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26話 廃村へ

 それから俺たちは剣を手にみんなで外に出て、日没ぎりぎりまで色々と試した。

 やはりスーさんの見込みどおり、剣は魔法使いの杖のような働きをしてくれるものだった。手にしているだけで全然違う。なんというか、魔法を使う上でとても便利な代物なのだ。


 まず、俺の火の魔法とアヤさんの水の魔法が、剣を通すと驚くほど軽く発動できた。

 逆に力の加減が難しいぐらいで、気を緩めていると俺はまるで火炎放射器みたいになってしまうし、アヤさんも一発だけでお風呂を溢れさせてしまった。

 スーさん曰く二人は魔力が強すぎるとのことで、まあ、少なくとも日常生活レベルではこの剣を使わなくていいかもしれない。


 だが、この剣の真髄は別のところにある。



「あはは! そりゃ! うおー、こりゃすごいっす!」



 イツキが、エアショットとか言う魔法を使えるようになったのだ。


 ぶん、と剣を振るたびに、離れた場所の地面が弾け飛ぶ。目に見えない空気のかたまりが飛んでいるらしい。

 威力としては、プロ野球のピッチャーの球の速さでバスケットボールを叩きつけているようなものだろうか。絶対に人に向けて放ってはいけない。


 しかし、頼もしいのは事実だ。

 イツキには風レーダーもあるし、あの人間離れした敏捷さに加え、このエアショットだ。かなりの戦力になるのではないだろうか。


 俺も負けていられない。

 有頂天になって地面を削りまくるイツキにお願いをして、剣を貸してもらった。さっき火を出した時に感じたあの感触、試させてもらおう。


「おおー! どうぞどうぞ、ケースケさんなら何かすっごいのやってくれそーっす!」


 俺の場合、火事を考えると魔法で炎を撒き散らすのはご法度なのだが、この剣を使うと炎の操作性が劇的に向上する。

 さっき火を出した時に感じたのだが、どうもすぐに火として出さずに剣に留めておくことができそうなのだ。


 ならば。


 先ほどの火炎放射器並みの炎、あれを外に出さずに剣の中に圧縮して――



「ちょ、ケースケ君何を……」



 ブォン、という低い唸りと共に、剣が純白の光を放ち始めた。薄暗くなってきた宿営地を輝く刀身が照らしていく。



「へ? これって魔法剣――!?」



 あんぐりと口を開けたスーさんが、茫然とつぶやいた。すぐに我に返り、マシンガンのように喋りだす。


「ちょ、ちょっとケースケ君すごすぎ! ま、ま、まさかの魔法剣だなんて、それスッゴイ高等技だから! ラノベで言うと二十万字過ぎないと出てこないような、しかもモブキャラなんかは絶対に使えない、そんなスゴ技なんだよ!? まさかこの目で実物を見れるとは――」


 お、おう。

 ちょっと何を言ってるか分からないんだが……。


「ね、ね、ケースケ君! アレ斬ってみてよ!」


 スーさんが指差す先にあるのは、宿営地の片隅に残された一本の枯れ木。いつか薪にでもしようかと、あえてそのまま残しておいたものだ。


 ふと周りを見てみると、剣の光に照らされたイツキとミツバ、クノがもの凄くキラキラした目でこっちを見ている。

 イツキの視線が輝く剣に釘付けになっているのはいいとして、ミツバとクノがうっとりとした様子なのはどうしたことか。


「ケースケ君て、実は魔法の才能があるのかしら」

 アヤさんがくすりと笑い、心底感心したかのように言う。


 うお。

 いやいや、これきっとアヤさんも出来るから。なんか恥ずかしくなってきた。光らせるのを止めてもいいだろうか。


「それなら火事を気にせずにやり合えますね。よく思いついたものです」

 櫛名田のおっさんまでが賞賛の微笑みを浮かべている。

「問題はどれだけ威力があるか、ですが――」


 そうだった。ただ光ってるだけじゃ意味がないんだ。おそらくそれなりに威力はあると思うんだが……。


 俺は気恥ずかしさを覚えながらも、純白に光る剣を掲げて件の枯れ木の前まで足早に歩いた。


 よし、とっととやってしまおう。

 俺はひとつ息を吸って振りかぶり、そのまま斜めに斬り下ろした。


 ズシン、と予想外に重い手応え――



 あれ?



 剣は枯れ木の幹に僅かに食い込んだだけで止まっている。

 え、それだけ――そう思った次の瞬間。



 こもった爆発音と共に、幹の反対側が火を噴いた。



 火は一瞬で収まったものの、焦げ臭い匂いが辺りに立ち込める。唖然として見守る俺の目の前で、枯れ木がゆっくりと傾き始めた。



「危ないっ!」

 誰かが叫んだ。



 初めは梢がゆっくりと左に動いていくだけだった。それが徐々に勢いを増していき、やがて枯れ木全体が加速度的に傾いて――


 地響きを立てて地面に倒れた。




 え、ええと?

 今の、俺のひと振りでった、ってことか?


 俺の剣筋のとおりに斜めになっている切り株を覗き込んでみる。

 真っ黒に焼け、ブスブスと煙を上げている木口。剣が当たった側はそうでもないが、反対側、火を噴いた方にいくにつれて焼き焦げがひどい。


「よく分からないですけど、これはまるで内部が衝撃波でやられたみたいですね。火の衝撃波、というものがあれば、ですが」


 俺と肩を並べて覗き込んでいた櫛名田のおっさんが、ため息混じりで首を振っている。


「この目で見なければ、とても信じられない光景です」




「か、か、か……かっけーーーーっ!」


 それまで沈黙していたイツキが唐突に絶叫を上げた。次いで、半狂乱のスーさんが駆け寄ってきて、口をぱくぱくさせながら俺の手を握りしめた。


「ひ、ひ、ひ……火の魔法剣キターーッ!」




 今回ばかりは誰も二人の雄叫びを止めず、しばし全員が唖然として立ち尽くしていたのだった。


 ま、まあ、火を撒き散らさないという意味では、理想の攻撃手段ではあるか。


 これで万が一化け物や猿人に出くわしても、イツキと俺の二人がいれば追い払うぐらいはできそうだ。

 アキツの村への遠征にもちょっとした安心材料ができた、そう思っておこう。



 で、ええと、みなさん。

 暗くなってきたし、あの、そろそろ中に入りませんか?




 ◆ ◆ ◆




 翌朝。

 俺は日の出と同時に宿営地の門をくぐった。例の遠征に行くのだ。


「じゃあ、気をつけて行ってきます」


 メンバーは、俺とイツキ、クノの狩猟班三人に、道案内としてアキツ、コチ、ニソルのカヤ少年三人組、合計六人だ。


 身軽に動けるギリギリの人数になってしまったが、これだけいればかなりの物量を持ち帰れる。村に生き残りがいても、アキツたち三人がうまく間に入ってくれるだろう。


「使い心地、教えてね! 帰ってきたら手直しするから!」

 目の下に隈を作ったスーさんが、満面の笑顔で俺の肩を指差した。


 そう、俺の肩から顔を覗かせているのは、たすき掛けで背負った新しい両手杖。例の光る石を使って、ケースケ君用にとスーさんが新しく一晩で仕上げてくれたのだ。


 昨夜ドームに戻ってから色々とまた実験を繰り返し、スーさんが調整を繰り返して作ってくれた新しい両手杖。

 両端を尖らせたシンプルな棒、という使い慣れた形に変更はないが、手に持ったバランスから光る石を混ぜ込む比率に至るまで、スーさんは文句一つ言わず、実に楽しそうに作業をしてくれた。


 なんか僕、本当に生産職してるね、と目を輝かせるスーさんに、俺まで嬉しくなっていたのは内緒だ。


 まあ、そんなことで、光る石は現在在庫切れ。今日また補充に行って、ミツバやアヤさんの分を作るらしい。


 スーさんは本当にはりきっている。生き生きしている、といってもいいくらいだ。

 これは俺も頑張らないといけないな、俺はスーさんに力強い頷きを返した。




「あの、私も頑張ってスゴい魔法を使えるように練習しておくから……」

 ミツバが、つ、と俺に近寄り、俺の肘にそっと手を添えつつ見上げてきた。


「絶対無事に帰ってきてくださいね。絶対ですよ」


 いつもは前向きな輝きで満ちているミツバの淡褐色の瞳が、今は一途な心配で覆い尽くされている。まさか少し泣いていたのだろうか、目の端が赤い。


「それであの、そしたら次は私も一緒に連れて行ってください。約束、ですよ?」


 俺の肘に添えた手に、ぎゅっと力が入る。俺はその手に自分の手をかぶせ、大きく頷いてやった。


「ああ、約束だ。心配するなって。それより、こっちは頼むな。みんなですっごい魔法を編み出しておいてくれよ?」


「……はい!」

 いつもの明るい笑顔でミツバが笑う。アヤさんがそんなミツバの肩に手を置き、そっと引き戻した。



「私、お米食べたいとか言っちゃったけど――」

 そのまま後ろからミツバの肩に両手を回しつつ、アヤさんがどこか困ったように微笑んだ。


「そんなの無くてもいいから。……ケースケ君、ホントに気をつけるのよ?」


 ――俺に手を伸ばしたいけど伸ばせない、そんな儚さを含んだ微笑みだったと思う。

 代わりにミツバを後ろからそっと抱きしめ、その位置からまっすぐに俺を見つめている。


「冬に備えての備蓄があるに越したことはないですが」

 櫛名田のおっさんが握手を求めてきた。


「命あっての物種です。少しでも危険を感じたら、手ぶらで良いから帰ってくるのですよ。まあ、ケースケ君なら大丈夫だと思いますが」


 ああ、みんな心配してくれてるんだな。大丈夫だ。


「はは、俺は臆病ですからね、後で話を聞いたらみんな呆れるくらい慎重にいくつもりです」


 俺は櫛名田のおっさんの手をごりごりと握り返し、強く頷いた。


 いつまでこうしていても前に進めない。皆を早く安心させるためにも、気持ちを引き締めて、出来るだけ早く帰ってこよう。


「じゃあ、気をつけて行ってきます」




 ――さあ、出発だ。




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