ひとりごと
「うんうん、わかったわざわざ気にかけてもらってありがとう、そうさせてもらうよ。仕事お疲れ」
……ピッ、パタン。
買ったばかりのスマートフォンはそれはそれは見事に透き通った空色をしていた。
「最新モデル?」
「……やっぱ最新モデルは違うわな」
「へえ」
最近のスマートフォンは色んな色があるらしい。きっとこれもその部類なんだろう。
と、彼はスマホをおもむろに取り出すとまた耳にに当てた。
「お、久しぶり。うんうん元気にしてた?俺も俺もそうそう、今日のうんうん、俺はまだ行ってない。えー香典の話とかされてもなぁ……」
スマホを取り出すと即座にとり、話し出す彼。どうやら彼女の私より会話が弾むらしい。
すこし嫉妬心にかられるのもなれたが、こうも頻繁に電話やメールを堂々と目の前でされるとほんとに私は彼の彼女なのかを忘れてしまう時がある。
「明日くもりだって」
「…………」
明らかなシカトだ。
私のさっきの一言ははたから見れば独り言だった。
付き合いだしたころは二人共そうじゃなかったのに、今では会話の成立もたちゆかないほどの希薄した関係。
正直ウンザリする。
おもむろに私は空を見上げた。
いい天気だ。いつになればこんな大好きな空色のような、清々しい笑顔が溢れる二人に戻れるのだろうか。
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彼女が亡くなったことを聞いて、とにかく考えがまとまらない……というか実感がわかないのが最初だった。
つい昨日、彼女が好きな色“空色”それにちなんで彼女を驚かせたい喜ばせたい一心でなけなしの貯金をはたいて買った最新モデルのスマートフォン。
今では彼女がそれを見ることはないだろう。
そして、めげる間もなく同じクラスの同級生やらなんやらから色々なメールや電話がひっきりなしにかかる。どれもこれもが彼女関連。
気の利いた後輩が仕事のシフト変わりましょうか、といった内容の電話や、こんなとき御香典はいくらつつむべきなのかとか。それはもう沢山。
でも不思議なことに今はまだ悲しくない。
実感がない。
やはりその一言に尽きるのだろうが、彼女の声が匂いが息が、まだ近くに感じられていて、僕の目の前にまだいるようで。
そこでついつい独り言を吐いてしまう。
「明日……晴れるといいな」
そう、僕の目の前にまだいるような気がするのだ。
「うん、晴れるといいね」