『青を掴め、空を翔べ』〜国内無双・アジア制覇〜
本作を開いていただき、誠にありがとうございます。
この物語は、ハンドボールという空中戦の青春にすべてを捧げた男たちの、泥臭くも眩しい軌跡を描いたスポーツ小説です。
予期せぬ挫折、193cmの規格外な純ジャパ新入生との出会い、かつての宿敵との電撃的な結託、そして学校の壁を越えて結ばれる固い絆。学校を超えた不器用な恋。少年漫画のような熱量と爽快感、そして日常の全力のギャグをぎゅっと詰め込みました。
彼らが日本の、そしてアジアの空へと高く翔び上がる瞬間を、ぜひ最後まで一緒に見届けていただければ幸いです。
それでは、第1話へどうぞ!
青を掴め、空を翔べ
第1話:15秒の静寂と、奪われた大空
キィィィィン、と鼓膜を刺すような鋭い音が、夏の体育館に響き渡る。
電光掲示板が示す数字は「24 - 25」。後半残り時間、15秒。
県立湊高校ハンドボール部は、絶対王者・鳳学院を相手に、わずか1点差のデッドヒートを繰り広げていた。
無名だった雑草チームが、ここまで来た。
部員が5人しかおらず、廃部寸前だったあのボロ体育館から、全員で泥をすするような練習を耐え抜いて辿り着いた、インターハイ予選の決勝戦。
コートを包む空気は、数千人の観客の熱気と汗、そして床にこすれるシューズの悲鳴で沸騰しそうだった。
「蓮ッ!!」
センターバックの位置から、副キャプテンの佐藤拓海の声が鋭くコートを突き抜けた。
その手首から放たれたのは、鳳学院のガチガチのディフェンス陣、そのわずかな隙間をミリ単位の精度で縫うスピンパスだった。
(位置が、高い……!?)
いや、違う。拓海の目は、誰もいないゴール前の「空間」を見ていた。蓮のジャンプ力を100%信頼しているからこそ放たれた、超高高度への放物線。
「おう!」
キャプテンであり、湊のエースシューターである宮本蓮は、迷わず怪我のない右足で床を強く蹴り上げた。
ドクン、と心臓が跳ねる。
世界が、スローモーションになる。
普通の選手ならとっくに着地している時間。0.1秒、0.2秒、0.3秒。
蓮の体はまだ、体育館の天井に向かって昇り続けていた。「コートの風神」と呼ばれる圧倒的な滞空時間。空中で拓海のパスを吸い付くようにキャッチした蓮の視界に、鳳学院のキーパーの動きが完全に静止して映る。
(――いける。これで同点、延長戦だ!)
右腕を限界までしならせ、手首のスナップだけでシュートを叩き込もうとした、その刹那。
「飛ばせるかぁぁぁ!!」
鳳学院のディフェンス陣が、執念のブロックで蓮の体に真横から激突してきた。
空中での激しい接触。
空中で完全にバランスを崩した蓮は、無防備な体勢のまま、怪我をしていないはずの右足一本でコートの床へ叩きつけられた。
――ブチッ。
体育館に響いたのは、ボールがゴールネットを揺らす快音ではなかった。
蓮の右膝の奥から放たれた、鈍く、悍ましい生体音。
「がああああああかっっっ!!!」
着地した瞬間に、激痛が蓮の脳の全ての神経を焼き尽くした。
コートに転がり、右膝を両手で抱え込んで絶叫する蓮。
その横を、無情にも弾かれたボールが転がっていく。
ピィィィィーーーッ!!!
試合終了を告げる、長くて冷酷なブザーの音が体育館に鳴り響いた。
「24 - 25」。
エースを失った湊高校の、高校最後の夏は、わずか1点差のまま幕を閉じた。
「蓮! 蓮、しっかりしろ!」
拓海が青ざめた顔で駆け寄り、蓮の肩を激しく揺らす。ベンチからは、残された湊の控え部員たちが声を枯らして名前を叫びながら飛び出してくるのが見えた。
だが、蓮の耳にはもう、観客席の喧騒も仲間の声も届かなかった。
視界が涙で滲む。天井の白いライトが、酷く遠くに感じられた。
白一色の病院のベッドで、蓮が医師から告げられた診断名( clinical status )は、あまりにも残酷だった。
『右膝前十字靭帯断裂。全治8ヶ月』
それは、高校ハンドボール生活の終わりだけでなく、大学からのスポーツ推薦の話がすべて白紙に戻ることを意味していた。
手に残る松脂の匂いと、ベタついた感触。
すべてをハンドボールに捧げてきた男の、17歳の夏が、あの15秒の静寂の中で完全に奪い去られた。
第2話:終わらない放物線、再起のホイッスル
「……いや、だからさ拓海。なんでその顔と、そのプレースタイルで、その名前なんだよ」
放課後の湊高校のボロ体育館。松葉杖をついた宮本蓮は、佐藤拓海がホワイトボードに黒々と書きつけた文字と、その横に立つ巨体を見上げて、声を裏返らせていた。
ボードの真ん中には、冷徹な理系の文字でこう書かれている。
『新入部員:柿谷サンタマリア祐介 身長193cm』
「いいか蓮。名前は完全にサッカーのスター選手みたいだが、コイツのフットワークは、ハンドボールの常識を完全に変える」
チョークを持った手でボードを叩きながら、拓海が淡々と解説を始める。
「通常のハンドボールのディフェンスは、相手の上半身の接触を想定して面で守る。だが、コイツのステップは違う。サッカーのフェイントの技術を、193センチの長いストライドと柔軟な膝に落とし込んでやがるんだ。重心の移動スピードが狂ってる。その巨体で普通の選手が1歩踏み出す間に、コイツは3回切り返せる。蓮、お前が上空からディフェンスを撃ち抜く『風神』なら、祐介は193センチの体躯で地を這うステップを踏み、相手のアンクルを破壊する『韋駄天』だ。鳳学院の和馬の硬いDFだって、コイツのステップなら一瞬でノーマークを作れる」
拓海の冷徹かつ熱い解説を横で聞いていた大男が、ニカッと白い歯を見せて笑った。
見上げるほどデカい。だが、彫りの深いハーフのような顔立ちでも何でもない、どこからどう見ても普通の、ただただ規格外にデカい日本人の少年。
「ハーフでも何でもない、ただの純ジャパだ」
祐介は193センチの長い腕を伸ばし、床のボールを器用に右手で拾い上げると、蓮に向かってポンと優しく投げた。松脂の、懐かしい匂いが鼻腔をくすぐる。
「親が熱狂的なサッカーファンでな。名前だけこうなっちまったけど、俺はこの193センチの体をサッカーのヘディングじゃなく、手でボールを扱うハンドボールに懸けた方が100倍面白いと思ったんだよ。サッカーみたいな名前だけど、俺は正真正銘、ハンドボールの選手だ」
蓮の右膝の怪我から2ヶ月。スポーツ推薦の話は消え、罪悪感からボールを見るのも嫌になっていた蓮だったが、拓海の『名前と体格の解説』、そしてこの「193センチの純ジャパ」な新しいダチのステップを見て、胸の奥の火がパチパチと音を立てて再燃していくのを感じていた。
「12月には、冬の選抜大会の予選がある」
祐介が193センチの巨体とは思えない俊敏さで床を強く蹴り、拓海の精密なパスを最高速度のままキャッチしてゴールへ叩き込んだ。重低音の効いた爆音が体育館に響く。
「お前が跳べないなら、俺が代わりに地を這って、この長い腕で点を獲る。お前が戻ってくる場所は、俺たちが死に物狂いで守るからさ」
「……終わってねえ。まだ、終わってねえんだな」
蓮の目から、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。手に残る松脂のベタついた感触。もう一度あの空へ、拓海のパスを受け取りに跳びたい。
「おい蓮,泣いてる暇があったらリハビリ付き合えよ! 終わったら、和馬ってやつを探し出して、あいつの財布で美味いもんでも食いに行こうぜ!」
「和馬はまだ俺たちのダチじゃねえよ! ……でも、行くか!」
夕暮れのボロ体育館。
拓海の正確な解説通り、名前はサッカーなのに、193センチの体躯で「下を切り裂く最強の武器」を手に入れた湊高校。
奪われた大空を取り戻すための、彼らの青春のホイッスルは、今度こそ新しく、熱く鳴り響いたのだった。
第3話:お坊ちゃまと野生児、電撃の提携合宿
「……いくら理事長同士の電撃提携だからといって、ハンドボールの聖地に、こんな大柄な『サッカーの助っ人外国人選手』を連れてくるなんてな」
鳳学院の、プロのチームかと思わせるほど豪華で巨大な私立の体育館。
そのコートの中央で、湊高校が提出した挨拶状を指に挟みながら、冷ややかに鼻で笑ったのは、鳳学院の絶対的エース――水戸和馬だった。
和馬が指先でピシッと指し示しているのは、挨拶状に黒々と記された新入部員の名前。
『柿谷サンタマリア祐介 身長193cm』
「夏のインハイ予選で俺たちに負けて、頭がおかしくなったか湊高校」
和馬が取り巻きの部員たちを連れて不敵な笑みを浮かべ、一歩前に出た。
「エースが松葉杖の怪我人になったからって、サッカー部からデカい助っ人を引き抜いてくるなんて、とんだ雑草の悪あがきだな。ハンドボールをナメるなよ」
両校の理事長が、夏の15秒の死闘に深く感動したことで電撃的に結ばれた「スポーツ特別提携」。その初日、お坊ちゃまエリートたちの先制パンチに、松葉杖をついた宮本蓮が顔を真っ赤にして怒鳴り返した。
「サッカー部じゃねえよ! コイツは正真正銘、ハンドボールの選手だ!」
「ハーフでもサッカーの外国人でもねえ。生粋の純ジャパだ」
蓮の横から、見上げるほど巨大な影がぬっと前に出た。
柿谷サンタマリア祐介。193センチの巨体。しかし、その顔立ちは普通の日本人の少年だった。
「名前負けした雑草が、口だけは一人前だな」
和馬が鋭い目で祐介を睨みつける。ベンチプレス160kgを狙う和馬の肉体は、193センチの祐介を前にしても微塵も怯まない。
「おいお前、そんなにハンドボールの選手だと言い張るなら、俺のディフェンスを抜いてみろ。一歩でも動いたら、その長い手足をへし折ってやる」
「……いいぜ、お坊ちゃま。その言葉、後悔するなよ」
祐介が不敵に笑い、拓海からボールを受け取った。
コート中央で、和馬が鳳の絶対防壁として立ちはだかる。面で守り、上半身の接触で相手の自由を奪う、完璧な鳳のトップディフェンス。
しかし、祐介がドリブルを開始した刹那、体育館の空気が一変した。
「――シザース」
隣で見ていた拓海が、メガネの位置を直しながら静かに呟く。
祐介の193センチの巨体が、信じられないほどの超高速で左右にブレた。
それはハンドボールのフットワークではない。サッカーのトップドリブラーが、華麗な足さばきでディフェンスを幻惑する時のまたぎフェイントそのもの。193センチの長いストライドと柔軟な膝が、床を爆発的なスピードで切り裂く。
「な、に……っ!?!? 」
和馬の目が驚愕に見開かれた。右に突っ込んでくると予測した一瞬の隙を突き、祐介の重心はすでに真逆にあった。
ステップのキレが、移動スピードが、ハンドボールの常識を超えている。
和馬が上半身の手を伸ばす間もなく、193センチの韋駄天は、鳳の絶対王者をノーマークで一瞬にして置き去りにした。
そのまま長い腕をしならせ、無人のゴールネットへ強烈なシュートを叩き込む。
ズバァァァン!!!
重低音の効いた爆音が、鳳の豪華な体育館に虚しく響き渡った。
「う、嘘だろ……。あの水戸が、一歩も動けずに抜かれた……!?」
鳳学院の控え部員たちが、信じられないものを見たように、呆然と立ち尽くす。
「言っただろ、水戸」
拓海がホワイトボードの前に歩み寄り、不敵にメガネを光らせた。
「名前はサッカーだけどね、コイツのステップは本物だよ。お前たちの綺麗なデータの中に、193センチの超高速シザースの防ぎ方はデザインされてないだろ?」
コートの中央で、抜かれた衝撃のまま立ち尽くす和馬。完全に湊高校の「雑草の熱量」に圧倒された鳳学院のメンバーたち。
公立の野生児たちと、私立のお坊ちゃまエリート。
プライドと意地が火花を散らす、地獄の合同強化合宿が、いまここに最高の幕を開けたのだった。
第4話:ハイブリッドの怪物、国体を制す
「おい宮本……お前らのチームの食欲は、一体どうなってやがるんだ」
国体(国民スポーツ大会)の東京都合同選抜チームとして、見事に全国優勝を果たしたその日の夜。
東京の高級焼肉店の個室で、水戸和馬は手にしたトングを震わせながら、目の前の光景に絶望していた。
テーブルの上には、信じられない高さに積み上げられた特上カルビとタン塩の空き皿。そして、凄まじい勢いで肉を網に滑り込ませていく大男がいた。
「ワハハ! 和馬、この『特上ロース』ってやつ、めちゃくちゃ美味いな! 拓海、ライス大盛りもう一杯!」
身長193センチの純ジャパ韋駄天、柿谷サンタマリア祐介が、完全にサッカーの祝勝会のようなテンションで網の上の肉をかっさらっていく。その193センチの巨体に見合った胃袋は、底が抜けているのではないかと思わせるほどのブラックホールだった。
「おい祐介! お前、いくらなんでも食いすぎだろ! 和馬の顔が青ざめてるじゃねえか!」
松葉杖を壁に立てかけた宮本蓮が笑いながら突っ込むが、その手もしっかりと特上ハラミを掴んでいる。リハビリ中の蓮は、この国体ではコートの横から声を枯らしてチームを鼓舞し続けた。
「ふふ、水戸。これが我がチームのエースたちの『胃袋のファストブレイク』だ。諦めてそのブラックカードをリリースするんだね」
佐藤拓海が不敵にメガネを光らせながら、静かにウーロン茶をすする。
「お前ら……っ! 国体で湊の『スピード』と鳳の『パワー』が合体したハイブリッド戦術が完璧にハマったのは認める! 祐介の193cmシザースステップから、俺の重戦車パワーシュートへ繋ぐラインは最高だった! だけど、なんで優勝祝いのディフェンスを、鳳学院の俺が全額一人で背負わなきゃいけないんだよ!」
和馬の悲鳴のような絶叫が個室に響き渡る。
しかし、そんな和馬の抗議などどこ吹く風で、祐介は「すいませーん、カルビあと5皿追加で!」と店員に最高の笑顔で声をかけていた。
「和馬、和馬。お前は東京代表の絶対防壁だろ? ならばお財布の防衛線も、俺たちの攻撃を前に華麗に突破されてみせろよ!」
蓮がニカッと太陽のような笑顔で和馬の肩を組む。
「くそっ、まだお前らとダチになった覚えはねえからな……!」
和馬は涙目で愚痴をこぼしながらも、財布からブラックカードを取り出さざるを得なかった。この「雑草ども」に奢らされる理不尽さにキレながらも、その胸の奥には、共に激戦を戦い抜いた熱い充実感が確かに残っていた。
「よし! 和馬の財布の防衛線崩壊と、国体日本一を祝して、最高のダチ写真いくぞ!」
司令塔の拓海がスマホを最広角に構えてカシャリ。
画面の中には、カードを前に涙目になる和馬と、肉を頬張る193cmの祐介、そして最高に笑い合う蓮と拓海の姿があった。
公立の雑草と私立のエリートが完全に融合し、国内に敵なしの最強の片鱗を見せつけた合同チーム。彼らの無双の旅路は、ここからさらに熱く加速していくのだった。
第5話:コートの外の超速攻!時計台の下のお嬢様
国体優勝からしばらく経った秋、県立湊高校と私立鳳学院の合同文化祭が、鳳学院の広大なキャンパスで開催されていた。
「ワッフル一丁、速攻入ります!」という祐介の193センチの巨体を活かした呼び込みと、和馬の「おい、鉄壁のトッピングを崩すな!」という絶妙な連携により、二校合同のワッフル店は大繁盛。夕暮れ時、ようやく一息ついた宮本蓮は、一枚の手紙によってキャンパスの奥にある古びた時計台の下へと呼び出されていた。
黄金色の夕日が差し込む静寂の中、そこにぽつんと立っていたのは、鳳学院の生徒会長――西園寺麗奈だった。
ウェーブがかった美しい黒髪を秋風に揺らし、普段の凛としたお嬢様然とした態度とは裏腹に、その白い両手は制服のスカートの裾をぎゅっと握りしめていた。
「……呼び出してしまって、申し訳ありません、宮本様」
「いや、大丈夫だけど。西園寺、用事って何だ?」
松葉杖を突きながら首を傾げる蓮に、麗奈は一歩、すっと距離を詰めた。夕日に照らされた彼女の頬が、リンゴのように赤く染まっていく。
「夏のインハイ予選の決勝、そして先日の国体。……私、お怪我をされながらもコートの横から誰よりも熱く声を張り上げ、仲間を信じて戦う宮本様の姿から、目が離せなくなってしまいましたの。不格好でも、泥臭くても、最後に勝利を掴み取るあなたのハンドボールに、私の心は完全にハッキングされてしまいました」
麗奈は深く息を吸い込み、蓮の目を真っ直ぐに見つめた。
「宮本蓮様。私、あなたが大好きですわ。……私と、お付き合いしていただけないでしょうか!?」
「え……えええええっっっ!?」
あまりにも予想外の、コート外からの超速攻。蓮は驚きで頭が真っ白になり、松葉杖を落としそうになりながら硬直した。
第6話:大太鼓とメガホン、熱すぎる応援ディフェンス
その、感動的で甘酸っぱい静寂をぶち破ったのは、時計台のすぐ横にある生垣の茂みだった。
「いけぇぇぇぇ! 蓮! ここで決めなきゃ男じゃねえぞォォォ!!」
ガサガサと音を立てて飛び出してきたのは、手にお馴染みの赤いプラスチックメガホンを握りしめた水戸和馬だった。
ドン、ドドン、ドン!!
「――速攻、成功」
さらに和馬の後ろから、なぜか軽音部から借りてきた本物の大太鼓を首から下げた佐藤拓海が、真顔のまま凄まじい重低音のビートを刻み始める。
「ちょっとお前ら!? なんでここにいんだよ! つーか拓海、その太鼓どこから持ってきたんだ!」
「応援ディフェンスだ、蓮。僕たちのキャプテンの恋のゴールを、後ろから全力でバックアップさせてもらう」
「意味が分かんねえよ!」
大パニックになる蓮の横で、告白した当の本人である麗奈は、驚きで目を丸くしたあと、ふっと我に返ったように鈴の鳴るような声で笑い出した。
「ふふっ……あはは! 本当に、皆様はいつでも予測不能で、退屈しませんわね」
麗奈は涙が浮かぶほど笑ったあと、もう一度蓮を優しく見つめた。
「宮本様、これが私の大好きな、皆様の『熱量』です。改めて……お返事を聞かせていただけますか?」
和馬のメガホンが向けられ、拓海の大太鼓がドコドコと響く、世界一騒がしい空間。
しかし、蓮の胸の奥にある火は、激しい試合の時のように熱く燃え上がっていた。蓮は顔を真っ赤にしながら、頭をガリガリとかいて笑った。
「……おう! よろしく頼む、麗奈! 俺、まだ膝の怪我も治ってねえし、泥臭い雑草だけど、絶対に後悔はさせねえから!」
「はい! 喜んで、蓮様!」
麗奈の完璧な満面の笑顔に、和馬の歓声と拓海の大太鼓が鳴り響く。
ハンドボールに全てを捧げる男たちの青春に、最高のヒロインが正式に合流し、チーフマネージャーを引き受けてくれた瞬間だった。
第7話:激戦区を翔べ!東京代表サムライジャパン
「おいおい……選抜予選を突破したからって、このお揃いのブレザーはやりすぎだろ」
初冬の冷たい風が吹き抜ける代々木第一体育館のロビー。宮本蓮は、人生で初めて袖を通した「東京代表」の濃紺のブレザーの襟元を照れくさそうに引っ張りながら、苦笑いを浮かべていた。右膝の松葉杖はすでに外れ、まだ全力の跳躍はできないものの、軽いランニングができるまでにリハビリは進んでいた。
「何を言っているんだ、蓮。これは東京都ハンドボール協会から正式に支給された、全国一網打尽用の戦闘服だよ」
隣で同じブレザーをビシッと着こなした佐藤拓海が、不敵にメガネの位置を直した。その手には、東京予選の全試合の戦術データが詰まった薄型のノートPCが握られている。
冬の全国高校選抜大会。
夏のインハイ予選での絶望から数ヶ月、湊高校と鳳学院の合同チームは、激戦区・東京の予選を圧倒的な強さで制し、見事に「東京代表」としての切符を掴み取っていた。上空からディフェンスを威圧する蓮、地を這う超高速ステップでアンクルを破壊する193センチの祐介、そして後ろから戦車のように押し込む和馬。湊のスピードと鳳のパワーが完全に融合した彼らは、大会前から「東京のハイブリッド・モンスター」と全国の強豪から恐れられていた。
「ふん、雑草どもが少しは格好良くなったじゃないか」
ロビーの奥から、ブレザーのボタンをあえて外して堂々と歩いてきたのは、鳳学院のエース水戸和馬だった。
「だが勘違いするなよ、宮本。俺たちの目的は東京代表になることじゃない。夏のインハイで届かなかった、全国の頂点を獲ることだ」
「おう! 分かってるって、和馬!」
蓮がニカッと太陽のような笑顔で和馬の背中をバシバシと叩く。和馬は「痛てえよ野生児!」と顔をしかめたが、その口元は嬉しそうに緩んでいた。
「皆様、東京代表としての誇りを胸に、まずは一回戦、圧倒的な勝利を飾ってご覧なさい!」
そこへ、大きな大会用トランクを押しながら歩いてきたのは、この冬の大会から正式にチームのチーフマネージャーに就任した西園寺麗奈だった。麗奈が用意してくれた全国の強豪校の映像データは、拓海の戦術脳をさらに進化させる最強の武器になっていた。
「へへ、麗奈がベンチにいるなら、俺のジャンプ力もいつもの1.5倍は出せそうだわ」
「もう、蓮様ったらお上手ですこと。でも、お肉の食べすぎで体が重くなって跳べない、なんて言い訳は通用しませんわよ?」
麗奈が上品にクスッと笑うと、横から193センチの柿谷サンタマリア祐介がぬっと顔を出した。
「大丈夫だよ、麗奈ちゃん。重くなった分の肉は、俺の193cmシザースステップで全部ディフェンスを引きつけて、蓮にはノーマークで打たせるからさ!」
そんな賑やかなファミリーの前に、体育館の重い扉を開けて、一校の集団が姿を現した。
九州予選を圧倒的な破壊力で圧勝してきた一回戦の相手、鹿児島代表・桜島高校。
その中心に立つのは、大柄な体躯に無数の傷跡を持つ絶対的エース、大郷だった。
大郷は蓮たちの東京代表ブレザーを一瞥すると、挑発するように言い放った。
「おいおい、東京のシティーボーイどもが、お揃いの制服で何のお遊びだ? ハンドボールは泥をすり潰し合うスポーツだぞ」
その言葉に、和馬がピキッと青筋を立てて前に出ようとしたが、それよりも速く、蓮が一歩前に出て不敵に笑い飛ばした。
「泥なら夏のボロ体育館で飽きるほどすすってきたわ。おい、鹿児島のエース。お前らの自慢のパワーが、俺たちのハイブリッド戦術に通用するか、コートの上で試してやろうぜ!」
ブーーー、と体育館の奥から、大会の開幕を告げる激しいホイッスルが鳴り響いた。
後半戦、パワーに押されリードを許す展開となるが、拓海は大郷の突進ルートをハッキングし、和馬の誘導によって193cmの祐介が長い手足でボールを強奪。拓海の精密パスに蓮が跳び上がり、完璧な滞空時間から相手の防壁を越えるシュートを叩き込んで逆転。終わってみれば32対25の大差で、見事に一回戦を突破した。
「クソッ……完敗じゃ。東京のハイブリッド、化け物め」
試合後、肩を落とする大郷だったが、蓮が最高の笑顔で手を差し出した。
「いい試合だったぜ、大郷! これで俺たちはもう『一生のダチ』だな!」
「……ハハ、お前、いい奴だな」
「よし! 一回戦突破と新しい友情を祝して、今日の夜はすき焼きでも食いに行こう! 当然、和馬の奢りで!」
「だから! なんで全国大会の一回戦に勝っても、俺の奢りなんだよ、蓮!!」
麗奈の笑顔の追撃も加わり、代々木の夜は最高の笑顔と爆笑に包まれたのだった。
第8話:決裂のハーフタイム、涙のアイシング
冬の全国選抜大会、2回戦。東京代表合同チームの前に立ちはだかったのは、北海道代表の幌内高校だった。
彼らの武器は、北の大地で鍛え上げられた鉄壁の「組織ディフェンス」。どんなに激しく動いても、1ミリの隙間もなく完璧に連動する相手の防壁を前に、合同チームの攻撃は完全に手詰まりになっていた。
パスカットからのカウンターを浴び続け、前半を終えてスコアは10対14。4点のビハインド。
選抜大会という一発勝負のプレッシャーが、まだ結成されて日の浅い合同チームの歪みを一気に引きずり出した。
「おい祐介! さっきの場面、なんで中にパスを出さなかったんだよ! 蓮が完全にフリーだったろ!」
ハーフタイムの部室。ユニフォームを汗で濡らした和馬が、パイプ椅子を荒々しく蹴りながら祐介に怒声を浴びせた。
「あそこは相手のディフェンスが3人も寄ってきてたんだよ! 無理に蓮に通そうとしたら、またパスカットされてただろ!」
身長193センチの祐介も、鋭い目で和馬を睨みつけながら言い返す。
「二人ともやめろ。データ上、今の攻撃の失敗確率は――」
「拓海、お前はデータデータって、コートの上で必死に体張ってる俺たちの気持ちが分かんのかよ!」
冷静になだめようとした拓海の言葉さえも、熱くなった和馬が跳ね除ける。
「なんだよそれ……俺の膝がまだ万全じゃないから、みんなが気を使って狂ってんのか!?」
蓮が悔しそうに拳を握りしめ、部室の空気は最悪の形に引き裂かれようとしていた。
その冷え切った沈黙を破ったのは、激しく部室のドアを叩く音だった。
「――いい加減になさい、皆様!!」
凛とした、しかし今にも震え出しそうな声が響く。全員が驚いて振り返ると、そこには涙で大きな瞳を濡らしたチーフマネージャーの西園寺麗奈が立っていた。彼女の手にあるアイシング用の氷嚢が、カタカタと音を立てて震えている。
「夏のインハイ予選の決勝、お互いに泥をすすり合いながら魂をぶつけ合った皆様のハンドボールは、そんなに脆いものですの!? 湊のスピードと鳳のパワーが合体したのは、お互いのせいにし合うためではなく、誰も見たことがない最強のチームになるためではなかったのですか!?」
麗奈の目から、大粒の涙が頬を伝って床に落ちた。彼女はユニフォームの袖で乱暴に涙を拭うと、蓮たちの前に一歩踏み出した。
「お互いを信じられないのなら、データも、マネージャーの私も必要ありませんわ。私は……私をハッキングした、あの熱くて優しくて格好いい皆様と、一緒に全国の頂点へ行きたいのです!」
部室が、水を打ったような静寂に包まれた。
麗奈の涙の喝。それは、勝利の女神が命がけで投げ込んできた、魂のディフェンスだった。
「……わりい。俺、頭が冷えたわ」
最初に沈黙を破ったのは和馬だった。和馬はバツが悪そうに頭をかくと、祐介に向かって手を差し出した。「さっきのは俺の無理な注文だった。後半は、お前の193cmシザースステップを信じて中に突っ込む」
「俺も言いすぎたよ、和馬」
祐介がニカッと白い歯を見せ、その大きな手で和馬の手をがっちりと握り返した。
拓海がメガネの位置を直して不敵に笑う。
「よし。絆が戻ったなら、幌内の組織ディフェンスをバグらせるアドリブ戦術の修正を始めよう」
「麗奈、泣かせてごめんな。もう、絶対に負けねえから」
蓮が麗奈の涙を優しく指で拭う。麗奈は少し顔を赤くしながらも、完璧な満面の笑顔で頷いた。
後半戦、コートへ戻った合同チームは完全に一つの「ファミリー」へと進化していた。
祐介と拓海の即興のパスワークが幌内の規律をハッキングし、和馬の重戦車パワーシュートがゴールネットを揺らす。そして中央、拓海からの放物線パスを受け取った蓮が最高高度の滞空時間から空中二連撃を突き刺した。
終わってみれば28対20の大逆転圧勝。
麗奈の涙の喝によって本当の絆を取り戻したサムライジャパンは、堂々のベスト4へと駒を進めたのだった。
第9話:神話の盾をハッキングしろ!
「いいか蓮。明日の準決勝の相手、出雲・讃岐合同チームの本当の恐ろしさは、平均身長195センチの巨漢集団『神話の盾』だけじゃない」
冬の全国選抜大会、準決勝前日の夜。佐藤拓海はホワイトボードに、敵チームの不気味なデータとともに、新しい名前を黒々と書き加え、宮本蓮たちに向かって鋭い声を響かせた。
『出雲・讃岐合同:駒込 身長158cm』
「おい拓海、冗談だろ!? 2メートル近い大男たちの中に、まさかの超ミニマムが一人だけ混ざってんのかよ!」
松葉杖を外した宮本蓮が驚きで声を裏返らせるのも無理はなかった。しかし、拓海はメガネの奥の目を冷徹に光らせた。
「通常のハンドボールでは、デカい奴らを守るためにディフェンスは高い位置に面を張る。だが、この158センチの駒込は違う。あいつらは、自分たちの巨漢DFが作った巨大な影に駒込を潜ませ、僕たちの視界から完全に消す『消音の暗殺者』だ。巨漢たちの足元、つまり下のスカスカな空間を、この駒込が地面を這うような超低空ステップでハッキングして突進してくる。高いディフェンスに意識を向けた瞬間、下からアンクルを破壊されるぞ。……僕たちのハイブリッド戦術に対する、最悪のカウンターだ」
そして迎えた準決勝、出雲・讃岐合同チームとの大一番。
前半、合同チームはその予言通りの大苦戦を強いられた。2メートル近い巨漢たちの壁に蓮の滞空シュートが叩き潰され、防壁の影から突然飛び出してくる158cmの駒込の超低空ステップに、和馬のディフェンスが一瞬でノーマークに切り裂かれる。
前半を終えてスコアは11対15。4点のビハインド。
「クソッ……あのチビ、マジで視界から消えやがる……!」
和馬が汗まみれの髪をかきむしる。だが、ベンチの西園寺麗奈が手渡してくれた冷たいアイシングが、全員の脳を覚醒させた。
「皆様、お顔を上げてくださいまし! 敵が下からハッキングしてくるなら、私たちの193センチの祐介様が、さらに外側から切り裂けばいいのですわ!」
「麗奈の言う通りだ」拓海が不敵にメガネを光らせる。「後半は、駒込が潜む『下の空間』を、祐介の長いリーチで丸ごとハッキングし返すぞ」
後半戦、合同チームの猛反撃が始まった。
駒込が再び地面を這うようなステップで突進してくる。だがそこへ、身長193センチの純ジャパ韋駄天、柿谷サンタマリア祐介が長い腕を電光石火のスピードで伸ばした。
「名前はサッカーだけどな、手の長さなら負けねえんだよ!」
祐介は193センチのストライドを活かし、駒込の超低空ステップの先を読んで長い手でボールを空中でスティール! 敵の暗殺者の動きを完全に封じ込めた。
「蓮、走れ!!」
祐介の叫びと同時に、拓海の手首から精密なロングパスが放たれる。
「おおおおお!!!」
蓮が怪我を乗り越えた右足で、代々木の天井に向かって大爆発の跳躍を見せた。「コートの風神」の圧倒的な滞空時間。出雲・讃岐の巨漢DF陣が驚愕して手を伸ばすが、蓮の滞空時間はその遥か上を行っていた。
空中で完全に静止したかのような最高到達点から、相手の神話の盾の上を完全に越える弾丸シュートを叩き込んだ!
ズバァァァン!!!
客席の麗奈と大応援団から、体育館を揺らすほどの歓声が響き渡る。
この祐介の「193cmのリーチ」と蓮の「滞空時間」の前に、上も下も完全に狂わされた出雲・讃岐合同チームは崩壊。日本代表チームは29対24の大逆転勝利を収め、ついに悲願の全国決勝へと駒を進めたのだった。
「やったぜ祐介! お前があの駒込を止めてくれたおかげで勝てたわ!」
試合後、蓮が祐介の肩を組み、和馬もハイタッチを交わした。そこへ、負けた駒込が悔しそうに歩み寄ってきた。
「東京のハイブリッド、やるじゃん。俺の低さを上から潰されたのは初めてだわ。……決勝、絶対に勝てよ」
「おう! ありがとな、駒込! これでお前も『一生のダチ』だ!」
蓮が最高の笑顔で手を握り返した。
「よし! 決勝進出と、駒込との新しい友情を祝して、今日の夜は高級ハンバーグを食いに行こう! 当然、和馬の奢りで!」
「だから! なんで敵の凄腕のチビとダチになっても、俺のブラックカードが速攻で狙われるんだよ、蓮!!」
麗奈の完璧な笑顔の追撃に、和馬は頭を抱えて降参し、代々木の夜は最高の笑顔と爆笑に包まれたのだった。
第10話:代々木のキャンバス、二人の天才
「いいか蓮。京都の強豪校の恐ろしさは、天才アーティスト村上春翔の芸術と、河島剛の重一撃だけじゃない」
運命の決勝戦、代々木第一体育館の部室。佐藤拓海はホワイトボードの真ん中に、敵チームの二人の名前を黒々と書きつけ、宮本蓮たちに向かって鋭い声を響かせた。
「あいつらは、春翔の完璧な空間支配で僕たちのディフェンスを意図通りに誘導し、最後に剛の重一撃を最も防ぎにくいコースへ確実にぶち込んでくる。準決勝で戦った駒込の低さも、祐介の193cmシザースステップも、春翔の冷徹な戦術眼の前には、動く前からコースを計算されて叩き潰されるリスクがある。……正真証明、今大会最強のキャンバスだ」
「フッ、面白えじゃん。その完璧なキャンバスごと、俺たちの泥臭いアドリブでひっくり返してやるよ!」
蓮がニカッと白い歯を見せ、怪我を克服した右足で強く床を叩いた。
ピィィィーーーッ!!!
運命の決勝戦、ホイッスルが鳴り響く。
前半、合同チームは京都の完璧すぎる空間支配の前に絶望的な苦戦を強いられた。春翔の妖しく美しいノールックパスから剛の重一撃シュートが面白いように決まり、逆にこちらの攻撃は、春翔が張り巡らせたディフェンス網の前にことごとくコースを狭められ、シュートを弾き返される。
前半を終えてスコアは11対16。5点ビハインド。
「あいつら、マジで俺たちの動きを丸ごとコントロールしてやがる……」
和馬が汗まみれの髪をかきむしる。だが、ベンチの西園寺麗奈が手渡してくれた冷たいアイシングが、全員の脳を覚醒させた。
「皆様、お顔を上げてくださいまし! 完璧にデザインされたキャンバスなら、私たちの予測不能な熱量で、上も下も同時にバグらせればいいのですわ!」
「麗奈の言う通りだ」拓海が不敵にメガネを光らせる。「後半残り15秒まで死に物狂いで食らいつくぞ。最後に、僕たちの究極の五重奏をぶち込む」
後半戦、合同チームの猛反撃が始まった。拓海の精密なタクトに合わせ、193cmの祐介が超高速シザースステップで相手のマークを強引に引き剥がし、和馬のパワーシュートでじりじりと点差を縮めていく。
一進一退の死闘の末、試合はついに、後半残り15秒、26対26の同点局面を迎えた。
日本の最後の攻撃。ボールを持つのは拓海。
京都のディフェンス陣、引いては春翔の鋭い視線が、蓮の上空と和馬のパワーを完全に先読みして進路を塞ぐ。完璧な要塞と化した京都の防壁。誰もが攻めあぐねたと思った。
「蓮、翔べぇぇぇ!!」
拓海から放たれた、誰もいない空間への完璧な放物線。
蓮が怪我を乗り越えた右足で、代々木の天井へ向けて限界を超えた跳躍を見せた。
「そこだ、宮本!」
春翔の指示のもと、京都のディフェンスが蓮のシュートコースを100パーセント塞ぐように巨体で同時に跳び上がる。絶望的な壁。誰もが止められたと思った。
しかし、蓮の滞空時間は終わらない。
蓮は空中で一度シュートを打つフェイントを入れ、相手の長い腕をかわすように空中で体をさらに反らせる「空中二連撃」を繰り出したのだ!
「何っ……まだ落ちてこないのか!?」
ディフェンス陣の目が驚愕に見開かれ、先に重力に従って着地していく。蓮は最高到達点でじっとキーパーの動きを見極め、京都の美しいゴールネットの天井へ、弾丸シュートを叩き込んだ!
ズバァァァン!!!
試合終了を告げる、長くて冷酷なブザーの音。27対26。
「決まったァァァ!! 日本一だァァァ!!」
客席の麗奈と大応援団から、体育館がひっくり返るほどのブラスバンドの大爆音が響き渡る。着地した蓮の体に、拓海、和馬、祐介、そして麗奈が涙を流しながらなだれ込んだ。
コートの向こうでは、春翔が長い前髪を揺らして悔しそうに微笑み、剛も潔くこちらを向いて拍手を送っていた。
「見事だよ、蓮。僕たちの描いた完璧なキャンバスが、君たちのアドリブでこんなに美しく塗り替えられるなんてね」
春翔が歩み寄り、蓮と固い握手を交わした。この瞬間、彼らは一生のダチとなったのだ。
「よし! 全国制覇の日本一と、京都の天才たちとの最高の友情を祝して、今日の夜は東京の一番高級な焼肉を食いに行こう! 当然、日本一の記念に和馬の奢りで!」
「だから! なんで悲願の全国制覇を達成しても、相手チームのバケモノまで増えてんのに、俺のブラックカードが速攻で狙われるんだよ、蓮!!」
「ふふ、水戸。そこは日本一のチームのボスとして、快くサインを済ませるんだ。剛のあの筋肉を維持するのは、お前の財布の義務だろう?」
祐介がいたずらっぽく笑いながら和馬の背中を叩く。
「ふふ、和馬さん。私、最高級の特上霜降り牛をすでに予約しておきましたわ」
麗奈の完璧な笑顔のコンビネーションに、和馬は「国内無双したのに俺の財布が完全崩壊したァァァ!!」と笑い出し、代々木の夜は全員の最高の笑顔と爆笑に包まれたのだった。
第11話:日の丸の風神、アジアの空へ
「おい拓海、これは一体どういうことだ」
冬の全国選抜大会から数ヶ月後。U-21日本代表の合宿所。日の丸の刻まれた新しい赤と青のユニフォームに身を包んだ宮本蓮は、佐藤拓海が突きつけてきたノートPCの画面を見て、驚きのあまり声を失っていた。
画面に映っていたのは、かつて国体で優勝した夜に和馬の財布を全員でファストブレイクした、あの爆笑の焼肉動画だった。再生数は世界中で数百万回を超え、海外のハンドボール界で大バズりしていたのだ。
コメントの最上部には、イタリアの至宝と呼ばれる天才ルカ・ロッシの公式アカウントから、英語で『最高にクールなファミリーだ。いつかそのブラックカードの防壁をハッキングしに行くよ』という不意味なメッセージが残されていた。
「出来心さ、蓮」
拓海が不敵にメガネを光らせる。
「まさか、僕が匿名でアップした日本の『大食い戦術データ』を、イタリアの世界的ファンタジスタが監視しているとは思わなかったけれどね。おかげで世界中が今、僕たち東京のハイブリッドチームを警戒し始めている」
「おいお前ら……俺のプライバシーとお財布を世界に大放出するんじゃないッ!!」
遠くから、同じ日の丸のユニフォームを着た水戸和馬の悲鳴のような怒声が響き渡る。その横では、決勝で死闘を繰り広げ、U-21日本代表として正式に合流した京都の天才ダブルエース、村上春翔と河島剛が、すでにお馴染みの笑顔で並んでいた。
「フッ、和馬。世界にその名を知らしめるなんて、僕たちの新しい芸術のプロローグとして最高じゃないか」
春翔が長い前髪を揺らして微笑むと、「俺、アジア大会の機内食も今から楽しみ」と剛が静かにプロテインをシェイクした。
「よし! 新しいダチも加わったことだし、和馬の国際的な知名度を祝して、まずはアジアのテッペン、泥臭くかっさらってやろうぜ!」
蓮がリハビリを完全に終え、100パーセントの力でコートの床を強く蹴り上げた。
始まったU-21アジアハンドボール選手権。
東京のハイブリッド(蓮の滞空時間×193cm祐介のシザースステップ×和馬の重戦車パワー)に、京都の芸術(春翔の空間支配×剛の重一撃)が加わった日本代表サムライジャパンは、文字通り「銀河系最強のバケモノ集団」と化していた。
拓海の精密なタクトのもと、春翔が描いたパスのキャンバスを、193cmの祐介のステップが切り裂く。精度と強度が跳ね上がったチームワークの前に、アジアの強豪国は次々と置き去りにされていく。そして中央、拓海からの放物線パスを受け取った蓮が、アジアの巨漢ディフェンス陣のはるか上空から、あの決勝で磨き上げた「空中二連撃」を完全に覚醒させて突き刺した。
ズバァァァン!!!
決勝戦の長いホイッスル。
日本代表はアジアの並み居る強豪国を圧倒的な大差で連破し、一歩も退くことなく無敗のまま、悲願の「全アジア制覇(アジア王者)」を成し遂げた。
「勝った……勝ったぞォォォ!! 次は世界選手権だ!!」
コート中央で蓮、拓海、和馬、祐介、春翔と剛ががっちりと肩を組み、日の丸の旗を掲げて咆哮する。ベンチからは、チーフマネージャーとして国際大会のタフな交渉も完璧にこなした西園寺麗奈が、弾けるような満面の笑顔で駆け寄ってきた。
「皆様、アジア制覇、本当におめでとうございますわ! さあ、世界へ殴り込みに行きますわよ!」
「おう! 世界のバケモノども、待ってろよ!!」
蓮の掛け声とともに、拓海がスマホを掲げてカシャリ。
画面の中には、アジアの頂点に立ち、世界のルカやドレイクが待つ「世界選手権」を見据えて不敵に笑う、最高のファミリーたちの姿があった。
ボロ体育館の5人から始まった雑草たちの放物線は、日本の大空を越え、いま、どこまでも広い世界の空へと高く翔び立っていくのだった。
『青を掴め、空を翔べ』 国内無双アジア制覇編
『青を掴め、空を翔べ』第一章【国内無双・アジア制覇編】を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!
第1話の右膝断裂という絶望のどん底から始まり、宿敵だった鳳学院の水戸和馬とのまさかの結託、そして国体での合同チーム結成と、怒涛の勢いで駆け抜けた第一章でした。
試合の熱さはもちろんですが、時計台の下で繰り広げられた不器用な恋愛模様や、仲間たちの全力すぎる応援といった日常のギャグパートまで、彼らの「最高の青春」を全力で詰め込んだ章になりました。楽しんでいただけたなら幸いです。
また、今作で一際強烈な存在感を放ってくれた身長193cm・純ジャパの柿谷サンタマリア祐介や、敵の秘密兵器として立ちはだかった158cmの駒込など、凸凹ながらも愛すべきキャラクターたちのおかげで、作品の熱量が何倍にも跳ね上がりました。
激戦を終えて最高のライバルたちとも「一生のダチ」になり、無事にアジアの頂点に立った彼らですが、物語はここで終わりません。
続く第二章は【世界選手権・世界の壁編】。
舞台をヨーロッパに移し、2mを超える世界の強豪たちを相手に、日本代表が殴り込みをかけます。さらに第11話の動画をきっかけに、イタリアの至宝ルカ・ロッシをはじめとする規格外の新たなライバルたちも巻き込んで、物語はさらに熱くインフレしていきます!
それでは、さらにスケールアップする第二章でまたお会いしましょう!
――著者より




