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クローズド クロス  作者: 柊 祈
一章 カースティア王国の冒険者
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現状と豊かじゃない何か

 早朝(といっても世間様では既に昼前)に定宿の部屋で起床した俺は、食堂でのんびり朝食兼昼食を取ると、その足でギルドに向かった。

 昨夜、予定より早くダンジョンから帰還して、『子鬼の盛り場』の現状を一応の義理で報告したんだが、詳細な記録を取る為にもう一度来て欲しいと、面倒臭い事を頼まれていたからだ。

まあ、現状だと駆け出しは無論、下手すればソロなら中級者でも未帰還者のリストに載り兼ねんので、冒険者ギルドから正式に探索自粛宣言を出して貰った方がいいだろうしな。


「そうすると、一層辺りまでならば危険度はそこまで無いのですね?」

「ああ、二層も深入りしなけりゃ、あの構造だから定点狩りでもそこそこの稼ぎになるだろうよ。ただ、繁殖してるとなると外から新しく来る奴と挟み撃ちに――」

 受付傍の雑事卓を使ってカイゼンさんと、昨夜の実体験と可能性について書式に纏めていると、不意に背後に平坦な殺気を感じ取る。

即座に軸足を引き半回転で立ち位置を半身ずらし、置き土産とばかりに右腕を横に伸ばしておく。

 恐らく、俺の背中を突き飛ばそうとでもしたのだろう、両手を思いっきり前方に伸ばし突っ込んできた人影の丁度脇の下付近を通って、俺の腕はそれを受け止めた。

「どーんっ!って、あれ?」


 満面の笑顔から一転、行動を空かされて戸惑うのは、肩位までのショートな赤髪に前髪を小さなヘアピンで纏めた、十代後半ぐらいの少女。動きやすい短衣チュニック、腰から太腿までぴっちり張り付くような下衣スパッツ姿で、簡素な皮の胸当てに腰当、吊るした大振りの短刀ナイフを身に着け、背中には黒塗りの短弓よりは大きく、長弓ほどでは無い弓と、矢筒を背負っていた。

「お、前より成長してるじゃねえか。だが残念だな、俺の好みは掌に余る以上だ」

「うわひゃぁ!?」


 胸当て越しなのが残念な、掌にすっぽり収まる程度の柔らかな脂肪をモミモミしてやると、素頓狂な声を挙げて少女は後ろに飛び退く。

「ばっ、ばぁか! すけべっ! 変態! おっさん~!!」

「その通りだが何か? あ、馬鹿は一応否定しておこう。お前さんよりは賢い心算だぞ、ファネシ」

「あたしの名前はファネシアだ! 変な所で切るな!」

「じゃあファネでいいか? でも響きだと羽に聞こえるな。ってことでお前今日からハネな?」

「最後まで言えばいいでしょうがっ、なんで更に短くすんのよ!?」

 胸を庇う様に両手で抱き、顔を真っ赤にして喚き散らす小娘をからかっていると、隣から溜め息交じりの声が追加される。

「だから、アンタがタタリさんの背後ウラ取るなんて無理だからネーア。あ、どもタタリさん、うちの馬鹿がお世話になってます」

「何、構わんよ。元気な若者は大歓迎だ。こっちの方もそれなりに楽しませて貰ったんでな」

 わきわきと、右掌を閉じたり開いたりして見せると、相手は未だ怒り狂ったままでいるファネシアに向けて頷いてみせる。

「だって。良かったわね、ネーア」

「良くないよ!? 今の会話の何処でそうなるの!!」

 ギャーギャー喚き出し、普段の愚痴まで雑じり始めた遊撃士レンジャーのファネシアを、慣れた風にあしらいつつ宥めるのは、確か同年代である筈の女魔法士ソーサレスのリーンケティ。

 歳は同じ筈なのに、ファネシより高い長身と、ほっそりしながらも胸だけはどんと前に自己主張した躰を灰色のローブで包み隠し、黒のケープを肩に掛けた落ち着いた佇まいで、かなり大人びて見える。腰には魔力発動体であるワンドを差していた。

 白髪で赤眼、いわゆる色素異常アルビノの少女だが、この手の人間はその代償のように生まれつきの魔力素養が高いので、大抵は魔道の道に進む。

肌もやたら白く、眼と一緒で太陽光や強い光に耐性が低いので、魔法防護を掛けた服や防具が手放せないのも理由の一つにはなるのだが。

 何でって? 魔法使いの師匠に弟子入りすると、基本的に簡素な魔法のローブとか支給して貰えるからだよ。

魔力素養が高いのが分かってるから、弟子入り希望された方も滅多な事では断らないしな。偶に偏屈もいるけど。

 あと王都にある魔法学院とかでも同じようなものだが、流石に国直轄機関だけあって支給品のグレードも高いらしいぜ。

あそこで学ぶのは専ら貴族の子女だが、入学試験で実力を示せば平民でも入学できる。立身出世の方法として平民の希望の一つでもある。

卒業すれば大抵、国仕えや、在学中に気に入られた貴族お抱えになれたりするから。


 ん、俺の魔法クリエイトゴーレムか?

 あれはうちの爺様直伝の奴だ。なんでも昔、どこぞの傭兵団にいたらしいんだが、そこで魔法部隊の指揮を取って居たんだと。引退して娘夫婦のいる俺の故郷で謐かに息を引き取るまで、大分可愛がって貰ったもんだよ。

 偏屈の糞祖父だったけどな。俺は嫌いじゃなかった。


 と、話が外れたが、ファネシアとリーンケティ。

 二人は、このノクトルクの町出身の若者六名で構成されたパーティの一員だ。

パーティー名はなんだったか…ああ、そうだ、『ルクの風』だったか。…パーティー名とかさ、正直真顔で言ってて恥ずかしくないのかと、この歳になると思うのだが。

まあ、若いっていいよな。誰しも通る道さ、うん。

 おっきい方が好みです。


タタリ「おっきい方が好みです」


 ふたりはたがいにてをとりあった。

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