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ミッシングリンク ~とある転移者たちの奮闘記~  作者: 圭沢
第二部

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26/50

25話 杖とスーさん

 暖かい床への興奮が収まると、俺たちは結局一階の暖炉の前に集まっていた。火を見ているとどこか落ち着くんだよな。

 寝るには中二階が最適だが、みんなとくつろぐにはこっちの方がいい。屋内で火を眺められるなんて最高だ。


 さて、みんな集まっていることだし、ここでアキツ達の村への遠征の詳細を決めてしまおうか。生き残りがいるかもしれない事を考えると、あまりのんびりも出来ない。

 ここの備えはひと段落とすると、明日あたり決行してしまいたいところだ。


 俺がそんなことを考えていると。


「ねえねえ、そういえば例のヤツ出来てるんだけど、明るいうちに試してもらえる?」


 外の土壁の門を閉めに行っていたスーさんが、ドームの入り口からイツキをちょいちょいと手招きした。

 マジすか、と即刻飛び出していくイツキ。


 ああ、イツキの剣か。

 バスタードソードとか言ってたっけ。なんかアキツ達が拾ってきた石でどうのこうのと騒いでいたけど、少しは進展したのかな?


 まだ時間も早い。ちょっと興味を引かれた俺は、遠征の相談は少し後回しにして、二人について行くことにした。




「ううーん、何がダメなんだろう?」

 俺がドームから出ると、二人は中庭の片隅で額を寄せていた。手にした剣をあれこれいじっている。


「あ、ケースケさん。ちょうどいいところに」

 二人の肩越しに覗き込んだ俺に、スーさんが剣を見せてきた。

「これ、例の光る石使ってみたんだけどさ――」


 光る石とは、アキツ達が拾ってきた石のことだ。妙に温もりがある石をみつけたと持ち帰ってきたのだが、スーさんがそれを見て騒ぎ出したのだ。

 どうやら、魔力を光として視ることのできるスーさんの目に、その石は鈍い光を放っているように見えたらしい。

 ただ、魔法が発動するとオゾン臭で分かる俺の鼻には、何の匂いもしない普通の石ころだった。手に持つとほんのり温かく、不思議なのは確かなんだが――。


 まあ、そんなことで気にはなるが、正直、他のことで俺の意識からは抜けてしまっていた。スーさんは生産職の血が騒ぐとかなんとか言って、イツキと共にあれこれ試していたらしい。


「なんかイツキ君があの石を持つと不思議な感じがするっていうからさ、試しに剣に錬成の魔法で混ぜ込んでみたんだけど――もう一回、持ってもらってもいい?」

 そう言って剣を無造作にイツキに手渡すスーさん。


 そしてイツキが剣を手にすると――微かに、ほんの微かにだが、剣が低くブーンと唸った気がした。

 そして同時に――


「うーん、相変わらずくすぐったいだけっす」

「うーん、ちょっとだけ光が強くはなってるんだけど……」


 おい。

 二人ともちょっと待て。


 俺は剣を持ったイツキの手を掴み、ぐいと顔に近づけた――うん、このオゾン臭、間違いない。


「ちょ、ケースケさん、何――」


「ああ、すまない。でも」

 俺はイツキの手を放し、剣をまじまじと見つめた。

「今、例の魔法の匂いがしたぞ?」


「え! ホント! でも何の魔法もーー」

 目を丸くするスーさん。


「なあ、ちょっと俺に持たせてもらってもいいか?」

 俺は返事も待たずにポカンとした顔のイツキから剣を貰いうけた。


 ……手のひらに微かに伝わる振動、耳に聞こえる限界まで低い唸り音。光る石を手にした時にはなかったものだ。

 そしてほのかなオゾン臭と――着火の魔法を使った時の、何かが体から抜けるような間違えようのないあの感覚。


 剣を宙に掲げてじっくりと観察しつつ、同時に手のひらの感覚に集中する。


 ふむ、これは間違いない。

 なら――


 着火の魔法の、火の勢いを強くするイメージで、少しだけ体から抜け出す何かを後押ししてみる。

 オゾン臭が僅かに強まり、剣の温もりがはっきりと手に伝わってくる。


 よし、やっぱり何かの魔法が関係している。

 じゃ――


 俺は思いきって、メテオを撃つ時の半分ぐらいの感覚で体の中の何かを剣に突っ込んだ。その瞬間、




 ぶわりと、剣が太陽の如く輝いた。そして――




 熱ッ!

 剣を持つ手のあまりの熱さに、俺は思わず剣を放り投げた。


「うあああー!」

 スーさんが目を押さえて転げ回っている。


「えええ! ちょ、スーさん大丈夫っスか!? で、ケースケさん、今の何!?」

 俺は慌てるイツキと共にスーさんに駆け寄った。

「スーさん!」



「ふう、すごかった……」


 すぐにけろりと立ち直ったスーさんに、俺は心の底から安堵した。

「本当に悪かった。もう大丈夫なのか?」


「うん、もう大丈夫だよ。あんまりの眩しさにびっくりしただけ――って! ケースケ君何やったのどうしたの!? あんなすごい魔力の光なんて初めてだよっ。ピカッていうかドバッていうかドカーンっていうか! ああっ、剣!? 剣はどうなったの――」


 俺が放り投げた剣に駆け寄るスーさん。


「熱っ!」

 触るなり再び地面に放り投げた。

「何これ、すっごく熱くなってる!? ねえねえケースケ君何したの!」


 俺はありのままを説明した。

 剣を持った時に、微かに魔法を使っているような感覚があったこと。その感覚をちょっと後押ししてみたら、確かにオゾン臭が強まったこと。

 そして最後に、メテオを撃つ半分くらいの感覚で剣に――。


「でもあの魔力の光、メテオの時とは比べものにならない光だったよ?」

 思い出すかのように手を目の前にかざし、かすかに顔を背けるスーさん。

「それに……」


「分かった! 分かったよ!」

 スーさんが突然、感極まった顔で俺に抱きついてきた。


「そういうことだったんだ! うおおおおお!」

 スーさんの絶叫が秋の夕暮れにこだましていく。


「なにごと!?」

 あまりの騒ぎにドームから皆が飛び出してきた。そして男二人が中庭の片隅で抱き合っているという、これまたあまりの光景に、唖然とした顔で遠巻きにぴたりと足を止めた。


 ……空は美しい夕焼けに染まり、中庭を囲む土壁ぎりぎりまで沈んだ夕陽が、ひしと抱き合う俺たち二人の影を長く皆の足元まで伸ばしている。



 皆から見れば、感動的な夕陽をバックに抱き合う男二人。そしてそれを茫然と見守る少年が一人。



 誰もが言葉を失い、俺を至近距離で見つめるスーさんだけが熱い言葉を想いのままに迸らせている。どのくらいの時が流れたろう、一瞬にも永遠にも思えるひとコマ。



「な、なあスーさん?」



「うわあああケースケ君てやっぱ最高! そんなことだったなんて、神様ありがとーっ」


 お、おう。そんなことってどんなことだよ。おっとりしたアヤさんの目が微妙に氷点下だ。

 クノは真っ赤な顔を手で押さえて、でも指の隙間からチラチラ見てるし、ミツバに至ってはなぜか泣きそうだ。

 なにかとてつもなくヤバい予感がする。


「なあ、スーさん――」

 俺は体を捩ってなんとか抱擁を解いた。

 スーさんはなおも熱い眼差しで叫んでいる。


「ケースケ君、ありがとう! 剣は――この剣は、杖だったんだっ!」


 ……はい?


 その剣が不思議なのは確かだけど、どう見ても剣だ。自分でもその形がロマンだって言ってたじゃないか。それを……杖?


 スーさんまさか、さっきのショックが頭に残ってる、のか?




 ◆ ◆ ◆




「もうっ! そういうことならちゃんと言ってくださいよ!」

 ミツバがぷんすか怒っている。


 その後、櫛名田のおっさんが場を収拾してくれ、今はこうやってドームに戻って暖炉の前で話している。

 カヤの子供たちは床暖房の魔力に捕えられて早々と寝てしまったようで、それ以外の全員がここに集まっていた。輪の中心にはスーさんと、例の剣。


「いや、だからね、ケースケ君が例の光る石の謎を解いてくれたんだよ? イツキ君とずっと悩んでいたのを、ピカッとばっさり。で、ちょっと嬉しくなっちゃったってだけなんだけどなあ。それに、そんなことより、結局この剣は――」

 スーさんはイツキのバスタードソードを手に取り、誇らしげに高く掲げた。


「あの光る石を使ったこの剣は、杖になったんだよ!」


 すまんスーさん、そこが相変わらず理解できない。

 見るからに剣だし、なぜそんなに杖だと力説するのか意味不明だ。


「ま、まあ、確かに手頃な長さではありますね」

 櫛名田のおっさんも苦笑いを浮かべている。みんな考えていることは同じだと思う。


「ええ? 長さは関係ないよ……って、違う違う、そうじゃなくて!」

 目を丸くしたスーさんが、慌てて周囲を見渡した。自分を見つめる生暖かい眼差しの群れ――。


「うーんと、スーさんが言ってるの、魔法使いが持ってるような杖のことじゃないっすか?」

 スーさんの理解者が一人いた。イツキだ。


「そうっ、ソレ! この剣はその杖みたくなってて、魔法の発動を補助してくれるんだよきっと! すっごいことだよ、だって、これまで目に見えた形で魔法を使えなかったイツキ君にも、少しだけ手応えがあったみたいなんだよ? てことは、ひょっとしたら」

 スーさんはふるふると震えながら剣を持った反対側の手をまじまじと見つめた。


「てことはひょっとしたら、僕がこの剣を改良してみんなに作れば、みんなもっと魔法が使えるようになるかもしれないんだ! 本当の生産職になれるんだよ、僕! うおおおおおー!」


 ……やっと分かった。そういうことか。

 その剣がきっかけで、みんなが使える魔法が増えるかもしれないのか。それは確かにすごいことだ。さらに、その中に攻撃や防御に役立つ魔法があれば――。


 すぐ先に控えた遠征のことが頭によぎる。

 うん、これは確かに画期的なことだぞ。戦力が大幅に増加する。俺の魔法だってもっと気兼ねなく使えるものが出来るかもしれないし。


 これはスーさんのお手柄だな。俺からもスーさんをハグしたいぐらいだ、まったく。


 それに、スーさんがずっと言っていた生産職というもの、こういうことを言っていたのかもしれないな。憧れてたみたいだったし――


 良いこと尽くめじゃないか。俺は立ち上がって、剣ごとスーさんをハグし――ようとして思いとどまった。みんなの目が怖い。

 代わりに固い握手を交わした。


 さっきは疑ってすまん。そして――憧れに近付いたみたいで良かったな、スーさん。




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