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10話 自己流メテオ

「……さて、この際だから、ちょっと腹を割って話をしませんか?」


 俺のガスバーナーの魔法にはしゃいでいたイツキとスーさんが落ち着くと、櫛名田のおっさんが真面目な顔で切り出した。


「皆さんは、我々に救助が来る可能性について、正直なところどう考えていますか?」


 これは重大な問いかけだ。

 災害にあった時、遭難した時には、自衛隊なり何なりが救援に来てくれる。現代日本に住む人はみんな心の底でそう思っているだろう。だが、今の俺たちは――。




 スーさん、イツキ、アヤさんと順繰りに顔を見ていくと、皆が一様に視線をそらし、自分に回答の指名が来ませんように、というような雰囲気を醸し出している。


 まあ、そうなるよな。


 そんな中、スーさんが俺を見てきた。そして、俺に答えろと目で促してくる。まったく。


「救助は期待してません。当面の間も、そして、将来的にも」


 俺は思いきってずばりと答えた。

 これはみんな心の奥で感じていたことじゃないだろうか。ちらりとミツバに視線を遣ると、明け方と同じ、ひどい顔に逆戻りしていた。この子にはもっと笑っていて欲しい。でも、覚悟はしておいた方がいいんだ。


「そうですか……実は、私もそう思っています」

 重々しく頷く櫛名田のおっさん。


 続く沈黙に耐え切れず、俺は淡々と言葉を継いだ。


「どのくらいの隕石が落下したか分かりませんが、下手したら東京は壊滅状態。しかも隕石は複数、世界的な事態の可能性も否定できません」


 スマホの緊急速報、文面はもう忘れたが、そんな含みが確かにあったよな。


 静まりかえったみんなに、俺はさらに自分の中で燻っていた言葉を並べていった。


「救助隊が動いているとしても、俺たちがいるここは市ヶ谷駅のホームではないです。救助隊はここまで来れるのか、いや、俺たちのことを知っているのか。どこか遠く、全く別の場所にいる俺たちのことを」


 ……ついに、言ってしまった。言霊じゃないけれど、言葉にしなければ現実にはならない、そんな言い訳をいつまでもしているわけにはいかないからな。良い機会だったと思おう。





「ひょっとしたらだけど……ここは東京とか日本とかじゃなくって、異世界、ってやつじゃないかな」


 続く沈黙に、スーさんがしきりに自分の手を弄びながら視線を上げずに言った。

 男にしてはきめ細かい色白のふっくらした頬が見事に赤くなっている。


「隕石が落ちた時のエネルギーで、市ヶ谷駅のホームにいた人みんなが違う次元に飛ばされた、みたいな」


「違う次元に行ってしまう……メアリー・セレスト号とか、バミューダトライアングルとかと同じ、ですか」


 櫛名田のおっさん、さすがにネタが古い。


 だが、言いたいことは分かった。どちらも不可解な失踪ということでコトは終わっている。


「まあ、何にしろとにかく我々がすべきなのは、ここで暮らしている人の所に行くことです。自力で人の社会に行くことが出来なければ、その先の展開は期待できません」


「賛成、まずはそれですね。ただ、最悪を予期しながら、ですけど」

 俺は周囲の大自然をちらりと眺めて言った。

 昨日の白猿ヤマクイの話、どうも引っかかるところがあるんだよな。


 そういえば、そのヤマクイの娘さん――クノ、といったか――は今日来るって言ってたっけ。

 これから何をするのか、きちんと相談しておいた方がいいかもしれない。




 ◆ ◆ ◆




 その後、全員でこの先の行動について話し合った俺たちは、とりあえずの目標を決めた。


 まずは、今日は一日、白猿ヤマクイの娘、クノを待ちつつここに留まることになった。


 俺個人の感想では、クノに関しては半信半疑の部分もあるのだが、この世界の情報源としてこれ以上の存在はいない。

 それにあのすがるような眼差し、ここに来た時に俺たちの姿がなかったら、どれだけがっかりすることか。


 さらに言えば、直接会っていないアヤさんとスーさんのクノに対する食い付きが半端ないし、イツキの目の色だって全く違う。

 まあ、待たないという選択はない訳だ。



 では、待っている間、何をするか。


 ひとつ目は、どんぐりを目一杯集め、同時に他に食糧となるものを探す。


 食糧という面では、実は昨日ちらりと目にした草原の方が有望だ。ここよりは豊かな生態系がありそうだし、俺たちの食糧事情的にそれはとても重要だからだ。

 どんぐりだけでは生きていけない。草原なら、狩なんかも出来るかもしれないしな。


 ただ、ここにどんぐりがあるのも事実。集められるものは集めてから移動するのが確実だろう。


 これが今日することのひとつ目だ。



 そしてふたつ目は、魔法の練習だ。これほど可能性のあるものを放っておく訳にはいかない。


 火の魔法は全員がまだ充分に試していないし、他の属性だって残っている。

 俺は俺で試したいこともあるから、これはしっかり時間を取りたいところだ。



 と、そんな二つの方針を決めた俺たちは、どんぐりを求めて林の縁を歩いていた。

 林の中に入りすぎてしまうとクノが来ても分からないからな。できるだけ見える範囲で、ということだ。


 歩きながら俺は、みんなに俺の火魔法のやり方を説明してみた。護身にも使えるだろうし、できれば全員が使えた方が――と思ったんだ。


 意外なことに、ミツバがかなり熱心に聞いてくれた。いろいろとみんなで相談し、こうやって動いていることで気が紛れてくれたのだろうか。アヤさんと喋ったり、ちらほらと笑顔も見えるようになってきている。


 でもまあ、火の魔法については相性がないようだ。みんなの様子を見ていても同じで、火はどうやら俺だけってことになりそうだ。


 ならばと、みんながわいわいと練習するに任せ、俺は俺で次の段階に進むことにした。

 そう、一人でも充分な火力を得るため、もう少し威力を上げるのだ。攻撃にしろ防御にしろ、今のままじゃ心細いからな。


 少し考えた結果、さっきスーさんが口走っていた「メテオ」なるものを、俺なりに試してみることにした。

 一番初めに発動することができた炎の雲のようなものは、はっきり言って使い道が思い浮かばないうえに危険すぎる。下手すると仲間全員を焼いてしまう。あれは封印だ。


 ということでメテオだ。確かメテオとは流星群のこと、炎を野球のボールぐらいに固め、たくさん降らせることができれば結構な威力になりそうだ。


 さてと、ちょっとやってみますか。

 俺はみんなから少し距離をおいて、実験に取りかかった。少しだけワクワクしているのは内緒だ。




 まずはファーストステップ。

 炎を野球のボールぐらいに固め、手から離れても燃えるようにする。中に易燃性の核を入れるイメージでいいらしい。しかしこの核、結構脆いので、着弾地点で火炎瓶のように破裂、延焼してしまいそうだ。まあ、威力は増すことになるし、目的に沿っていることにはなるか。


 炎玉が簡単に出来たので、手の平の上に浮かばせたまま、さくさくとセカンドステップに進む。

 流星群の名前のとおり、単発では意味がない。切羽詰った一瞬に、はい避けられました、では洒落にならないもんな。ある程度の範囲をカバーするぐらいに大量の炎玉を作る必要がある。


 結論から言うと、これも意外と簡単に出来た。一個作ってあればそれを複製できたのだ。初めの一個をコピーして二個へ、二個をコピーして四個、四個を八個、倍々ゲームであっという間に周囲を埋め尽くす量になった。計算ではええと、二百五十六個になるか。一回のコピーは一秒弱、全部で十秒もかかっていない。


 が、ここで問題発覚。

 炎玉は俺の周りでしか作れないようだ。そういえばあの炎の雲も、俺の視点の先、手を伸ばせば届きそうなところが炎の起点だった気がする。


 さて、流星というから上から降らせるイメージだったんだが、どうやらそれは難しいらしい。俺の周囲に浮かぶこの大量の炎玉を上空にいったん打ち上げるぐらいなら、ここから素直にまっすぐ狙う方が妥当だ。仕方ない、若干の計画修正ってやつだ。


 サードステップ。

 俺を取り囲むように浮かぶ炎玉の群れを、とりあえず目に入った少し先の大木に向けて一斉に飛ば――そうとして危うく思いとどまった。


 山火事になるじゃないか。


 俺は二百五十六個の炎玉を、咄嗟に空に向けて放った。

 シュシュシュシュッと軽快な音を立て、野球ボール大の炎の塊が次々に勢いよく飛び立っていく。

 それぞれが微かな炎の尾を引き、メテオというよりグレネードランチャーのようだ。


 発射と同時に構造をかろうじて変え、中の核を壊したお陰で、炎玉は上空二十メートルほどで燃え尽き消えていく。


 危なかった。

 うん、これもよほどのことがない限りは封印だな。




「す、す、すっげーっ!」


 俺が内心で冷や汗をかいていると、みんなが目を丸くしてこっちを見ているのに気が付いた。

 何やら叫んでいるスーさんのテンションがヤバい。またやらかしたか。


「えと、スーさんが言ってたメテオだっけ? やってみた」


 俺が苦し紛れに口を開くと、かぶせ気味にスーさんがまくし立てた。

「今のメテオ違う! でも、すっごいカッコイイ! さすがケースケ君っ」


「ま、まあ、何か自衛用の手段があってもいいかなって」


「いやいや、自衛どころかオーバーキルでしょ! 過剰火力すぎだよ! ファイアーボールなんてどんなラノベでも最初は単発だって。それをあの数――まだ魔法の発動方法も手探りなのに、やってみたってまあ、さらって言ってるけど、それチートレベルだから!!」


「さっすがケースケさん! 自分、尊敬するっス!」


「うふふ、ケースケ君て、真面目な顔して魔法使いなのね」

 イツキどころかアヤさんまでしれっと口を挟む。いやいや待て待て。それは褒めてないから。


「あ、あの、ケースケさん、かっこよかったです」

 ミツバ、可愛い顔してお前もか。だんだん元気になってるのはいいが、それは方向が間違ってると思うぞ。今は決して、女子高生がほんのりと顔を赤らめる場面ではない。どうしてこうなった。


「なんとまあ驚きましたが……さっきのがいつでも出来れば、昨日の化け物でも怖くない、ですね」


 櫛名田のおっさん、ナイスフォローだ。

 さすが大人は違う。

 この人と一緒に来て良かったと、俺は再び思いを新たにした。




次話「土魔法」

お楽しみいただければ幸いです。

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