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最終話 そして、未来へ

 ウイナとユクが作ったスーさんの土人形を手にした俺は、その造形にふと目を止めた。


 おう。

 でっぷりとした体に短い手足、スーさんを人形にしたらまさにこんな感じ――。

 俺はそこで思わず目を疑った。






 ――これ、遮光器土偶じゃないか?







 思わず目の前に掲げ、もう一度、スーさん人形をじっくり見る。

 まん丸の顔にでっぷりとした体。大げさにデフォルメされた眼鏡とその中の糸目。



 ……確かに、スーさんに見える。



 ……そして確かに、遮光器土偶にも見える。



 ……ええと、どういうことだろうか。



 遮光器土偶って確か、縄文とか弥生とかの遺跡から出てくるアレだよな。

 そしてその時代って、文献も何も残っていない、いわば歴史の闇に埋もれた古代な訳で。なんでそんな姿をしているのか、謎に包まれた土偶だったと思う。


 遮光器土偶って名前も、遮光器――アイヌが雪目防止でつけるヤツ――を着用しているように見えるから、ってそれだけの理由だったはず。

 その特徴的な姿の本当の理由は分からなくて、他にも宇宙服を着た宇宙人の姿だとか、いろんな憶測がされていたと思うんだが――。



 それが、このスーさんの土人形そっくりな訳で。



 いや、まったく同じではない。あれはなんていうかもっと現実離れした姿だったはず。

 だが、その要である特徴は同じだ。

 顔の大半を占める眼鏡とその中の糸目、でっぷりとした下半身に短い手足。


 もし。

 もしも、だ。

 例えばこの土人形が広まっていって、その際にこの特徴がちょっと大げさに伝わってしまえば、それはそのまま俺の記憶にある遮光器土偶そのものの姿となるんじゃないだろうか。



 つまり、言ってみればウイナとユクが作ったこのスーさん人形は、ユニークで謎深き姿をしている遮光器土偶、そのまさに原形ともいえる形な訳で。



 こんな偶然、あるんだろうか?

 偶然でないとすれば、ひょっとして、まさか、俺たちは見知らぬ異世界ではなく過去に来てる、とか――?



 ……スーさんにべったりなウイナとユクが、この先また同じような人形を作るというのはさほど不思議な話ではない。そしてさっきの光景からして、他のカヤの人たちもスーさんとの距離がどんどん近づいて行くだろうから、そこにこのスーさん人形が広まってもおかしくはないのかもしれない。


 そうやって人形の数が増え、将来捨てられるか何かして、いつかどこかで人知れず土に埋まるものがあって。

 そしてそれが数千年の時を超え、遥か未来に発掘される――



 おいおい、やめてくれよ。

 こんな土人形ひとつの偶然で、そこまでは信じられないよな。

 ここが実は遠い過去の世界で、教科書に載ってる遮光器土偶れきしに実は俺たちが関連してるとか。


 いや、俺たちだけではないのか。

 俺たちはこの世界では異界からの来訪者、マレビトと呼ばれている。

 クノの父親、数百年を生きて知性を得たという神猿ヤマクイによれば、最初のマレビトが毛のない猿と交わって、この世界にヒト族が出現したという。その後のマレビトもヒト族の繁栄に大きく寄与してきて、海を越えた西の大地にはアキツたちカヤの民に稲作を教えたマレビトもいた。


 ここが本当に過去の世界だとすると、そして、これからもヒトが俺たちと同じ人に似た進化を遂げていくとすると、そうやってヒトを産み出し積極的に発展させてきたマレビトは、文字どおり人類進化の核となる存在だ。

 以前、俺たちは人類進化史上の忘れられた鎖――ミッシングリンクかもしれないとかなんとか考えたこともあったが、もしかしたらもしかして、俺たちは本当にその末席にいるのかもしれない。



 いやいやそれはない。ないと信じたい。

 考えすぎだと思いたいけれど――



「うわあ、ホンモノ、でたあ」



 この人形を見てどのくらい固まっていたのだろう。

 いつ雷が落ちるのかと神妙な顔で首を縮めていたコチが、飽きてしまったかのように駆け出した。


「え、ちょ、ホンモノって、これ僕なの――」

 笑いながら逃げるコチの後ろで、いつの間にか近づいて来ていたスーさんが自分の人形を見てショックを受けている。


「あらら、ホントにそっくり」

「アヤさん笑っちゃ駄目ですよ……ププ」


 俺の戸惑いをスルーして、アヤさんとミツバが平和な顔で地味にひどいことを言っている。気付いてはいないのか。


「せっかく作ってくれたんです。細かい模様とか、手が込んでるじゃないですか。どこかで見たことがあるような気もしますが――」

「櫛名田さん、見たことあるってそれ、すぐ目の前にいるっス」


 イツキも櫛名田のおっさんも、束の間の平和と久しぶりの晴天を満喫しているような、肩の力を抜いた気楽な表情で会話を楽しんでいる。


 ……そうだよな。俺たちは魔物との戦いに勝利したばかりだったっけ。



「うわあああ、みんなひどすぎるう! ……でもクノちゃんは違うよね! さあその尻尾で僕を慰めて――」



 いきなり抱きつかれそうになったクノにするりと躱され、スーさんが派手な身振りでたたらを踏んだ。

 一斉に上がる和やかな笑い声。


 俺も思わず笑いをこぼして……



 ふと、昔を思い出した。


 学生時代、バカな悪友たちとたくちゃんと俺で、くだらないことで騒いで笑っていたあの頃。

 奇跡のように平和で、誰もが何の心配もなく明日を迎えられた、涙が出るぐらいに懐かしいあの時代。




 けど、ひょっとして――




「けーすけサン、それ、ウイナとユクの」

「スーさの人形、返して」


 一人黙って考え込んでいた俺の顔を、スーさん人形の持ち主であるウイナとユクが下から覗き込んできた。土人形を渡すと、二人は嬉しそうに笑いながら走っていく。



 ……そう、ひょっとして。



 カヤの子供たちの風になびく艶やかな黒髪、楽しそうに輝く黒い瞳――。それは、体つきの貧弱さを除外すれば、俺たちの知る日本人とほぼ変わることはない。


 もしここが俺たちの住んでいた時代の過去だというのなら。

 そして、俺たちがこれからもがむしゃらにもがき、奮闘して、少しでも豊かな生活を作っていくのならば。


 今は小柄な彼らカヤの子供たちもしっかり栄養を取れるようになって、代を重ねて体格が大きくなっていって、もしかしたらそれが俺たち日本人の原形になったりはしないだろうか。

 遮光器土偶が眠る、この起伏の多い島国の覇者としての民族に。



 もし、そうだとしたら。


 そうしたら遠い未来、彼らの子孫は、いや、俺たちの子孫は、あの懐かしい繁栄に辿りつくことが出来るかもしれない。





 あの、誰もが笑って暮らせる、涙が出るくらい懐かしい時代へと――







 降り注ぐ陽光を見上げれば、黎明の地の子供たちの楽しそうな声が風に乗り、雪深き原生林の上をどこまでも渡って行く。



 ―  第二部 了  ―



以上で『ミッシングリンク ~とある転移者たちの奮闘記~』第二部は完結です。

投稿途中に長い間が空いたり等、読んでくださる皆さんに大変なご迷惑をおかけしましたが、お陰様でここまで辿りつきました。

もしかしたら遠い未来、自分の珍妙な人形が博物館に展示されて、宇宙人だなんだと議論されるスーさんに合掌。。。


ちなみに、物語単体としてはここまででひと区切りです。

皆さまから見て、この『魔法ファンタジー』はいかがだったでしょうか。


この先、第三部の構想として、終盤で登場した新メンバー達の活躍、魔物陣営との戦い、アキツ達現地民を奴隷として使役していたカヤ本国との戦い(魔物陣営と三つ巴)、各登場人物たちの行く末とシリーズ作品へのもう少しはっきりとしたつなぎ、などなどを考えておりますが、物語単体の主題とは離れていくため(ますますもって異世界領地経営モノ化?)、ここでひとまず完結とさせていただきます。

どこかでは再開させますが、本作はしばらくの間ひと休みとさせてください。


拙い作品への応援、本当にありがとうございました。

読んでいただいた皆さまの中に、少しでも何かを残せたのなら嬉しく思います。


全ての皆さまに最大級の感謝を。


    圭沢 拝

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