 でもお母さんは泣いていた。

 なんだか丸いものを抱えて。

 暗いから見えない。

 まだしゃべっちゃダメなのかな…。




 気づいたら、朝になっていた。

 ペティの泣き声で目がさめた。

 もう出てきてもいいよ。


 家がキズだらけ、床は赤く濡れてて、

 そこにお母さんが立っていた。

 お父さんね、死んじゃった。



 ここにお父さんいるの。

 お父さんが天国にいけるようにお願いしてね。

 お父さんが育ててたオレンジの木。

 みんなでお祈りした。

 みんなで、お父さんの分までがんばっていこうね。

 そうお母さんは言っていたはずなのに。



 お母さんがどんどんしゃべらなくなった。

 ペティも元気なくなってきた。

 今日はこれくらいしかご飯ないの、ごめんね。

 お母さん、がんばってもお父さんがいないと全然ダメみたい。

 なんでお父さん死んじゃったんだろうね。

 お母さんはずっとそんなこと言ってた。



 みんなでお父さんのところに行こうよ。

 お母さんはそう言って笑った。

 お母さん、久しぶりに笑ってくれた。

 お父さんに会えるの?

 うんって頷いてくれた。

 いつ会えるの?

 今日会えるよ。夜になったらね。


 うれしかった。

 なぜか、ご飯がいっぱい出た。

 こんなに食べていいの?

 頷いてくれた。

 おいしい。うれしい。

 お父さんに会える。お母さんも元気になる。

 そう思ってたのに。



 星がきれいだった。

 今日、星がいっぱいあるから、お父さんに会えるんだと思った。

 あの星から、お父さんが来てくれるのかな。


 何見てるの?

 お母さんが隣に座った。

 お星さま。お父さんがまだ来ないの?

 もうすぐ来るよ。お父さん来るまで、お話ししよっか。


 お母さんはいろいろ話をしてくれた。

 お母さんの小さいころとお父さんの小さいころ。

 かくれんぼして一緒に遊んだこと。

 からかわれて泣いちゃったこと。

 ごめんねって謝ってくれて、花をくれたこと。

 いつの間にかお父さんの背が高くなって抜かされたこと。

 好きになったこと。

 お父さんがプロポーズしてくれたこと。

 私が生まれたこと。ペティが生まれたこと。

 お母さんはすごく嬉しそうだった。


 じゃあ、そろそろ行こうか。


 お母さんはお父さんのナイフをにぎった。

 ペティの首を切り、血が噴き出した。

 なんだか、よくわからなかった。

 ペティは苦しそうに、バタバタころがった。

 ペティじゃないみたいだった。

 転がるとき、血がピューピュー飛び出してくる。

 ペティを助けなきゃ。お母さん、助けて。


 そう何度も言っても、お母さんはなにもしないでペティを見てた。

 ペティは動かなくなった。

 私のほうを見た。

 お母さんだけど、お母さんじゃない。

 お面、、、

 にげなきゃ。

 にげなきゃ!



 走っていて、途中で足が震えて、ころんだけど走った。

 怖い、怖いよ……。

 外は真っ暗だよ。

 早くしないとお母さんじゃないお面のお母さんにつかまっちゃう。

 後ろを向いた。

 お母さんはおうちの畑に立ったまま、私のほうを見ていた。

 ずっと。私がそこからまた逃げだすまで。もしかしたら、逃げ出したあともずっと。

 暗くてわからないけど、お母さんはきっと、私のこと嫌いになったと思う。


 ごめんね、お母さん。

 私、悪い子だね。

 お父さんは、もうこっちにこられないんだね。

 お母さんに、ちゃんと天国に連れていってもらえばよかった。

 にげてごめんね。




 頭が痛い。

「アリス、だいじょうぶ?」

 私はアリスじゃない。エリー。

 おうぞくって言ってた。この人がおうぞく。


 うらむなら戦争はじめたおうぞくをうらめよ。

 俺は、みよりのないお前をたすけようとしているんだ。


 私をつかまえた人が、そう言ってた。

 戦争したから、お父さんが死んじゃったの?

 この人が戦争しなければ、お父さんは生きてたの? お母さんとペティは?


 この人がにくいよ。

 今すぐやっつけたいよ。

 でもやっつけられなかったよ。

 ごめんね、お母さん……。

 悪い子で、弱い子で、ごめんね、お母さん……。

 

 だから、お父さんのナイフ。

 おそくなってごめんね。

 今からそっちにいくね。

 怖いけど、逃げちゃったけど、今度こそ、ぜったい


「アリス!」

 ナイフは手から落ちた。

 手がじんじんする。

 この人、なんでこんなに私のじゃまするの……。


「アリス、聞いてくれ」

 おうぞくの人は私の手を握った。

 振りほどいた。

 触らないで、って言ったのに、やっぱり私の声は出なかった。


「聞くんだ!」

 びくっとなった。怖い。

「いいか、戦争が君の家族を奪った。君だけじゃない。君の友達も、近所の人も、君の知らない人も、大勢だ」

 知ってる。やっぱりそうなんだ。戦争が、お父さんを殺したんだ。


「だから、戦争をなくそう」

 おうぞくの人は、また私の手を握りしめた。

 手が、やさしかった。

「俺は約束する。この世界を戦争のない平和な世界にする。でもそのためには、君の力が必要なんだ。」


 私なんか、何ができるっていうの?

 首を横にふった私の顔を、ほっぺたに手を添えて止めた。

「お父さんとお母さん、弟君がいなくなって悔しくないのか?」


 くやしい…。くやしいよ。

 でも、どうしたらいいの。

 私、弱い子だよ。なんにもできないよ。

「だいじょうぶ。俺を信じろ」

 おうぞくの人は、私をじっと見つめた。

 お父さんに似てる。

「君がここで落とそうと思っていた命、俺にくれ」

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