44話 ホーム
……どのくらいの時が経っただろう。いや、一分も経っていないはずだ。
爆発と暴風が落ち着くのを待ち、俺はゆっくりと胸壁から顔を出した。そこには――
眼下に広がっていたのは、一面の焦土だった。
あれだけ積もっていた雪は跡形もなく、ふもとの林だったところまで広大な焼け野原となっている。
動くものはなにもない。
地面を埋め尽くしていた魔物も、暴虐の限りを尽くしていた炎の竜巻も、何も存在していない。
あるのはただ、のけぞるような熱気と、あちこちに散らばる焼け焦げた何か。そして、それらから立ち昇る無数の煙。
一陣の風が、生き物が焼けた咽るような臭いを運んでくる。
「みんな、やっつけた……のかな……?」
顔をしかめたイツキが、いつの間にか俺の後ろに立っていた。
最後の爆風でやられたのだろうか、服がボロボロに焦げている。
いつも爽やかなはずの顔には、くっきりと刻まれた疲労の跡。魔力切れ寸前の蒼い顔で、怯えるような眼差しを焼け野原に向けている。
「最後の爆発は……あの大蛇、でしょうか」
櫛名田のおっさんがイツキの横に並んだ。
「炎の竜巻と相打ち、ということなら良いのですが……」
そう、それならいい。
最後の咆哮が上がったのは確か丘の中腹あたり――今見ると、ほぼ爆心地だ。ここから見える限り何も残っていない。
だが、あの化け物がそうも簡単に死んでくれるかというと……
「ケースケさんっ!」
ミツバがすごい勢いで後ろから俺の腕に抱きついてきた。
「やったっ! やったんですよね、私たち! あんなにいたのに、みんなで!」
だが、そんな喜びの言葉の割には、どこか不安そうな顔で俺の目から視線を離さない。
……ああ、そういえばこの子はずっと気にしていたっけ。それなら――
「ああ、良く頑張ったな、ミツバ」
俺のその言葉が正解だったのだろう、ミツバの瞳がかすかに潤んだ。
力が抜けたのか、へなへなとその場に座り込み、そして手だけは俺の手を掴んだまま、心底嬉しそうににへら、と見上げてきた。
ああ、本当に頑張っていたからな。俺一人では半分も保たずに突破されていただろう。
文字どおり「助かった」と実感している。いや、「助け合えた」のか。
あれだけ魔物が押し寄せていた外壁の下には、もう動くものはない。
例の大蛇が気になるが、これだけ隈なく見てもそれらしい影は見つけられない。
――あの大群を、殲滅できた? みんなで力を合わせて、なんとか生き延びられたのか、俺たち?
振り返ると、肩を並べて戦ったみんなが俺たちを囲んでいた。
全員が生きて、この外壁の上に立っている。誰一人、欠かさずに、だ。
「ミツバも、イツキも、櫛名田さんも、スーさんも」
胸の奥底から熱い何かが湧き上がってきて、俺は、一人ひとりの目を見ながら言葉を繋いでいった。
「アヤさんもクノも、アキツたちも、みんなで」――みんな爆風で薄汚れた顔をしているが、それでもどこか誇らしげだ――「みんなで、力を合わせて守りきったんだよな」
はい!と答えたのはミツバだったかクノだったか。両方だったかもしれない。
続いて一斉にみんなの歓声が爆発して、そんなことはどうでも良くなった。
信じられない規模の魔物を見事に防ぎ止めた、この、自分たちの手作りの外壁の上で。
俺はみんなとハイタッチを交わしながら、しみじみと実感していた――ここが、この世界での俺たちの家だ、と。
短くてすみません。
とりあえずここまで、キリが良いのと復帰の勢いを殺したくないので投稿してしまいます。
次話「45話 スーさんの春」、戦いから数日経ったところからスタートです。




