01.勇者の誕生
一発の、銃声が響いた。
陽が傾く頃だった。数少ない客の視線が向く。黒帽子を深くかぶった女の左手に銃があった。彼女のそばには男の、この定食屋の若い店員の体が横たわっている。
女は無言のまま銃をこちらに向ける。その時、夏河の悲鳴が鳴り響き、我に返った。
「……逃げよう」
おれは言葉を絞り出し、席から飛び出した。夏河や大紀も、他の数人の客も声を上げたりしながら、慌てて店の外へと駆け出す――
――再び銃声が聞こえた。
「あれ……」
突然、意識が飛びかけた。足がもつれ前に倒れ込む。どうしたんだろうか、おれは。立ち上がろうにも力が入らない。大紀か誰かに揺さぶられているようだが、反応することができない。
発砲音が繰り返される。……きっと、おれも撃たれたに違いない。
薄れゆく意識の中、おれは自分の体が軽くなっていくような、不思議な感覚を覚えていた――
ふと気付くと、おれはどこかのベッドで横になっていた。目に見慣れない石造りの天井と壁が映る。病院? とてもそうは見えない。
体を動かそうとして驚いた。あまりに不都合なく動くのだ。撃たれたのは…あれは夢だったのか? いや、それ以前にここはどこなんだ? あれこれ浮かぶ疑問。必死に考えていると、部屋の扉がノックされた。間もなく一人の少女が入ってきた。
「あっ、起きてる」
その少女は驚いたようにこちらを見るやいなや、部屋を飛び出していった。
おれもまた、その少女の、容姿に驚いた。彼女が金髪碧眼に白い肌という日本人離れした、というか明らかに外人であったこと。そして何よりその服装が独特で、どこか中世ヨーロッパを思わせる感じだったことだ。
ますます訳が分からない。おれは狂ってしまったのか? などと考えているうちに、今度は白髪の爺さんが部屋にどたばたと入ってきた。
「おお、意識がお戻りになりましたか。よかった、よかった! ご無事で何よりです」
と、やたらおれの身の無事を喜んでくれる爺さん。しかも高校生のおれに敬語で。この爺さんも服装は現代人らしくない。今のおれの頭には疑問符しか存在していない。
整理のつかないおれに、爺さんは最後の追討ちをかけた――
「我が国をお救いになってください、勇者様!」
――はあ?