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まっくら森のお姫様

作者: 糸井ふゆ

薄暗い森に住むお姫様

昼なお暗いまっくら森で


きらい、きらい、大嫌い

みんなみんな大嫌い

お姫様は顔を歪ませて叫びます


まっくら森には王様もお妃様もいません

だから誰もお姫様の口が悪いのを咎めません


きらい、きらい、大嫌い

みんなみんな大嫌い

誰も私を好きになってくれないから

誰も私を助けてくれないから

きらい、きらい、大嫌い


リスは思いました。

あんなに口が悪くなければ、

にこりと笑顔を向けてくれれば、

友達になってもいいのになぁ、と。


だけど、リスはお姫様が怖いので、木の葉に隠れてでてきません。


お姫様のドレスの裾は木の根に引っかかってほつれています。

ずっと歩き通して足がずきずきいたみます。


きらい、きらい、大嫌い。

お姫様の目には涙がいっぱい溜まっています。


泣いてしまえばいいのに、

歩くのを辞めて眠ってしまえばいいのに、

そうしたら、おいらが餌にしてあげるのに、

狼は思いました。


だけど、狼はお姫様がよく切れるナイフを持っているのを知っているので、

そっと足音を消してついていきます。


きらい、きらい、大嫌い

お姫様は木のウロをみつけました。

ウロに潜り込むと、おしゃべりなリスや、危険な狼が入り込んでこないよう、小枝で蓋をして身体を息めました。


きらい、きらい、…大嫌い

王様もお妃様もいない森のなか、

獣たちも近寄れないウロのなか、

お姫様は膝を抱えて呟きます。


お母様は私を愛してくださらなかった。

お父様も、お兄様も、お姉様も、

じいやもばあやも、乳母さえも、


お姫様は思い出します。

優しいお母様。

威厳のあるお父様。

聡明なお兄様。

美しいお姉様。

物知りなじいやに、

器用なばあや、

乳母は歌が上手でした。


だけど、お姫様には何一つ美点がなかったのです。

少なくとも、お姫様はそう思っていました。


だからお城には帰れないのです。


きらい、きらい、大嫌い。

みんなみんな大嫌い。


そう呟きながらお姫様の身体はふるえています。

まっくら森の夜は寒いのです。


お家に帰ればいいのに、

みんなみんな大好きと言ってみればいいのに、

愛されたかったら、

まず愛することでしょう。

ミミズクはお月様にいいました。


お月様は困った顔で笑いました。

そんな簡単なことではないよ。

お姫様は王様のこともお妃様のことも愛しているよ。

だけどねぇ、やっぱり帰れないんだよ。

せめて私に姿をみせてくれればいいんだけどね。


お姫様はウロの中で眠っているのでお月様とは会ったことがありません。


きらい、きらい、大嫌い

お姫様は寝言でもそう呟きながら、

はるか昔かはるか未来の夢をみました


夢のなかでお姫様は一頭の白い馬でした


きらい、きらい、大嫌い

みんなみんな大嫌い


そういなないて駆けていく白馬を

太陽だけが追い掛けます


いつかお姫様が森をでて

太陽にあうことができればいいのでしょうが

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― 新着の感想 ―
[一言] 不思議な詩ですね。 哀しい話のはずなのにあまり哀しいとは感じずに、寧ろ、お姫様に幸福が訪れることを願っている自分がいます。 おそらく、お姫様の正直な本当の気持ちが文章に書いてあるからなのだろ…
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