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クローズド クロス  作者: 柊 祈
一章 カースティア王国の冒険者
6/15

殺し、殺される事

 鞘走った刃が標的を貫く。

「ゲジャッ!?」

 ゴーレムに棍棒を振りかぶっていた一匹の、驚愕に刮目かれた右眼球から入り、眼底を抜いて脳幹へと至る切っ先。

それをくっと捻ると、残された左目がぐるりと白目を剥き、洋剣サーベルを引き抜くと同時に膝から崩れ落ち、痙攣する。

 そこで俺のする事は無くなってしまった。


 襲ってきたのは、四匹の集団だったらしい。

 残りは一匹がゴーレムの拳にどてっぱらを打ち抜かれて壁に吹っ飛び、二匹はもう一方のゴーレムにアイアンクローならぬストーンクローな感じで顔を掴まれ、同時にくしゃっと頭蓋を握り潰されていた。


「ガキには見せらんねえ絵面だわこれ」

 色々と飛び散らせて形容しがたい残骸になっている死体ゴブリンに近寄り、その中から形を保った片耳を取り上げ、軽くナイフで余計な物を削り落としてから普通の皮袋に納れる。

 一見何の役に立ちそうも無い部位だが、乾燥させて磨り潰して粉にすると、ある種の薬の材料になるので、ギルドに持っていけば買い取ってくれる。銅貨一枚と安いが。

 こんな物にまで利用価値を見出す人間の貪欲さは底が無い。


 ある種の高貴な(と自分で思い込んでいる)妖精族には、この欲深さを蔑視て、人間族の片割れである人族が下等種である証明だと吹聴する一派が存在する。

そして、聡明で偉大な自分たちの種族こそが、下等種である人間族を率え、管理する使命があると真顔で言ってのける。馬鹿じゃ無いのあいつら。

 ちなみに、獣人族は『獣と交わった妖精の面汚し』だとか『汚物』とか言い放ち、おかげで種族間の蟠りが酷い。死ねばいいのにあいつら。

 奴らが主流派で無いのがせめてもの救いだよ、本当に。


 何故猫耳と猫尻尾の良さが分からん。

 何故犬耳と犬尻尾のもふもふさが分からんの。

 何故兎さ耳おねーさんを愛でたい気持ちが分からんのか。

 何故狐耳おね――


「オーケー、落ち着こうか俺。そうじゃない」

 思わず憎悪と欲求が内心に迸ってしまった。

 隠れ獣系愛好教徒ケモナーである俺にとって、奴らは仇敵にも値するから仕方無い。

でも今はダンジョンの中だからね、油断してるとゴブリン相手でも普通に死ねるから。

特に弓の扱いに長けたゴブリンアーチャーには、中級冒険者でも射殺される事がある。

 いつの間にか脱線していた思考を軌道修正している間にも、ゴーレム三匹(石人形二匹、土馬一匹)を供にした蹂躙行パーティは進んでいく。

 え、数え方の単位がおかしい?

いいんだよ、長年こいつらを愛用してると、なんとなく愛着がわいてくるんだよ。なんかペットみたいな感じで。


 一層を軽く抜け、二層に至るまでに石偶像ストーンゴーレムが立てる足音に釣られ、何組ものゴブリン達を駆逐していく。

正直こっちの火力がオーバーキル過ぎて、ゴブリンが憫れに見えてくる。でも手加減はしない。こいつら害獣と同義だし。


 魔物の祖は、かつて『揺り篭の迷宮』から溢れ出た魔物達だと言われている。

 竜族が繁栄した時代も一部は居たらしいが、竜の戦闘力の前に見敵必殺の精神で駆逐され尽くしたそうだ。

 彼らが滅びた後、妖精族が版図を広げるまでに多種多様な魔物が地上に根付いたようだが、魔道技術が突出していた妖精族にとっても、余程の群れでなければ脅威にはならなかった。

 だがそれら技術も迷宮の魔物が地上を蹂躙した折、多くが失伝し、残っているのは妖精の隠れ里の長老達、或いは里の守護竜となっている古竜が秘匿しているくらいの物だ。

 極稀に、新発見された遺跡や、それがダンジョン化した場所から発見発掘される失伝技術ロストギフトは、先の経緯からとんでもない値が付く。国家規模で購入に動き、予算が組まれるといえば動く金額の巨きさが分かってもらえるだろうか。

 冒険者にとっては一攫千金の機会であり、夢であり、成功したパーティーの実に九割がこれに当て嵌まる。

残り一割は、戦争で活躍したとか、災害規模の魔物を倒したとかで国に召抱えられたり、極少数だがダンジョンの財宝で街を拓いて貴族に成り上がったり、小さいとはいえ国を興した者も居る。


 死亡率は、成功者の万倍といわれるのも冒険者の特徴だがね…。



 二層から三層に続く降り階段の中ほどに腰を下ろして、魔法皮袋マジックパックから水と食い物を取り出す。

安全地帯と言うわけじゃないが、幅が狭いので上と下にゴーレムを張らせて置けば奇襲される事も無いのだ。

 穀物の粉を薄い生地に焼いて、肉と葉物を巻き包んだ軽食を齧りながら、ここまでの様子を思い返す。


「…んぐ。こりゃやっぱり、カイゼンさんの懸念通りかねぇ。ゴブが多すぎる」

 外の魔物を飼いならすタイプのダンジョンには、空白期と言う物が存在する。侵入者に内部の魔物を狩り尽くされ、一時的に枯渇する期間の事だ。

町から遠く離れた場所ならともかく、この『子鬼の盛り場』は駆け出しから抜け出そうとする若手がそれなりに訪れ、そうで無い場合も内部に数が氾濫しないようにギルドが腕のある冒険者に巡回を依頼する。

 だが、夕刻に訪れたギルドで職員のカイゼンさんから、



「最近、いつ行ってもゴブリンが居るらしいんですよ。ギルドで入出管理を出来ている範囲で分かったのですが。…何処かの巣が、母体を手に入れたのかもしれませんね」

 億劫そうな表情で、彼は溜め息を吐いていた。

「この町で確認された皆さんの中で、未帰還者、行方不明者は現在居ません。今現在、近隣の村にも照会している所です」



 つまり、母体は旅人、或いは他所からの冒険者ナガレモノ。でなければ小村の村人か。

(難儀な話だな…)

 町の外で起こった事を即座に知る方法など無い世界だ。被害が出ても、それを届ける者が居なければ、露見しないままか、かなり時間が経ってから。

(今から捜索しても生きてる確率は低い。よしんば生きているとしても、な)

 顔だけは知っている、程度の奴が居た。そいつは、助け出されてから一月としない内に、自殺した。


 別の話に、こんなのがある。

 ゴブリンには、ちゃんと雌も居る。だがその発生率は稀で、雌ゴブリン自体は気弱で巣から出たがらない為、滅多に見かけない。

巣で尤も強い固体から番いになり、相手の居ない多くのゴブリンは、異種族の雌を浚って繁殖相手にする。

 で、その雌ゴブリンだが、なんと人間にそっくりだ。雄があれだけ醜いのに、雌の見た目は人間で言う所の十五歳前後の小柄な少女。耳がやや尖っているのと、額に角が一本生えていて、肌の色が薄緑色な所を除けば。

 冒険者の中に、魔物を使役する技術を保つ者が居る。彼らが従属させた魔物は、契約紋と言う一種の呪いに縛られ、主に従う。

そして、契約は譲渡ができる。つまり、魔物の売り買いが可能だ。

勿論、雌ゴブリンも対象になる。客層は冒険者と、一部貴族。


 使い道? 言わせんな恥ずかしい。魔物だからな、どんな事をしたって法に裁かれる事は無いさ。

王都には、そう云うの専門に揃えた『娼館』だってあるんだぜ?



 人はゴブリン他、魔物を利益の為に殺す。或いは捕獲して利用する。

 魔物は人を、獲物として殺す。或いは捕獲して使う。

 どちらも、同じ事をやっているだけだ。


『殺されたくなければ、殺せ』

 先達の冒険者が、後発の冒険者に残した言葉だ。夢も希望も無い言葉だ。

 だが、それが出来なければ続けられない、生き残れない。

 まるで賊の理論だ。だが正しい。


 だから俺は、冒険者をやっていられるのさ。

タタリ「ところで、何で街を拓いたら貴族になれるんだ?」


 国の支援を一切受けずに開拓した街を、どこぞの国に献上して、領主に任じて貰う。

 街貴族とか、門閥貴族からは馬鹿にされるが、そういうのに限って冒険者時代の伝手とか凄くて、街をどんどん発展させて下手な貴族より財産拵える。

 馬鹿にしていた相手に、資金援助とか求める門閥貴族が出たりして立場逆転するらしい。


タタリ「…所詮、世の中金だな」

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