こんな夢を観た「通学時の決まり」
予鈴が鳴っても、教室の中はまだざわざわと騒いでいた。
「チャイムが鳴ったんだから、もう着席しなさいよっ」と学級委員が叫ぶ。すると、すかさずヤジが飛んでくる。
「うるせー、ばーか。先生でもないクセに、いちいち命令すんな」
小学校など、どこもこんなものである。
「来たぞっ、早く席に着け!」廊下を見張っていた男子が、みんなに報せる。学級委員が言っても聞かなかったのに、彼の声で一斉に自席へと戻っていく。
廊下をぺたぺた歩くサンダルの音が聞こえ、前側の引き戸がガラガラッと開いた。
「おはよう、みんな」先生が教壇から声をかける。
「おはようございますっ」わたし達は声を合わせて挨拶をした。
先生はコホン、と軽く咳払いをすると、黒板の方にくるりと背を向ける。
チョークを取って、大きく「通学時のきまり」と書いた。こちらに向き直ると、改まった様子で話しはじめる。
「授業を始める前に、ちょっとお話しがあります」
教室中に私語が広がる。
「はい、静かに。このクラスにはいないと思うけれど、近頃、自家用車で通勤してくる者がいます」
お前だろ? なんだと、そっちじゃねえのか、とひそひそ声が聞こえてきた。
「静かに、と言いましたよ」先生は、声のした方にちらっと視線を投げかけて注意を促す。「いいですか、みんな。あなた達はまだ小学生なんです。クルマを運転してはいけません。ましてや、学校へ乗ってきては絶対にダメですよ。うちのクラスではないとわかっていますけど、もし見つけたら、クルマは没収します。わかりましたね?」
ようやく、いつも通りの授業が始まる。
休み時間、いつも3人一組の小林、野島、加藤が、窓際でわいわいとおしゃべりをしていた。
「野島、お前、デミオで来ただろ。おれ、見たんだぞ」小林がはやす。
「うっせい。お前こそ、3台くらい後ろをもたもた走ってたな。あのベンツ、父ちゃんのだろ?」野島も負けじと言い返す。
「ばかだな、君ら。ぼくなんか、地味にワゴンRで来たよ。目立たないからなあ、軽は。いいぞ、軽。燃費もよくって、小回りが効くし」
あの3人組、車で来てたのか。先生があれほどいけないって言っていたのに。
「むぅにぃっ」わたしの机で頬杖をつき、中谷美枝子が覗き込んでいる。「どうしたのよ、ぼーっとしちゃって。あっ、それはいつものことかぁ」
「あ、中谷っ」わたしは顔を近づけて、今聞いたことを小声で話した。
「ああ、あいつらね。ほんと、男子って」中谷は軽蔑するように3人を見る。
「まったく、子供のくせにクルマなんか……。事故でもしたら、どうするんだろう」わたしは憤慨した。
「見つかったら、取り上げるって先生が言ってたのにね。誰が聞いているかもわからないってのに、つくづくばかだ」
「えっ、怒るところそこ?」わたしはちょっと、びっくりする。
放課後、校門を出たところで中谷が追いついてきた。
「どんどん先行っちゃうんだからなあ」中谷が口をとがらす。
「ごめん。中谷、今日、クラブかと思ってた」
「ソフト・ボール? やだな、あんなのとっくに辞めちゃったよ」けろっとして答える。「それよか、こっち来て。学校の裏」
学校の裏には公園がある。商店街も近いので、時々、たい焼きを買って寄り道をすることがあった。
「今日はあまり食べたい気分じゃないんだよね」わたしは言う。
「たい焼きなんか買わないよ。そうじゃなくって――」
とにかく、ついていくことにした。
「あれっ、公園の入り口はこっちじゃん」わたしは公園を指差して言った。
「こっち、こっち」中谷はその先をさらに歩いていく。公園の駐車場があるばかりなのに。
駐車場は、平日の午後だというのに満車だった。
目の前に停まっていた赤いミニクーパーのハザードが、パッパッと点滅する。
「送ってくよ」中谷はすまし顔でそう言った。
「えーっ?!」
「何よ、えーって。男子はばかだけど、あんたもたいがいだね。免許なんて、こっそり取っちゃえばいいんだって」運転席に乗り込むと、助手席のドアを開けてくれる。「乗って」
エンジンを暖めていると、駐車場に大勢の小学生がわらわら集まってきた。
みんな、わたしのクラスメイト達だった。




