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王族に生まれたので王様めざします  作者: 脇役C
第一章 幼少期

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第9話「少女を助けました」

 小学校のころを思い出した。


 父親も母親も帰ってこない時期が続いて、冷蔵庫の中身もなくなってきていた頃。

 給食は安らぎの時間だった。

 そんないつもの給食の時間、

 俺も知らないことを、周りのやつらってどうしてそんなこと知っているんだろうな。

 他のやつらと同じように、カレーをおかわりしに行ったら、

「給食費払ってないやつがおかわりするんじゃねーよ。てゆーか給食食うなよ、ただ食いじゃねーか」

 クラスに1人はいるだろう、クラスの中心人物的お調子者がそう言ってきた。


「でも金がないんだからしょうがないよな。しかたねーから俺のマカロニサラダやるよ」

とか言って、カレーの中にマカロニサラダをぶっこんできた。

 先生はそんなことするんじゃないとか注意したけど、やれやれ仕方ないなという顔をしていた。

 急に自分がみじめに思えて、周りが全員敵に思えた。自分を消し去りたいと思った。

 目の前にいる元凶であるやつの顔に、お椀ごとカレーを顔面にかぶせた。

 おまけにカレー入り寸胴を蹴飛ばしてやった。

 カレーをこぼしながらゴロンゴロンと転がる光景と音は、未だに鮮明に思い出せる。


 消したい過去のTOP3に入る思い出だ。


 あの時は、みじめなほど腹が減ってた。

 腹が減っていると、感情が抑えきれなくなるし、卑屈になる。

 でも食べるものはあった。

 カレー入りの寸胴を蹴飛ばすくらいの余裕もあった。




「いかがですか」

 振り向くと、先生がそこにいた。

 民に扮したと思われる衣装でも隠しきれない、気品さ。

 この枯れた土地とのミスマッチが際立っている。

 明らかに、”恵まれた側”の人だ。

 そして今の俺もそうなんだろう。


「殿下、これがこの国の現状です。そしてこの現状も、この国の一面に過ぎません」

 先生は悲しげな顔をしている。

「先生…、先生のマジカでこの人たちを救えませんか。僕の家庭教師の時間を、この村の人たちのために使ってくれませんか」

「それは無理です」

「なぜ?」


「私のマジカで仮に、農作物を生やさせたとします。でもそれは、私のマジカでエネルギーを補って生えているわけです。 私が供給をやめた瞬間に、作物は枯れ始めます」

「でも、それでも一時の飢えを癒やすことはできるのでは?」

「一時の飢えをしのいで、そのあとはどうするのですか?

 私が魔力が尽きるまで走り回っても、この国の数%も満たせません。

 目の前の対処をしても、民は救われません。

 この国と民自身が、乗り越えていかなければいけない問題なのです」


 ふと、ピューリッツァー賞を受賞した有名な写真を思い出した。

 飢えのために痩せこけた少女が、とうとう力尽きてうずくまり、その背後から、ハゲタカがその少女の死をジッと見つめ待っている。

 なぜ、その少女にパンを与えなかったのか。

 世界から、写真家にそんな批判が集まったらしい。


 しかし、この写真のおかげで飢えに苦しんでいるこの国に注目が集まって、多くの子ども達が救われた。

 実際、この写真家は写真を撮ったあとに少女を助けたらしいし、写真で世界に訴えかけることで大勢の飢えを救った。

 しかし、その写真家は自殺した。


「……王は、国は、どのような施策をおこなっているのですか」

「水系魔術師の全国派遣です」

「戦争で人手が足りてないと聞きましたが」

「そうですね」

「戦争の前に、国内の生産を安定させるべきでは?」

「この土地は、水不足以前に農作物が育ちにくいのです。

 王はこの土地に見切りをつけ、魔族が住んでいる肥沃な土地を狙っています。

 そのために、このカルデラ内の三ヶ国を統一、富国強兵を目指しています」


 カルデラ……、高校のときの授業で習ったような。

 たしか、山の噴火口とか、そんな感じだ。

 噴火口が何らかの理由で凹んで、そこに平原ができたり湖ができたり。

 その山にできた凹みに俺たちはいるのか。


 火山灰の土質は農業に向かないという話を地理の先生がしていた気がする。

 日本でも、最近まで農作物が育たないと言われ、避け続けられていた土地だった。

 それを化学的に解決して農作物あふれる土地に変えたのだそうな。

 マジカといえども、土の性質を変えたりはできないのだろう。

 そうなると、違う土地に乗り換えるというのは妥当なのだろう。

 王にとっては。


「どうしました?」

 先生は心配そうに尋ねた。

「いえ、王は王なりに、国民のことを考えているようで、安心しました」

 色んな人がそれぞれの立場で、その人なりの信念を抱えて生きている。

 まだ、俺は信念も知識も力も何も持っていない。


「そろそろ城に戻りますか?」

 先生としては、俺に見せたいものを見せたのだろう。

「まだ行きたい場所があります」

「わかりました。では」

 そう言って先生はつたに絡まれて消えてった。

 忍者かよ。




 街に来たメインの目的は、マジカが使えないというハンデを補うものを探し出すことだ。

 今日1日で見つかるとは思えないが、少しずつでも何かを得なくては。


 地図を開く。

 これは先生のオリジナルなのだそうな。

 自国の領地は知っておいたほうがいいだろうということで貸してもらっていた。

 すごいよな。手書きだぜ、これ……。

 まさか伊能忠敬よろしく、踏破して書いたのだろうか。

 いや、マジカで上空から書けるか。


 今日の目的場所は、その地図にかかれている噴火口だ。

 カルデラだから、火山活動は終わっているのかと思ったが健在らしい。

 そこに目的のものがあるといいのだが……、まああまり気負いせず、地道にやろう。


 目的地に向けて歩いて行く。

 平地ばかりが続くが、まだだろうか。

 この地図は方角がないのが欠点だな。コンパスもない。

 城と教会っぽい建物と小高い山の位置を考えるに、この方向で合っていると思うのだが。


 そんなふうに思いながら歩いていると、住宅街が現れた。

 あれ……? 農村を抜けると国境までは人が住んでいない平地が続いているはずなんだが。

 道を間違えたか。

 しょうがない、街に入って現在地を確認しよう。

 そう思って街に踏み入れたところで、


「そいつをつかまえろ!」


 目の前から、追いかけっこしてる大人の男と子どもが迫ってくる。

 子どもはほとんどボロとしか思えないすり切れた服を着ている。

 大人の方が、もんぺにチョッキみたいな質素な服だが、農村の人よりは身なりがいい。

 どう見ても親子の追いかけっこには見えない。無銭飲食でもしたのだろうか。

 めんどうだから関わり合いたくないな。


「………!」

 子どもは俺の背後に回り、ぜーぜー息を切らしながら、裾をつかんだ。

 え? 助けろってこと?

 後ろを振り向くと、目があった。

 泣きそうな目で、助けてと訴えてくる。

 いやいや、今の俺は5歳児だよ? 助けられると思ってんの?


 前に向き直ると、男は俺をにらみつけている。

「こりゃいい。売りもんが2つに増えたぜ」

 売りもん? 2つ? 増えた? ぜ?

 …………。

 人身売買か!

 そして俺も対象内なわけか!


 ど、どうする?

 逃げるかな……。

 いや、そしたらこの子を見捨てるということになるな。

 この子は体力限界っぽいし、一緒には逃げ切れないだろう。


 うん、戦おう。

 いつまでも戦いを避けていたところで、いずれこの長い人生、どこかで戦うことになるんだ。

 子どもと追いかけっこしてるくらいだから、マジカによる身体強化もそれほどではないだろう。

 俺が商品なら、殺さないようにはしてくれるだろうし。

 いざとなったら保護者(先生)もいる。

 いるんだよね? もう颯爽と現れて倒してくれちゃってもいいんじゃない?


「2人とも、おとなしくしてろよ」

 男が迫ってくる。

 予見眼で相手の動きを見る。

 完全に俺のみぞおちをロックオンしてきてる。

 木剣を抜く。


「お、やる気かよ? そんな木の剣じゃ、かすり傷にもならねぇぞ?」

 相手は木剣を見るなり、手に火を灯す。

 脅しだ。

 予見眼のおかげで、相手の本当の狙いが分かる。

 左手の火に注意をそらして、やっぱりみぞおちに一発いれる気でいる。

 商品相手には、火は使えないもんな。


 相手が動く。

 あの王子より遅い。一般男性並みのスピードだ。

 これならいける。

 いや、やる。


 思いっきりかがんで、木刀を横に振りかぶる。

 狙いは、男の踏み込む右足だ。

 予見眼の、動きの起点となる右足の像。

 その像と実際の右足が重なる直前に、木刀を薙いだ。

 木刀は右スネに当たった。

 男は勢いそのまま、足場を失い盛大にぶっ転んだ。

 そのまま男の後頭部に木剣を振り下ろす。

 ※よい子は真似してはいけません。死人が出ます。


「うがぁぁ」

 男は後頭部と右スネを押さえながら転げ回っている。

 5歳児の力でも、かなり痛いに違いない。

 思ったよりきれいに成功した…。

 相手が身体強化系じゃないのに、気絶させられなかったというのが不安ではあるが。


「今のうちに逃げるぞ!」

 子どもの右手を握り、走り出す。

 周囲には人だかりができていた。

 これだけ人がいれば手は出してこないだろうが、仲間に目をつけられる前に逃げないと。




「たぶん大丈夫だろう」

 後ろを振り返る。追ってくる気配はない。

 路地裏をだいぶジグザグ走ったし、こちらの位置は分からないはずだ。

「……ハァハァ」

 子どもは膝に手を当て前にかがみ、苦しそうに息を整えている。

 右手で汗をぬぐい、暑そうにして目元までかぶっていたフードを脱いだ。


「!!!!?」

 ビックリした。

 女の子だった。

 しかもとびきりかわいい。

 サラサラとした銀髪にパチクリとした目に長いまつげ、整った鼻立ちに幸薄そうな控えめな唇。

 ガラス張りのショーケースに入れて飾りたいレベル。

 あの人身売買男が必死になって追ってきただけある。

 今の俺と同じくらいの年だろう。


 危なかった…。

 女は小学校にあがるまでが旬とか言っているロリコン野郎の慰み者になるところだった。


「無事でなにより」

 俺は努めて、5歳児が見て安心できる笑顔をイメージして笑った。

 少女は急に服の裾にしがみついて泣き出した。

 そりゃあ怖かったよな……。

 二回りも大きい大の男に、怒鳴られながら追いかけられる。

 よく俺に会うまで逃げられたもんだ。

 足がすくんでもおかしくない。

 捕まったりなんかしたら……、想像するだけで可哀想で涙が出てきた。


「殿下、おつかれさまでした」

 先生が屋根の上から降りてきた。

 やっぱり上からくると、ちょっと足がすくむな。

「助けに入ってくれるかと思いました」

「殿下が戦闘態勢に入ったので、お邪魔かと。相手は殺す意思もなかったですし」

 先生は、たいしたことがないというような感じで言った。

 実際、客観的に見ればたいしたことのない場面ではあったのだろう。

 俺は結構びびってたが。


「初勝利おめでとうございます」

 先生はうやうやしく頭を下げた。

 そうか、夢中で全然意識してなかったけど、初勝利か。

 王に認められるにはまったくもってほど遠いが。

 だが、この体で勝てる日が来るとは思わなかった。

 大きな一歩を踏み出せたと思おう。


「先生の教えのおかげです」

 頭を下げる。

「殿下の努力の成果です」

 先生はにこりと微笑んだ。

 そして、すぐに表情を戻した。


「奴隷を助けたのですね」

 先生は少女に一瞥する。

 この子が奴隷……、そうなるのか。まったくすごい世界だ。

 少女はビクッと震えて、俺の後ろに隠れる。

 小動物みたいでかわいいじゃないか。

 こんな子が奴隷なんて……、それはそれでアリだな。

 いやいや、ないだろ!


「先生、この国には人身売買がはびこっているのですか」

「そうですね」

 先生は平然と肯定した。

「今からあの男を追って、組織を壊滅させませんか。人身売買なんて、許されるはずがない」

 先生なら軽くできるだろう。1人だが、俺でも倒せるレベルだ。

 王族になる前でも、少しでも国が良くなることでもやっておこうかね。


 そんなことを思っていたから、先生の返答はまったく予想外だった。


「いえ、やりません」

 迷いもなく、即答だった。

 やれません、でもなく、やりません、だった。


「え? なぜです?」

「殿下もごらんになったでしょう。この国では大人も生きていくのが困難です。大人でもそうなのに、子どもはどうでしょうか?」

「つまり、人身売買は必要悪だと……?」

「まだ体が健康なうちに確保され、労働の対価に衣食住が提供されます。人身売買は、この社会が生んだ必要なシステムなのです」


「その労働というのは、死んだ方がマシと思えるような過酷な労働や、……売春なども含まれるはずです。自由を奪われ、いや自由どころか、人としての尊厳を奪われるんですよ?」

「自由も尊厳も、生きていてこそです」

 そして先生は冷たく言い放った。


「その少女を、先ほどの売人に受け渡すことをお勧めします」


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