05.城の風呂
目が覚めた。
「夢?」
今までのことが夢であってほしい。淡い希望を抱くが、部屋はどう見てもおれが生活していた部屋ではない。石の床に明るく日が差し込んでいる。
「風呂に入りたいな……」
何といっても、ここへ来てから一度も体を洗っていない。きっとこの大きな城には浴場くらいはあるだろうと思い、部屋の扉を開ける。
「あ、勇者様だ!」
廊下をとてとてと少女が走ってきた。昨日、最初におれがいた部屋に来た子だ。確か、国王の爺さんの孫だったっけ。
「どうなさましたか?」
ちょっと敬語がおかしい。思わず頬が緩む。
「むう、どうして笑うですか?」
「いや、別に敬語じゃなくていいよ。こっちも喋りづらいし」
とは言ったが少女は仏頂面。しかし、可愛らしい。だが、やはり汗をかいたままでは気分が悪い。この子に聞いてみることにした。
「体を流せる場所ってどこにあるのかな」
言ったあとに気付いたが、これはまさに変質者のおじさんのセリフじゃないか。そんなセリフを言ったおれは、一人で勝手に心を痛めていた。
「お風呂ならこっちだよ」
とことこと少女が走っていくと、廊下のつきあたりを左に曲がった。
「おい、待ってくれよ」
後を追いかけ角を左に曲がる。
「少女と風呂とは、感心しないな」
「うおっ!」
背後からの声に驚く。おれが曲がった方と逆にエリルがいた。右手には鞘に収めた剣があった。おれは怖気付いたが、少女は意にも介していなかった。
「あ、エリル!」
「ダメじゃないか、メル。勝手に部屋から出歩いては。国王も心配している」
「だって、勇者様に会いたかったもん」
「今日は勇者も忙しいので、どうか勝手な行動をしないでいただきたい」
エリルはそうたしなめると、王族の少女、メルを連れてその場を去ろうとした。
「そうだ、風呂が終わったら、また自分の部屋で待機していてくれ」
エリルがそう言うと、メルが思い出したようにおれに言った。
「あ、お風呂はそこを真っ直ぐ行った所にあるよ。服は着替え場所にあるのを使ってね~」
「ありがとう」
おれが手を振ると、メルは嬉しそうに手を振り返してくれた。
――おれはホッコリとした気分のまま湯船に浸かった。何も考えずに極楽なひとときを過ごした――
メルに言われたとおり、脱衣所にあった服を着ることにした。が、慣れない服を着るのは難しい。
苦心して服を着終えたおれは自分の部屋へ向かった。