2 江川頼子:私の幼馴染
「運命的な出会い、だと思ったのよね」
「頼子、ホットココア飲みなよ。ほら」
ほうっと溜め息をつく私に、吉成ちゃんは私専用マグカップを渡してきた。
カップの中にはたっぷりのココアがなみなみ入っている。
「ありがとう」
私は受け取ったカップに口をつけると、ゴクゴクゴクと一気に飲み干した。
「別に一気に飲まなくてもいいのに。慌てて飲んで、頼子の可愛い口にやけどでもできたら大変だよ」
(おおう)
どこぞのホストのような発言だよ。
でも天然だよ、これ。
「大丈夫だよ、吉成ちゃん。でも心配してくれてありがと」
そう言う私に、吉成ちゃんは優しい笑みを浮かべる。
(なるほど。この笑みで女の子達はバババババンとやられちゃうわけね)
うんうん、と頷くこと今回が初めてではない。
吉成ちゃんは、秋吉吉成という、私と同じ高校一年生。
幼稚園から高校までずっと一緒のお隣さん。
百八十に近い長身に、甘いマスクと優しい言動、ついでに気の利いた性格で、女子にも男子にも大人気。
今私がいるのは、そんな吉成ちゃんの部屋。
私と吉成ちゃんは、よくお互いの部屋を行き来する。
親は兄妹のようね、とよく言うけど、ちょっと違う。
かと言って、世間様で言われているような、彼氏彼女とかいう色がついた関係ってわけでもない。
そう、私と吉成ちゃんはいわゆる同じ人種なのだと思う。
あ、もちろん日本人とか東洋人とかっていう人種の意味じゃないからね。
「それで? 運命的な出会いって」
「吉成ちゃんもわかってるくせに」
「わかってるけど。相手は」
そう、その相手とは岩井哲。
「運命だと思ったの。あの日、あの時……」
私はほうっと溜め息をつくと、手にしていたカップを置き、両手で頬を包み込んだ。
岩井哲との出会いは高校の入学式の日、教室で自己紹介をした時。
私と吉成ちゃんは同じクラスになった。
そこに岩井哲もいたのだ。
席順は男子と女子が横並びのあいうえお順。
吉成ちゃんは秋吉で「あ」だから廊下側の一番前の席。
岩井哲は「い」で吉成ちゃんの真後ろだった。
ちなみに私は吉成ちゃんの隣の列で前から三番目、岩井哲の斜め後ろだけどね。
「秋吉吉成です。一年間、どうぞよろしく」
と、吉成ちゃんが無難以外のなにものでもない自己紹介の挨拶をした後、次は岩井哲の番だった。
岩井哲の挨拶は意表をついた。
というか、あれを挨拶ととるかは、甚だ疑問の残るところだと思う。
「岩井哲。二中出身。高校生活での目標は……」
そこまで言うと、彼はすうっと息を深く吸い込んで、怒鳴るように言った。
「おい、秋吉吉成! 何が何でも、ぜってーてめえにだけは負けねえっ。今度こそ勝つ! 」
もちろん、クラス中静まりかえったのは言うまでもない。
宣言された吉成ちゃんも、面食らったような顔をしていた。
そして、私はというと……。
「あんな馬鹿、見たことないと思ったの」
思わぬところで、いいもの発見! 的な。
思い出し笑いで、むふふふと口元がゆるむ私を見て、吉成ちゃんはますます笑みを深くする。
「本当に、頼子は可愛いなあ」
ここでこんな反応がくるところが、吉成ちゃんの吉成ちゃんたるゆえんなのよね。
「吉成ちゃん。普通ここは、本当に面白いなあとか、本当に変わってるなあとか言うところよ」
一応の常識を教えてあげる私に、吉成ちゃんは素直に頷いた。
「でも、何かに夢中になってる頼子が僕は好きだし、本当に可愛いと思ったんだ」
(この天然スケコマシめ)
ここまで言われて照れない人はそうはいないだろうし、私じゃない女の子ならきっと勘違いしてしまうところだろう。
だけど、吉成ちゃんとは生まれた時からの付き合いの私はちゃんと知っている。
「それで、そんな吉成ちゃんは打倒吉成ちゃんに燃えている岩井哲のことも大好きなのよね? 」
「うん」
蕩けそうな笑みで肯定する吉成ちゃん。
本当に面白すぎる。
他に、こんな人間見たことない。
やっぱり吉成ちゃんは特別。
にこにこと私を見ている吉成ちゃんに、私も微笑み返す。
「私も、そんな吉成ちゃんが大好きよ」
こんなに可愛いとか好き好きいう高校生どうかと思いますが、よろしくお願いします。




