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43話 総力戦

大変長らく間を開けてしまいましたが、こっそりプチ復帰です。第二部完結まであと少し、そこまで一気に仕上げる予定です。

なお、第一部の最期に置いてあった「第一部のあらすじと人物紹介」を一話目に移動しました。必要に応じて参照いただければと思います。

 キシャアアアアア!


 怪我人を抱えた俺たちが宿営地の門の手前まで辿りついたとき、氷漬けにしたはずの大蛇の咆哮が背後で響き渡った。


 くそ!

 あれで死んでくれるとは思っていなかったが、さすがに早すぎるだろ!


 荒い呼吸のまま振り返ると、押し寄せる魔物の向こう、丘のふもとで大蛇の化け物が氷の残骸を弾き飛ばしているところだった。

 互いに争っていた魔物たちはぴたりと戦いを止め、一斉にこちらに向かって動き始めている。


 キシャアアアアア!

 キシャアアアアア!


 繰り返される大蛇の咆哮。その度に魔物の群れの勢いが増し、怒涛の勢いとなって押し寄せてくる。



「とにかく中へ!」



 櫛名田のおっさんが叫んだ。


 俺たちは最後の十五メートルをがむしゃらに走りきり、全員で門に駆け込んだ。


「アキツ! カヤの皆でこの人たちをドームに運んでくれ!」


 真っ青な顔で物陰から覗いているアキツの顔を見つけ、抱えてきた怪我人を渡しながら指示を出す。救助してきた人は全部で六人、小柄なカヤ族とはいえ皆でかかればなんとか運べるだろう。続けて、激走を終えてへたり込んでいるスーさんの肩を叩いて叱咤する。


「すまんスーさん、ミツバと門の封鎖を頼む! 櫛名田さんとクノはドームでこの人たちの手当てを!」


 手が空き次第、上で迎撃を――そう叫んで、外壁の内階段を駆け上っていく。

 狭い階段を昇りきり、城塞のような外壁の屋上通路に出た俺の目に飛び込んできたのは――




 広大な丘の緩斜面を埋め尽くし、大波のように迫ってくる無数の魔物だった。

 ミツバの作った空堀を飲み込み、次々に乗り越えて狂ったように突き進んでくる。




「ちょ……何なの、これ……」

 隣でアヤさんがゼイゼイと喘ぐ息の中でつぶやいた。俺のすぐ後ろをついて来てくれたようだ。その向こう、イツキも呆然と言葉を失っている。


 眼下の魔物の大群は、堤防が決壊したように丘の中腹へとなだれ込んできている。


 なんだよ、これ――。

 これまで何度も、この外壁の上から魔物の群れを撃退してきた。

 だが、これほどの数は見たこともない。


 そして何より、今回は魔物の勢いが違う。

 無数の魔物の赤い目にギラギラと灯っているのは、煮えたぎるような怒りと憎しみだ。荒れ狂う獣性を剝き出しにし、狂ったように丘を駆け上がってくる。


 キシャアアアアア!


 大蛇の咆哮が魔物の群れの後ろで繰り返されるたび、火に油を注ぐようにその魔物の狂乱が煽られていく。

 魔物たちから放たれる怒りと憎しみが、背筋を凍らせるような巨大な悪意の波となって押し寄せてくる。


 くそったれ!

 やらなきゃやられる!!


 俺は汗ばむ手で両手杖を掲げ、ありったけの魔力でメテオを撃とうとして――踏みとどまった。


 今の魔力は残り二割程度か。

 敵のこの数、とてもじゃないが殲滅できない。

 さっき使ったフレアは強力だが一点集中型、ここまで敵が広がっていると無駄が多い。そもそも魔力も足りない。

 くそ、どうすりゃ――



「うおおおおっ!」



 いつのまにか胸壁の上に飛び乗ったイツキが、輝くバスタードソードを鋭く振るった。

 同時に魔物たちの手前、雪に覆われた大地に直径二十メートルはあろうかという竜巻が巻き起こる。


「行けぇぇ!」


 イツキが振りかざす剣に従うように猛る竜巻が急進し、押し寄せる魔物の波を呑み込んでいく。

 そうだ、戦力は俺だけじゃない。頼れる仲間がいるじゃないか。


 イツキの脇では、我に返ったアヤさんが続けざまに氷の槍を放っている。狙いは竜巻の脇から抜けてくる魔物、そこに二メートルはある氷の槍が次々に襲いかかっていく。


「私も手伝います!」


 背後の階段から駆け込んできたミツバが、そのまま俺の隣で岩の弾丸を放った。

 アヤさんの氷の槍だけでは抑えきれずに溢れ出してきている魔物を、無数の岩の弾幕が穴だらけにする。ひと群れを丸ごと屠り、続けて次の群れ、さらに次へと連続して殲滅していく。


 みんな――。

 なんとも頼もしい。あれだけ勢いがあった魔物の侵攻が、見事に押し留められている。

 だが、魔物の数が数だ。こちらの攻撃を飲み込むように、次から次へと押し寄せてくる。一匹、また一匹と死地を抜け、俺たちが乗る外壁に駆け寄ってきている。


「させるかっ!」


 俺は炎弾を圧縮し、胸壁の隙間から狙いを定めて放った。轟く爆音。

 イツキが縦横無尽に駆る貪欲な竜巻の猛威から逃れ、アヤさんの氷の槍とミツバの岩の弾幕を抜けてきた魔物を、一匹ずつ狙撃するように爆破していく。



 しばらく夢中で魔法を放ち続けた。

 メテオのように無差別に炎弾をばらまくのではなく、単発で狙い撃ちするために魔力はなんとか保っている。

 だが、徐々に魔物の波に押され、気が付くとすぐ足元、外壁間際での攻防になってきていた。


「くそっ!」


 ふと周囲を見ると、スーさんや櫛名田のおっさん、クノもいつの間にか駆けつけ、アキツ達カヤの子供たちと協力して、外壁をよじ登ろうとする魔物に落石攻撃をしている。


 よし、油断はできないが、お陰でどうにかせき止められているようだ。

 このまま耐えればイケるかもしれない。

 ただ、どこか嫌な予感が拭えない。忙しすぎて働かない頭から何か重要なことが抜け落ちているような、そんな引っかかりがあるのだ。

 それに、それ以外にも心配なのが――


 眼下の壮絶な戦場から目を離し、ちらりとミツバとアヤさんを見遣る。

 だいぶ顔色が悪い。疲れもあるし、魔力はあとどのぐらい残っているんだろうか。イツキも同様だ。

 今は外壁のお陰で魔物を食い止められているが、誰かが魔力切れになった瞬間にその均衡は破れる。

 カヤの子供たちの落石だってそうは続かないだろう。


 少し不安はあるが、今は出し惜しみをすべきではない。アレをやろう。


「イツキっ!」


 ひと声叫んで、炎を圧縮せずに上空にひとつの球として創り上げた。そのままどんどん大きく育て、身の丈を超えたあたりで前に飛ばす。


「――うおっ! アレやるっすか!? 了解っ!」


 イツキが振り返り、回転しながら飛んでいく炎の塊りを目にして頷いた。

 イツキの手のバスタードソードが大きく天に突き上げられ、それに引っ張られるかのように丘の中腹で貪欲に身をよじっていた竜巻がゆっくりとこちらへと進路を変えた。


 俺が放った燃え盛る炎の塊りが、僅かに蛇行しながら丘を登ってくる竜巻に吸い込まれ――



 イツキが高く掲げたバスタードソードを輝かせ、天にも届けと雄叫びを上げた。


「行っけええええ!」


 炎の塊りを呑み込んだ竜巻が大きく身をよじり、身悶えるように加速していく。

 周囲に積もった雪を巻き込み、逃げ惑う魔物を片端から引きずり込んで、天高くその暴威を伸ばしていく竜巻。やがてその外縁を炎が包み、紅蓮の体を持つ巨大な火炎旋風へと成長していく。


 ひと際大きくなった魔物の怒号と断末魔が、暴れ狂う灼熱の旋風があげる轟音にかき消された。

 地獄を具現化したような炎の竜巻は爆発的に勢いを増し、みるみるうちにその太さを、高さをいや増していく。

 そして無数の魔物に覆われた雪原を貪欲に喰らいつくし、動くものひとつない焦土へと――



 キシャアアアアア!



 赤目の大蛇の咆哮が、耳を覆う火炎旋風の轟音を上書きするように響き渡った。


 そうか、こいつがいたんだ!

 背筋に冷たいものが走ると同時に、丘の中腹で巨大な力が膨れ上がった。


 化け物め、力づくで吹き飛ばすつもり――


 次の瞬間、途方もない爆発が暴れ狂う炎の柱を上下に分断した。

 ひと呼吸遅れ、抗いようのない衝撃波がガツンと全身を揺さぶる。そして、鼓膜が破れるほどの轟音が――







長々とお待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

書くという感覚を忘れかけておりますが、残る数話は何とか仕上げてお届けしますので、応援のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

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