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聖血剣者伝  作者: 常陸橫
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06.勇者の式典

 おれの部屋の前に二人の女がいた。服装から察するにこの二人は召使のようだ。

「これから式典がございます」

「この服にお着替えください」

「はい……」

 暗い気分で服を着替える。二度手間というのもあるが、ついにおれが勇者にさせられるときが来たと思うと……。

「はぁ」

 思わずため息をつく。

 召使の補助があり、今度は苦もなく着替えることができた。

「では、大広場へ案内いたします」

 召使の一人に先導され、部屋を後にした。



 城の門まで来た。外には沢山の人がいるのか、とても賑やかだ。

「私の案内はここまでです。ここから広場中央までは、勇者様一人でお行きください」

「そうか、ありがとう」

 召使にそれっぽく返すが、やはり不安だ。ここまで来て逃げてしまうかとも考えた。だが、帰る宛などない。どうしたのかと考えていると後ろから声がした。

「どうなさいました? 勇者様」

 国王の爺さんだった。

「大勢の国民が、勇者を一目見ようとこの広場に集まっているのです。さあ」

 国王に押されて門の外へ。

「あ! 勇者様が出てきたぞ!」「国王様も一緒よ!」

 広場を埋め尽くさんばかりの人々が歓喜の声を上げる。これでは引くに引けない状態だ。

 おれは仕方なく広場の中央まで歩いて行った。「勇者様」と馬鹿みたいに連呼される。おれには広田豊(とよ)()という名前があるんだ、と叫びたくなった。

「こちらにおかけください」

 国王に促され、最も煌びやかな中央の椅子に座る。座り心地はいいが、豪華な装飾に落ち着かない。椅子の両サイドには貴族だろうか、国民の服より派手な服装をした者たちが一列に座っていた。

 国王が民衆の前に立つと、一際大きな歓声が上がった。この国王は人気があるらしい。国王は両手で静かにという身振りをすると一気に静まり返った。

「国民の皆さん、おはよう」

 観衆から笑いが漏れる。

「この日、我が国に『勇者』が誕生するのであります」

 国王、観衆の視線がおれに向けられる。

「勇者様、前へどうぞ!」

 拍手と歓声が巻き起こる。おれは言われたとおり、椅子から立ち一歩に出る。

「勇者様、自己紹介をお願いします」

 自己紹介? いきなりそんなことを言われてもなあ…。と思っていると、国王が懐から「これを読め」と言わんばかりに布切れをおれに渡してきた。おれはそれを口に出して読んだ。

「私の名は豊稲。この世界に来たのは、この世界で魔獣や賊に苦しむ人々を救うためだ。たとえ好みを犠牲にしてでも……」

と言いかけて止まった。いやちょっと待て。おれはそんなつもりさらさらないぞ。

 しかし、観衆は大いに盛り上がる。くそ、嵌められた。

「では、勇者の証である聖なる品々の授与に移ります」

 おれの隣にいた男が言った。観客の声から、どうやら王子のようだ。国王が聖なる品々らしきものをおれの前へと持ってきた。

「まず、指輪、腕輪、首飾りの三つの聖品、『聖なる三ツ輪』です」

 国王が指輪を右手の薬指に、腕輪を左手首に、首飾りを首にと丁寧につけてくれた。拍手があがる。どれも黄金色の金属で出来ているが、金なのかどうかは分からない。

「続いて、『聖なるベルト』!」

 今度は王子がベルトをおれに渡した。これは革製のようで、焦茶色である。おれは自分の腰に合うようにそのベルトを付けた。「かっこいい」などの歓声が上がる。満更でもなかった。

「最後に『聖剣』! といきたいところですが…」

 王子の司会が止まる。国王が前に出た。

「先日、この式のためにこの城まで運ぶ途中、港町郊外で盗賊に襲われ聖剣を強奪されたのです」

 観衆がどよめく。この街は平和そうなのに、街の外が危険なんだろうか。


「そこで、勇者様への最初のお願いなのです」

「え?」

「港町ケネバ郊外に出没する盗賊の討伐、及び『聖剣』のことについて、どうぞよろしくお願いします」



――かくして、おれの勇者としての旅が始まった。

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