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7 江川頼子:激怒

 学校帰りに岩井哲のことを尋ねた私に、吉成ちゃんは「わからないけど、ごめん」と謝った。


 およよよ。


 吉成ちゃんが私に何か隠し事をしている。


(うん、いい感じ)


 何か隠したいことがある時の笑顔と「ごめん」のワンセット。


 吉成ちゃんは気づいていない。


 でも、別に無理に聞き出すことはないし。


 こうして悩んだり迷ったりすることによって、人は成長していくわけだし。


 でも……。


 「無理はしないでね」と言った私に、吉成ちゃんは曖昧な笑みを浮かべた。




 いったい何をした、岩井哲。





 

「ふわあ、いいお風呂だったー」


 私は長い髪をバスタオルでぐるりと巻くと自分の部屋へ入った。

 バスタオルじゃないと足りないのだよ、布面積が。


(うーん……)


 やっぱり、自分の部屋より吉成ちゃんの部屋の方が居心地がいいなあ。




 私の家にはほとんど誰もいない。


 兄弟はいないし、両親はほぼ仕事で戻らない。


 生活に必要なお金は口座に入金される。


 ダイニングのテーブルに現金が、ですらないんだもの。


 どれだけ家に戻らないかって感じだね。


 吉成ちゃんちはおばちゃんもおじちゃんも吉成ちゃんも、いつも私がいくと歓迎してくれる。


 よっぽどあっちのが家族がいる『家』という気がする。




(でも、あっちに住み込むわけにはいかないしなあ)


 私はふう、と溜め息をつくと、勉強机の前に腰を下ろした。


 勉強机と言っても、ここで勉強したことなんかほとんどないけどね。



 机の上には、いくつかのフォトフレームが飾ってある。


 その写真のほとんどは、私と吉成ちゃんが写っている。


(これはたしか、幼稚園に上がる前のものだったっけ)


 指でつんっと弾いてみる。


 写真の中の吉成ちゃんは、今みたいに優しい笑顔をしているのではなく、どこか不安げな顔をしていた。

 この頃はまだ、私と吉成ちゃんの背も、そんなには違わなかった。


『吉成ちゃん、こういう時はね、にっこり笑えばいいんだよ』


 昔吉成ちゃんにそう言った、自分の声が不意に蘇る。


 

「吉成ちゃん……」

 

 私はこてりと机の上に突っ伏した。


「もう、無理に笑わなくてもいいんだよ。もう、誰も吉成ちゃんをいじめる子なんていないんだから……」


 泣きそうな顔の、幼い頃の吉成ちゃん。


 もう、そんな顔をしないで、大丈夫だから………………………………ぐう。





 私はその夜、髪も乾かさないまま眠り込んでしまったのでした。


 でも、風邪なんかひかなかったよ。


 だからと言って、「何とかは風邪ひかない」じゃないからね。





 次の日、私は用事があるので先に帰っててと吉成ちゃんに言われ、ふと読みたい本があったことを思い出し、図書室へ向かった。


 でも、借りたい本はすでに貸し出されていたので、予約だけ入れて図書室から出た。



「……江川!?」


 と言う声に私は振り返った。


「何だ。金田か」


 金田はこの高校の二年生だ。


 同じ中学の出身で、私の先輩にあたるけど、あることがあってから先輩後輩の関係ではなくなった。


金田は見た目がごつくてでかくて厳つくて性根が悪そうで実際中身もそうなので、見られていると喧嘩を吹っかけられているとしか思えない。


「おま…、金田って、仮にも俺はお前より年上…」

「何? やる気?」


 気は乗らないけど、そっちがその気ならしょうがない。

 私は肩をほぐすようにぐるりと回した。


「じょ、冗談じゃねえっ。誰がお前となんか……!」


 金田は慌てたように、バタバタと両手を振った。


 

 なんだ、違うのか。


 私はとりあえず肩から力を抜いた。



「で? 何? 何か用?」


 だったら早くして欲しい。


 金田となんか口をきいてたら、話してるそばから口が腐りそう。



「…って言うか、お前、何でここにいんの?」


「……あ? 別にどこにいてもいいでしょ」


「そうだけどよ、何か昨日お前を賭けて勝負だとか言ってた奴がいたからさ」


「……は? 賭け?」


 私の反応に、金田は拍子抜けしたみたいな顔をした。


「何だ、知らなかったのか? 俺昨日授業サボって屋上で寝てたんだけどさ、何だかやたらでかい大声が聞こえて目が覚めたんだよ。そこに、男が二人いてよ、一人は秋吉でもう一人は見たことのないチビだった。あいつらから見たら俺のいた場所は死角だったみたいで、気がつかなかったみたいだな。んで、何とはなしに聞いてたら、お前を賭けて勝負だなんだって、チビの方が。命知らずだなあって俺思わず……ひっ! え、江川……」

 


 これでわかった。

 昨日吉成ちゃんの様子がおかしかったわけが。


 しかし、岩井哲。


 人を景品か何かみたいな扱いをしてくさりおって。


 あんの大馬鹿が。どうしてくれよう…………。



「じゃ…じゃあ俺はこれで」


 目が据わってきた私に恐れをなしたのか、その場からそそくさと離れようとした金田の首根っこをがしっと捕まえた。


「ぐげっ」


「それで? まだ話は終わってないよ? 何で勝負だとか、どこで勝負だとか叫んでなかった? あの馬鹿は」


「た、確か…、剣道って…」


「そう」


 それだけ聞き出すと、用済みとばかりに私は金田から手を放した。


 わざと締め上げるように掴んだので、咳き込んでごほごほとやってる金田は取り敢えず捨て置いて、私は格技場へ向かった。

 剣道の試合をするなら、きっとあそこだろうから。





 おのれ、岩井哲。


 あんたの浅知恵なんかお見通しだってのよ。


 目に物見せてやるから待ってなさい!





 私は怒り心頭のまま、格技場へ向かって、全力で駆けだした。



 

 

 



 






頼子、ぶち切れ中です。

ただ金田への対応は、基本スタイルです。

理由は吉成視点の時に。

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