4 岩井哲:新たな勝負へ
誤字脱字は御勘弁下さい。
……決意はしたが、現実はそううまくいくはずもなく……。
「中間全敗おめでとう」
俺はその声に、手に持っていた採点済のテストの解答用紙をぐしゃりと握りつぶした。
「……うっせ」
「聞こえないわよー? そんな小さな声じゃあ」
面白がるようなその物言いに、俺の苛立ちは高まっていく。
「うっせーって言ってるんだよ、このチビ!」
そう言って、俺はそいつを思いっきり睨んだ。
しかし、そいつは少しも動じる様子はない。
「人の身体的特徴を持ち出すのはあまりよろしくないわね。程度が知れてしまうもの。それに、あんたも人の身長のことを言えるほどじゃあないと、お・も・う・け・ど?」
「ぐ……っ」
言い返せない。
実際俺も男子高校生の平均身長を下回っているからだ。
ふふん、と愉快そうな表情をしてこちらを見ている、こいつの名は江川頼子。
背が低いくせに、頭が小さくてバランスがいいから不格好ではない。
髪が腰まである長さで、独特な雰囲気を持っていて、何故だか目が離せない。
こいつは苦手だ。
言うことに、いちいち容赦がない。
しかも、あながち間違ったことも言ってないので返答に困る。
おまけに弁が立つのでいつの間にか、言いくるめられてしまうことも間々ある。
それに、江川が苦手な理由はまだある。
というよりこれが最大の理由だろう。
「大体、吉成ちゃんにいっつも僅差で負けてたって、別に全部じゃないじゃない。確かに、中間テスト全教科とスポーツテスト全種目はそうだったけど、身長と体重と毎朝のラブレターやプレゼントの数はダンチでしょ?」
主に負けてる方向で。
ていうか今時ラブレターってなんだよ。見たことねえよ、他では。
「…………ぐ」
「さっすが吉成ちゃんよね。私も幼馴染として鼻が高いわー」
こいつは、江川は秋吉側の人間なのだ。
幼馴染とかなんだかんだで高校生になってまで男をちゃん付けで呼んでいる。
そして、秋吉もそれを嫌がっている様子はない。
「いい加減に諦めたら? 時間がもったいないよ? 別に吉成ちゃんに拘らなくってもいいじゃない。吉成ちゃんは吉成ちゃん。あんたはあんたなんだから。それよりもっと別の方向に目をやって……」
「うるさいうるさーい!」
それ以上耳に痛い江川の言葉を聞くのが嫌で、俺は机を叩いて立ち上がった。
「なんと言われようと、俺は絶対諦めないからな――――――!」
俺はそう捨て台詞を残すと教室から飛び出した。
だからもちろん俺は知らなかった。
俺が出て行った後、江川が腹を抱えて笑っていたなんて。
(ああ、情けねえ…………)
我ながら、本当に情けないと思う。
情けないと思うが、これが自分なんだから仕方がない。
俺は一気に屋上まで駆け上がると、ごろんと大の字になって寝そべった。
もうすぐ午後の授業が始まる。
そのせいか屋上は誰もいなかった。
俺はサボリを決め込んだ。
授業になんか出る気がしなかった。
「ああっ、くっそー。腹立つなあ!」
思わずそんな言葉が口をついてでる。
「……哲?」
ひょいと真上から自分を覗き込んできた相手に、俺は思わず固まった。
「……あ」
「あ?」
「秋吉!?」
なんでここにいるんだ?
教室にはいなかったはずなのに。
「教室の出口のところでぶつかりそうになったんだけど、気がつかなかった?」
「…………」
まったく、気がつかなかった。
俺は一つのことに夢中になると、他のことに目がいかなくなる傾向がある。
それで少し困ることもあるが、簡単に直せるなら世話はない。
「頼子が酷いこと言った? 僕に免じて許してやってくれないかな」
秋吉はそう言うと、俺の横に腰を下ろした。
「なんでてめーに免じてやんなきゃなんねーんだよ!」
そもそもてめえが元凶だっつの!
心の中で突っ込みを入れつつ、俺は起き上がって坐りなおした。
「もうチャイム鳴ったろ。さっさと戻れよ」
「大丈夫だよ。頼子がうまく言っておいてくれるだろうから」
そう言って、秋吉は俺の横から動こうとしない。
だからといって、俺の方が動くのもなんだか癪に障る。
「誰もいない屋上っていうのも、結構気持ちがいいものだね」
「俺がいるだろ」
「僕と哲しかいないじゃないか」
「……」
そういえば、こいつとこんな風に会話をしたことはなかったよな、と思い至る。
俺は横目で秋吉を見た。
(……確かに、女たちが騒ぐのもわかるよなあ)
中学の頃もおもったが、その頃より更に男っぷりが上がってる。
下手な芸能人よりも容貌もスタイルもいいんじゃないか。
身長だって俺よりずいぶん高い。
中学の大会の時、胴着を着て竹刀を構える姿は確かに様になっていて、腹だたしい思いの裏に、羨望を感じたことも否めない。
こう、ありたいものだ、と。
(……あれ?)
でも、そういえば……。
「なんでお前、高校では剣道部に入部しなかったんだ?」
「哲だって入部しなかっただろう?」
「質問を質問で返すんじゃねーよ」
「ああ、ごめん」
つうかこいつ、俺が剣道部に入部してなかったこと知ってたのか。
そんなこと、気にもしてないかと思ってたが。
「まあ、俺は……、道場に通ってるから。お前が入るなら入るけど、勝負すんのに。じゃなければもう部活はいい」
隠してることでもないので、俺はそう答えた。
「僕も高校ではもういいかなって。でも、哲って道場へ通ってたんだ」
「ん?」
感心したように言う秋吉に、俺は引っかかって首をかしげた。
「通ってたんだって、お前もだろ?」
「え?」
「でもなければ、部員数も足りてるのに一年の春にいきなり大会になんて出られ……」
る、はずはないが、こいつならそれがあり得るのか?
小さい頃からやっていた俺よりも、中学で剣道を始めたこいつの方が勝ってたってことか?
出来がいいから、俺が一生懸命やってることでも、後から軽々と上に行っちまうってことか?
ぴきっ!
そこまで考えて、俺の頭の血管がぶち切れたような気がした。
「勝負だ!」
「あ、うん。今度はなにするの?」
秋吉は俺の本気がわかってないのか、ほわほわした笑顔のまま、そう返してきた。
(こいつ……っ)
今までだって、こいつは一度として真剣な顔をしたことはない。
それって、俺との勝負を本気にしてないっということだろう。
そんなの。
(激むかつく)
何か、こいつを本気にさせる何かはないか。
「……江川頼子」
ふと、あいつの顔が思い浮かんだ。
そうだ、秋吉の特別な相手だろう江川をかけて勝負すれば、きっとこいつも今度こそ真剣にならざるえないだろう。
「頼子がどうかした?」
急に江川の名前が出たので、秋吉は訝しげにそう聞いてきた。
「秋吉! 江川を賭けて勝負しろ。俺が勝ったら江川をもらう」
本当は江川なんか、さらっさら欲しくはなかったが、こいつを同じ土俵にあげる為には多少の嘘はしょうがない。
江川め。
散々俺をコケにしてくれた礼だ。
せいぜい利用させてもらうからなっ。
「勝負は明日の放課後だ。勝負内容は剣道の試合。わかったな!」
秋吉はぽかんと俺を見ている。
よほど、驚いたのだろう。
やっぱりこの手は効果ありだ。
見てろよ秋吉、今度こそ、絶対に俺が勝つ!
哲は〇呆の子なんだと思います。
わかりませんか? では書き換えて。
哲は阿〇の子なんだと思います。




