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1話

「ふんっ、くだらん真似をするな。いくらお前であっても、こいつに敵うはずがない」

「待ってよ! 僕だって、僕だってやれば――!」

「見苦しいぞ! (がく)!」


赤い稲突魔(いなづま)が僕の行く手を邪魔する。目の前にいる背の高い男を睨みつける。

いくら僕の父親だったとしても、今生まれて初めて怒りに満ちている。彼に対して耐えきれぬ怒りが溢れる。

「何だその目は……貴様、息子だからと言い容赦はせんぞ」

「僕はもう父上を超えている! 悪を倒すことが正義? だったら僕は、悪になる!」

「……ふっ、フハハハハハ! 樂よ、お前はことごとく未熟で馬鹿な息子だ」

彼が放った正義の矢を打ち払う。彼は余裕に満ちた表情でニタニタと笑っている。その笑いが僕を苛立たせる。

「まあ良かろう、こんなことは前代未聞だが……魔導師打倒の前に貴様を黙らせてやる」

「……ぐっ、臨む、ところだ……」

「恐いか? だがもう引き下がることは許さんぞ。お前が売った喧嘩だ、責任を持て」


父親である彼の目はもう愛する息子を見つめる愛に満ちた視線じゃなかった。

ただ僕を討つ、そのためだけに見つめる視線……。僕の背中を冷汗が流れ落ちていく。

彼のすぐ後ろには魔導師がいて窓の外を眺めていた。どうしてそんなに静かなの? 今ならチャンスなのに!

僕を殺せるのにどうして?

「よそ見をするな!!」

「っ! ぐっふ……」

衝撃波を喰らい僕は膝から崩れ落ちた。左手を床につけ父親を睨む。

「どうした? さあ俺を殺すつもりで挑んだのだろう? 殺せ……樂」

僕はやっとの力で立ち上がり父親と同じ衝撃波で攻撃をする。黄色い光が高速で飛んでいくが彼は交わす。

その光が魔導師に迫っていた。

「危ない!」

僕がバリアを作るのと同時に、魔導師は光の玉を杖で窓の外へ弾き飛ばした。静かで冷静に……。

ホッと胸をなで下ろす。悪に加勢する自分に驚いていると、火の柱が降ってくる。間一髪で交わす。

「チッ、ちょこまかと小賢しいガキだな。逃げるだけでは勝てんぞ?」

「父上は僕を本気で潰す気?」

「ああ……もちろんだとも。掟を忘れたわけではあるまい? 親に逆らえば子を殺す許しが与えられると……」

その目はいつになく本気だった。さっきまで魔導師に向けられていた死への道は僕に渡そうとしているようだ。

殺される、これは嘘なんかじゃないと悟った。血の繋がりがある僕を闇に葬ろうとしている。

だったら本気で行かなければ、最大の力で挑まなければ勝つことなんて出来ないと思い、僕は心臓に手を当てた。

「させぬ!」

「うっ! ぐっ、あ、諦めるもんか……」

僕はまともに喰らった衝撃波に耐え、また心臓に手を当てる。最大にして強力な魔法、インジェラート。

巨大な氷が降り注ぎ敵の動きを封じる。そして細かな鋭い鋭氷(えいひょう)が降り注ぎ息の根が止まるまで攻撃をする。

それが今の僕に使える魔法だった。

「お前、その力を使えばどうなるか分かっているのか?」

「ふっ、今さら父親を気取ったってもう僕を止めるなんて不可能だよ。恐い、ですか?」

彼は悔しそうに右手を突き出し、火の柱を降らせた。

バリアを張り攻撃を防ぐ。さすがに命を削る大技は力がたまるのも遅い……。

「チッ、時間の無駄だ。ならばこちらも最大の技で貴様を葬ってやる、覚悟するがいい」

「!!!」


彼はトンと杖を床に打ちつけた。瞬間、ゴゴゴゴという地響きが部屋を揺らす。津波だ!

最大の技を三つ習得している彼は一番弱い攻撃を選んでいる。それでも、僕はきっと耐えられないだろう。

どっちが先だ。早く、エネルギーがたまってくれないと……。

「ククク……集中力が切れているようだな。怯えるがいい、水魔ともに死ぬのだ!」

僕の周りに水の壁が現れた。驚いて心臓から手を離してしまう。もう、だめだ……。

「ククク……ハハハ、フハハハハハ! これがお前に渡す最期の攻撃だ、有難く受け取れ、樂よ」

僕に迫ってくる水魔。

「母上、馬鹿な息子である僕をお許しください……」

『――諦めるな。お前は死んではならん!』

「えっ」

水魔が跡形もなく振り払われた。僕自身にもダメージはない、どういうこと。

僕の前に立つ黒紫(こくし)の布……途端、心音が速くなる。近いよ、何で、何でなの!?

「なっ、き、貴様……何のつもりだ。我が息子を、助けたのか」

「……私との決戦を中断し親子の見苦しい争いに目を背けたが、つい手が出てしまった……」

フードの中から聞こえてくる重い声が僕の心音をますます速くさせる。

目的は分からない、でも僕はこいつに殺されそうになっている。一歩後ずさりをする。

「ふむ、私が恐いか。無理もない、だが今は恐れるべき相手が違うであろう?」

「お、お前は一体……」

その問いに彼は答えなかった。


魔導師を討つはずの戦いが父親を討つという戦いになってしまっている。

もしここで魔導師が父を葬れば……僕は彼を討つだろうか。仇を取るだろうか。

「私がお前の父を葬ればお前には私を討つ理由が生まれる。だが樂と言ったか、お前が討てば私を殺す理由はない」

「……! いや、お前は僕を殺そうとした! 討つ理由はあるよ」

「そんなアリにも満たぬ理由で私を討つか……フフフ、そうか。何があっても殺す気なのだな」

そう言って僕を振り返った。

その目は……今までに感じたことがないぐらい、とてつもない目をしていた。見た者を怯ませる。

僕の手から魔法の杖が落ちる、それを拾った魔導師は、赤い光で杖を包むと同時に……。


「ぐあぁぁぁっぁぁああ!」


その光景は地獄そのもの。確実に狙われた心臓に僕の杖が……背から見えている。

まるで人形が倒れるかのように父親は倒れた。そして肉体は消失した。

魔法使いは死に至るとその体は消える。魂だけが残り、天導師(てんどうし)様が天国に連れて行くそうだ。

僕の父が天国へ行けるかどうかは分からないけど……。


「これで、お前を殺そうと企む者が一人消えたな」

「はい……ありが――!!」

杖が父親と消失し、魔導師の部屋にいるのは僕と本人だけとなった。

体中から流れ出る汗と部屋を埋め尽くす緊張感、僕は……もう生きては帰れない。

殺そうと企む者が一人……僕は父親が言うように馬鹿なのだろう。目の前にいるのだから……。

僕の命を狙うもっとも最悪にして最強の魔導師が!


「さあ、樂よ。邪魔する者は消えた……私を、倒しに来たのだろう?」

頭上から降り注ぐ声に何も言えない。ただ僕を支配するのは、恐怖、のみだった……。

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