冒険者の格(ランク)
「それで、二人して角突き併せて、何を話していたんですか?」
リーンの問いに、俺はカイゼンさんの方を窺う。
「大丈夫ですよ。ギルドの告知は今日中に行われますし、窓口でも既に個別で警告の発信はしていますから」
なら大丈夫か。一つ頷くと、顎を掻きながら二人に向き直る。
「お前ら、最近『盛り場』に行ったか?」
「いくわけ無いじゃん、あたしらの狩場は大分前から『ケーニッシュ深殿』だよ」
「私達の編成格は中級下位ですから」
ファネシがどうだ!と言わんばかりに手を腰に当て、物足りない部分を反らし、リーンが捕捉する。
「そういやあ、そうだったなぁ…」
冒険者の格付けには大分して、特級、上級、中級、下級となっていて、その中で更に上位、中位、下位に分かれる。
発見済みのダンジョンはほぼ全て、ギルドの調査によって難易度別に推奨ランクと言うものが公表されている。
『ケーニッシュ深殿』は中級下位から中位の推奨となっていた筈だ。
そしてランクは更に二種類に分かれる。単独格と編成格だ。
要は個人での戦力と、仲間との集団戦闘力で別個に判定され、ギルド証にも記載されるんだよ。
パーティランクは、パーティとして正式登録した冒険者集団に振られるもので、長くパーティを組んでないとランク付けが抹消される。
俺のパーティランクが消えたのは、確か十二年前だったかな?
でまあ、このランク付けだが、一つは依頼の達成率。数だけでなく、種類も問われる。
二つは討伐した魔物の数と質。こいつはギルドに魔物素材を売却した時にのみカウントされるので、個人取引とかした場合は考慮されない。
三つは、ダンジョンからの生還率。ダンジョンに潜っても高い確率で生還できるなら、そりゃ信頼度も上がる。これもダンジョンに潜る時の申請書類を提出して無いと、参照されないけどな。
上記三つの項目でギルドで検討後、仮認定を告知されて昇格試験を受けるかどうか訊われる。それに合格する事で、晴れて格上げとなる訳だ。
じゃあソロランクとパーティランクはどっちを信頼すればいい?と聞かれたら、まず大抵の奴はパーティランクの方だと応えるだろ。
一対複数でやって、どっちが勝つか考えたら自明の理だ。…普通ならな。
例えば上級のソロなら中級のパーティを一人で叩き伏せる実力者もいるんだな、これが。
それ位、上と下の実力差が激しく、また昇格が容易くない事を示してもいる。基本は強さが全ての業界だからな、どっちが信頼できると聞かれたら『同ランクならパーティの方だ』と答えるのが正しい。
とまれ、それは置いといてだ。
「ゴブリン共の『繁殖』が確認された、つーか、して来た」
俺の言葉に、二人の少女の顔色が変わる。
「げっ、それって」
「……」
ファネシは白地に嫌悪感を示し、リーンは形のいい白い眉を微かに蹙めるという差はあったが。
女性冒険者にとって、異種交配が可能な魔物種は嫌悪と憎悪、そして恐怖の対象だからな。
こいつら二人にしたって、パーティとしてならゴブリンが何十匹来ようが蹴散らせるだろうが、単独の時に襲われたら詰むだろう。ソロでは確か、中級にまだ届いてない筈だ。
「だからま、暫らくはダンジョンの外でも気をつけとけ。ソロでうろちょろするなよ」
「…分かった」
「分かりました。皆にも伝えておきます」
先ほど迄の俺に対する怒りも忘れ、神妙に頷くファネシと、今後の事を考える冷静なリーン。
「おう、そうしてくれ」
俺は破願してリーンの尻を撫でた。
殴られた、リーンに短杖で。痛い。
何でだ、俺は重苦しくなった空気を払おうとちょっと巫山戯ただけじゃないか。つーかいつ腰から抜いたんだ、全然見えなかったぞ…油断ならねぇ。
俺のお茶目に、再びファネシの沸点が振り切れ、カモシカの様な足が俺の腰目掛けて蹴りを繰り出してくる。
そして始まるギルド内鬼ごっこ。
カイゼンさんが溜め息を吐いて書類を片付け始め、他の同業者たちはどれ位で俺が捕まるか賭け始めやがった。同業者甲斐の無い奴らめ。
いや、俺も他人事なら同じ事するけどさ。
「…馬鹿」
小さな少女の呟きは、故に喧騒に紛れて誰にも届く事はなかった。
もうちょっとサクサク投稿していきたいですけど…中々ままなりませんね(´・ω・`)