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5 江川頼子:フォロー完了

「俺は絶対諦めないからな――――――!」


 話の最中、岩井哲はちょっと泣きそうな顔をしてそう叫ぶと、すごい勢いで教室から出て行った。


 彼自身は気がつかなかったろうが、クラス中の視線を一身に集めて。



(…………最っ高!)



 私は腹を抱えて、込み上げてくる笑いを無理矢理抑え込んだ。


 表情にはどうしても出てはしまうが。



 やはり、岩井哲。


 反応の良さが人とは違う。


 すぐ底が見える相手はつまらないと思ってた。


 だからずっと吉成ちゃんだけで満足だった。



(でも、知らなかったわ)



 あそこまで裏のない、単純一直線の人間が、あんなに面白いなんて。


 吉成ちゃんが曲がりくねって飛ぶボールなら、岩井哲は曲がることを知らないストレートボールのよう……。


 こんな対極の人間がいるなんて。



(やっぱり、運命の出会いだと思うのよ)


 

 ぷくくくくと笑みをこぼしていると、ぽんっと頭に手を置かれた。


 見上げると、そこには吉成ちゃんが立っていた。


「こら、頼子。お前はまた、哲に何を言ったんだ? 教室の出口の所で飛び出してきたあいつとぶつかりそうになったけど」


 呆れたようにそう言う吉成ちゃん。


「たいしたことじゃないよ? それより吉成ちゃん遅かったね。委員会はもう終わったの?」


「うん。たいした用じゃなかったしね。でも……」


 吉成ちゃんは、岩井哲が出て行った方を気にしている。


「吉成ちゃん、気になる?」


「……うん。僕やっぱり様子見てくるよ」


「そ? じゃあ屋上へ行くといいよ」


「屋上?」


「だって何とかと煙は高い所を好むって言うでしょ?」


「……頼子」


 吉成ちゃんは軽く頭を抱える。


「なんてね。岩井哲の行動パターンからの推測よ。でもこのまま戻ってこないつもりなら、あながち外れてもないはずだから」


「 ん、わかった。行ってみるよ。じゃあ頼子、先生へのフォロー、頼めるかな」


「ラジャー」


 私が親指を立てて了解すると、吉成ちゃんは花が咲き誇ったような笑顔で頷いて岩井哲を追って教室から出て行った。



(本当にあれは笑顔のバーゲンセールだなあ)



 しみじみそう思ってると、今度はクラスの女子生徒が私のまわりに寄ってきた。


 聞かれることはわかってる。


「ねえねえ、江川さんと秋吉君って付き合ってるの?」

「仲いいよね」

「羨ましいなあ」


 はっきり言って、私にとってこの手のガールズトークは非常にうざいものがある。


「別に、付き合ってないよ」


 事実は事実。

 端的に、私はそう答えた。


「えー、嘘ー」


 なぜ嘘をつく必要がある。


「でも、秋吉君って、やっぱり江川さんだけにはなんか違うよね」


 そりゃ幼馴染だし。


「ここだけの話にしておくから、ねね、本当はどうなの~?」


 この手のここだけの話は大抵ここだけで収まったことはないだろう。

 と言うより収める気もないだろう。


「そうそう。みんなそこのとこ気になってるってゆーかー」


 どうしてこう型にはまった行動しか取れないんだろうか。


 こういう人達には興味が持てない。


 岩井哲のように、言っていることと思っていることが常に一緒ではないことは当たり前のことだ。


 まあ、あれもたまに嘘を口にするが、表情でもろばれだけど。


 だけど、この人達の反応はワンパターンでひねりもなければ飽きもくる。


「江川さんは、どう思う?」


 これは探り。


 本当に私の意見を聞いているのではなくて、そこから私と吉成ちゃんとの関係を探っているのだ。


 だから、どう思うって聞かれても。


「幼馴染だからでしょ」

 

 と答えるより他ない。


「えー、そうかなー」

「でも、そうかもねー」


 きゃあきゃあとクラスの女子達はどこか嬉しそうだ。


 疑い半分、安心半分といったところか。



(本当に、つまらない)



 分析する余地もない。


 どういった反応が返ってくるか、わかりきってるのだから。


 


 せっかく岩井哲とのやり取りで楽しい気分だったのに、台無しにされた気がした。

 


  

 これ以上何か聞かれても面倒くさいので、私は椅子から腰を上げた。


「あれ、江川さんどこ行くの?」

「秋吉君の所?」


 黙って出て行ったらついてきかねない彼女らに、私は表情には笑みを浮かべ、その裏に「ついてくんな」のオーラを発しながら言った。



「トイレ」



 そしてそのまますたすたと教室を出て行くと、彼女らは「行ってらっしゃい」とついてはこなかった。



私は溜め息をつく。


(モテる幼馴染も楽じゃないわ)



 こういう溜め息は、楽しくない。






 トイレから戻ってくると、吉成ちゃんと岩井哲はまだ戻ってきていなかった。


 そして、戻ってこないまま授業開始のチャイムが鳴って、先生が来てしまった。


「お? 秋吉と岩井はどうした?」


 先生が聞いた。


 よし、吉成ちゃんから頼まれてたフォローをしなくては。


「先生」


 私は手を挙げると言った。


「岩井君が消費期限を三日過ぎた調理パンを食べておなかを痛くしたので秋吉君が付き添って行きました。今頃は保健室かどこかのトイレにいると思われます」


 シンと静まる教室内。


「お…おお、そうか」

「ええ、そうです」




 後日、この経緯をクラスの友人より伝えられた岩井哲が、声にならない羞恥の叫びを上げることになるのだが、そんなことは私の知ったことではない。




 よし、フォロー完了っ!



 


 

実は三者はよく似てます。

秋吉吉成は受入容量は大きいけど、できない点。

江川頼子は受入容量は大きいけど、しない点。

岩井哲は受入容量は大きいけど、視野が狭い点。

過程は違っても結果は一緒というやつです。

え? 何の受入容量かですかって?

それは、〇〇〇〇のです。

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