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クローズド クロス  作者: 柊 祈
一章 カースティア王国の冒険者
7/15

ダンジョンとお宝

「さて、行くか」

 小休止を終えて、ダンジョン踏破の為に三層へと進む。

 ゴブリンに関しては、この現状の報告をギルドに上げれば、後の義理は無い。捜索依頼はかったるいし、色んな意味で今更手遅れだろうし。

掃討、駆逐、駆除に類する依頼として報酬別途危険手当が付けば誰かしらやるだろ。若いのには、そういう『正しい事』が好きな連中も居るからな。

 ああ、ちなみに、まともに捜索依頼として掲示すると、余っ程の御人好ししか受けないんだよ。

『捜索』ってしちまうと、対象の安否確認が取れるまで報酬貰えないから。駆除とかにしとけば、探しながら倒した分だけ部分報酬あるし、普通は期間も限定だからな。


 『子鬼の盛り場』は三層からがメインになる。

 一層は、入り口から大体一本道、傍道も多少あるが迷い様も無く、普通はゴブなんて一組二組かち合えばいいほうだ。

 二層も似たようなもんだが、元が倉庫だけに小部屋が幾つか付随する。普段なら三層までに十組も遭遇しない筈なんだが、今はアレな理由で既に二十組近く蹴散らしている。

いい加減、腰につけたゴブ耳入りの皮袋が重くなってきたので、馬土偶像クレイホースゴーレムの造形弄って胴体に穴を空けて放り込んでおく。


 そして三層。基本、ここの構造は上から見て物凄く大雑把に言えば『回』の形になってる。

中央にデッドスペースがあって、その周囲を二つの回廊が巡り、適当な位置で繋がって、大外に等間隔で、倉庫の面目躍如っぽい大部屋が連なっている構造だ。

 とはいえ、見に行った所でそこには何も無い。何しろ遥か古代といってもいい魔族時代の遺跡だ。

魔族が綺麗に処分していったのか、竜か妖精の時代に誰かが回収したのかは知らんが、ともかく何も無い。

 今の状況なら、ゴブリン辺りは居るだろうがな。


(・・・って、そうか。うわぁ、めんどくせぇ)

 自分で考えておいて顔をしかめて語ちる。

 そうだよ、今、ゴブ連中が大繁殖真っ盛りなんじゃないか。上でアレなんだから、三層から下には更にうじゃうじゃ出てくる筈なんだ。

 ゴーレムを使っているとはいえ、基本的に俺がソロだという事を忘れちゃならない。ゴーレムも俺が操っているんだ。ゴブが雑魚とはいえ、挟み撃ちされやすい場所で、手数の不利は面白くない。

 俺の防具、軽装だからな。素材はそこそこだけど、分類としては革鎧ハードレザーアーマーだし、動きを阻害しないように露出も多いし。下手な鉄鎧アイアンメイルより頑丈ではあるんだけど。

(ま、ここまで来たんだ。せめてあそこには寄っていこう)


 デッドスペースを四分の一ほど東に回りこむ。案の定、また足音に釣られて出るわ出るわ。

「くそ鬱陶しいっ」

 ゴーレムを回り込んできたゴブリン二匹を、右手の洋剣サーベルで撫で斬り、薙ぎ払ってきた棍棒を、左手の護拳付き短剣で受け流し、体が流れた所に刃を押し当て、挽くように切裂く。

ぱっくり裂けた頚部から血が噴出し、慌てて首を圧さえるそいつを踏みつけ、心臓を一突きにする。

 背後では馬土偶像クレイホースが後ろ足で蹴り飛ばし、石偶像ストーンゴーレムが両腕を延ばして独楽の如く回転しながら薙ぎ倒していく。

 前方は最後の一匹がゴーレムの顔面パンチを喰らって、頭部の厚みを半減させながら吹っ飛ぶ所だった。



 回廊一面、ミンチの海。

(うへぇ…、耳探し面倒そう…でも勿体無いからなぁ)

 ダンジョン内では、死体は放置して一定時間たつと魔力に分解されてダンジョンに『喰われる』。肉とか毛皮とか骨とか、素材になる部位は解体して確保しておかないと残らない。

 魔物や人が身につけた服とか装備品とかは丸々残るので、場所によっては『そういう稼ぎ方』をする連中も沸く位だ。

尤も、その手のは大抵ギルドから上級冒険者に討伐依頼が出るので長生きできないが。それでも世の中、巧くやる奴は居る訳で。

 ばれさえしなければ、死体も失くなり完全犯罪だからな。後は盗品を流すルートさえ確保していれば稼げる。


  粗方回収し終えた所で、早い順に死んだ方から死体ゴブリンが消え始めた。

馴染みの光景なので気にせず、目的の場所に立つ。

 一見なんの変哲も無い、デッドスペース側の壁面。表面を右掌で撫でるようにしていくと、僅かに感じる凹み。押し当てて、魔力を流してやる。

 魔力操作の技術は、別に魔道士でなくても使える。生物は多かれ少なかれ魔力で肉体機能の補助をする為、戦士でもまったく魔力が無いなんて人間は居ない。

 暫らく魔力を通していると、キュウンと微かに耳鳴りのような音が響き、目の前の壁が存在感を失っていく。

壁だった部分には、大荷物でもらくらく通れそうな入り口がぽっかりと姿を現していた。

このダンジョン唯一の、隠し部屋である。


「おぉ・・・沸いてたか」

 ちょっとした大きさの一室。壁には処々に孔が開き、何かが繋がっていたと思われる痕跡が随所にある。そこからガスの様に、目に見えない魔力が少しずつ漏れ出す。

 そして部屋奥の隅っこ。一抱えありそうな箱が、ぽつんと一つ、場違いなように安置されていた。

「銅の箱か? 珍しいな」

 ようはダンジョンのお約束、宝箱。お宝である。


 宝箱とは、ダンジョンが侵入者を誘きよせる為の一種の『撒き餌』だ。

 研究者が言うに、内部に侵入した者達の知識を少しずつ盗み見ているらしい。一定以上知識を溜め込むと、そこから餌となる侵入者が好みそうな物を『創生魔法クリエイトマジック』によく似た何かで作り出すのではないか、と。

 ただ、魔力のみから物質を作り出すような術式は、普通行使できない。アホみたいな魔法力を持つ竜族ですら不可能である。故に神の御業の領域と言われる。


 つまり俺達の欲しがりそうな物を置いて、ほいほい釣られて来た所を魔物に始末させて魔力を頂こうという魂胆なのだが。

それが分かっていて、冒険者はほいほい釣られて行く。死ななければお宝が手に入るんだ、そりゃ行くさ。


 で、肝心のお宝だ。

 まず外見だが、中身の稀少さに比例する。最低品の屑鉱石とか、空き瓶とかだと皮袋。箱ですらねぇ。

そこから木の箱、青銅の箱、銅、鉄、鋼、銀、金、魔銀ミスリル黒鉄鋼ダマスカス蒼魔鋼アダマンタイト…眉唾だが、最上位は神鉄オリハルコンまであるらしい。

 当然中身はお宝だが、実の所箱自体も持ち出せる。ドワーフ連中とかは、中身の変わりに箱の方をよく望んだりする。金属加工に長けた妖精族だからな。

 そして希少さは、そのダンジョンが保有する魔力量に左右される。普段の『子鬼の盛り場』だと良くて青銅が百回に一回くらい見ればいいほうだ。

最近、ゴブリンが狩られまくって、一時的にここの魔力が増えたせいで銅が出たんだろうな。


 ちなみに、宝箱には大抵鍵が掛かっている。これは木箱から共通。偶に罠があるのも。

皮袋? 鍵つけてどうすんだよ、と言う空気をダンジョンも読むらしいよ。

 なので俺はいつも、ゴーレム使って物理的に破壊する。今もメキメキと音を立てて箱の蓋がこじ開けられている所だ。罠があってもこれなら俺は無事だ。離れて見てるからな!


「…魔道具、か。安モンだが」

 中身は、一見すると黒い鉄の棒。

だがこれを水とか液体に浸けて置くと、キンキンに冷やしてくれるという物。酒場とか食堂とかでよく使われてる奴だ。

尤も、あれはこれの原理を解析して作られた複製の量産品で、性能とか耐久性はこのオリジナルが勝る。

だからといって、代用品がもう出回って居れば大した価値も無いんだよな。

 寧ろ、銅箱のほうが高く売れるよなぁ、これ。

「ありがたく頂いていこう」

 箱ごと魔法袋に放り込み、来た道をさっさと取って返す。時間経つと外からどんどんゴブが招きよせられるだろうからな。

案の定、一層に着いた辺りで殲滅した筈のゴブが居り、駆除する羽目になった。面倒くせぇ。

 五層程度しかないダンジョンすら踏破出来ない冒険者はこちら。


タタリ「やかましい。数が多すぎるんだよ、ソロは無理をしないの」


 へたれ。


タタリ「慎重なだけだろが」

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