03.立入禁止施設の坊主
夏河がその場で倒れる。
「xxx...xxxxxxxxx!!」
大紀がエリルに向かって走り出す。しかし、エリルは躊躇なく引き金に指をかけた。
再び銃声が響く。弾は額に命中し、大紀は勢い良く倒れ込んだ。
「夏河! 大紀!」
「安心しろ。殺してはいない」
慌てふためくおれにエリルが言う。ふとあの爺さんの言葉を思い出した。
――催眠弾を撃ち込んだんでしょう。
思い出して気を落ち着かせる。
「催眠弾か?」
「いや、言語弾だ」
その返答に思わず吹き出しそうになった。『言語弾』て……。真顔でそんな変な単語を言うなよ。そんなことを思っていると、夏河の体を起こした。
「え? 何でわたし生きてるの?」
喋っていることが分かるようになった。
「すげえ、言葉が通じる!」
なるほど、だから『言語弾』。いやしかし、そのネーミングはないだろ……。
一人で苦笑いしていると、夏河が変な目でこちらを見た。
「痛てて、頭打った」
大紀も気が付く。『撃たれた』だろ? と言いたかったが、話がややこしくなりそうなのでやめた。
「これで分かったか? この世界はお前たちのいた世界とは全く違うのだと」
これが現実だと認めたくないという思いもあるが、やはりおれたちの常識を超えている。認めるしかないだろう。
それでも、いやそうであるから、おれはこの世界に居続けるなんてのはごめんだ。
「この世界がおれたちのいた所と違うなら、どうやって別の世界へ行ったんだ?」
ダメもとで聞く。
「それに答えたら、お前たちは帰ろうとするだろう? それでは、連れてきた意味がないだろう……」
やはりそうやすやすと教えてはくれないか。しかし、エリルの言葉は続いていた。
「……そうだな、お前が私の望みを叶えたなら、教えてやってもいいだろう」
思わぬ返答だった。おれは半分諦めていたが、希望の光はまだ消えていなかった。おれはエリルに食いついた。
「その望みってなに――」
「喧しいぞ、貴様ら!」
――いつの間にか、エリルの後ろに筋骨隆々で坊主頭の男がいた。話に夢中で気が付かなかった。
目を大きい目玉をギョロギョロとしておれたちの顔を見る。
でかい、いや、強い……。
「ひぃっ、す、すみません」
夏河は圧倒され、謝るとすぐに部屋の隅に逃げた。
「む? ガトロンか。こんな所で何やってる? ここは関係者以外立入禁止だぞ」
エリルが言う。どうやら知り合いのようだ。ガトロンと呼ばれたその男は眉間にしわを寄せた。
「それはこっちの台詞だ、エリル。おれはここで護身術を教えているんだ」
「天下の武術家がこんな狭い所で護身術の教官とは…。落ちぶれたものだな」
エリルはやれやれといった素振りを大袈裟にしてみせた。
「黙れ!」
ガトロンは怒鳴りつけると、エリルを部屋の外へと閉め出してしまった。
ガトロンはこっちに向きを変え、この部屋にいるおれたち6人を集め、睨みつけるように見た。そして、おれを見るとその『ギョロ目』をさらに大きくして、体全体を見た。
「貴様の服装、この世界のものだな」
「え?」
おれは自分の服を見る。
「確かに」
「変わった服」「言われてみれば」
ガトロンはひょいとおれを部屋からつまみ出した。文字通り、首筋をつまんで。
「ここは関係者以外立入禁止だ。出て行け」
そういえばそうだった……。おれは渋々とその施設の外へ出た。