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続続 公爵家の双子には手を出すな ~グレースと海賊  作者: 雨宮ルネ(吉田)


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「おらおら、おとなしくしろよ」

 甲板上に、おらおらした海賊のみなさん。グレースをはじめ乗組員一同は、一まとめになって囲まれていた。

 おらおらおらおら。海賊たちが詰め寄ってくる。


 なんでこんなことに……。


「行ってきまーす!」

 元気に叫んで、意気揚々と出航したグレース。

 乗った船は、王国最大手の鶴亀商会所有の大型商船だ。

 例のバカ王子と花屋の娘の件で、グレースをスカウトしたのが鶴亀商会の会長だった。

 王都での取引には、会長や専務などについて行き、取引やら交渉やらの勉強中である。今回ははじめて外国との取引に立ち会うために、専務に同行中なのだ。

 専務は会長の息子である。たぶん三十代前半。ちょっと生え際とおなかが気になるお年頃だ。ただし、王国一の大商会の役員だけあって、身なりはよろしい。上等な仕立てのスーツと帽子。いつでもパリッと糊の効いた白いシャツ。

 口先軽やかに、流れるように滔々としゃべる。たまに圧倒される。

 仕事はできるいい男。生え際とおなかの心配さえなければ、グレースも「まあ、ステキ」と思っただろう。


 今回の行先は南の国。スパイスやお茶、真珠なんかを仕入れに行く。取引と言っても実際には契約はもう交わしてあり、荷物を受け取りに行くだけだ。

 ついでに専務の息子ジョージ(九才)も同行中。

「パパのお仕事についていきたい」

 という一言で、デレた専務が連れてきたのだ。南の国まで片道二か月、全行程五か月の長旅なのだが、ママが恋しくならないか? 少々不安があるけれど、出航して二週間、今のところはだいじょうぶそう。

 今日は船員たちに、ロープの結び方を教わっている。


「こう? こうかな?」

「そう、そうですよ。それから、これをこう……」

「えーと、こうやって……。あっ、できた!」

「そうそう。おじょうずですよ。ぼっちゃん」

 パチパチパチ。


 グレースは、専務と船長と航路と寄港地の確認をしていた。好天が続き、船旅は順調だ。


 だだだだだ!

 ゆりかごのように優雅に揺れる船内を、騒々しい足音が響いた。

「船長! 船長!」

 ドアを開ける前から、叫び声がする。

「何事だ!」

 ばんっ! といきおいよくドアが開いた。

「たたた大変ですっ! かかか海賊ですっ!」

「なにぃ⁉」

 あわててグレースたちが甲板へ上がった時には、海賊船は横付けされていた。


「あらまあ!」

「お嬢様! 船室へお戻りください!」

 連れてきた侍女のマイラが、グレースを押し戻した。が、海賊はあっという間にこっちの船に乗り込んできた。もちろん、こちらの乗組員も応戦しているのだが、海賊たちの方が素早かった。

 最初の一人が、するりともぐりこみ、ジョージを人質にとってしまったのだ。

 ほんの一瞬の隙だった。突然の出来事に驚いて、身動きできなくなってしまったジョージに、海賊が襲いかかったのである。


「おらおら! この坊主の命が惜しけりゃ、抵抗するなよ!」

 卑怯にもジョージの首筋に短剣を押し当てた。

「あっ! なにをする! ジョージを放せっ‼」

 専務が叫んだところで、海賊はぐいぐいと短剣をジョージにより強く押し付けるばかりである。

「パ、パパ……」

 それでもジョージは暴れて騒いでは、よけいに事態を悪くすると思ったのか、じっと大人しくしている。目に涙をためて、真っ青な顔で、ふるふると震えていた。

 かわいそうに。


 ぐぬぬ、と専務と船長が歯ぎしりをしている間に、全員が縛り上げられてしまった。もちろんグレースもマイラもだ。そして甲板の上にひとまとめにして、座らされた。

「お? なんで貴族のお嬢さまが商船に乗っているんだ?」

 グレースの存在に気が付いた海賊が言った。旅にふさわしく、シンプルなワンピースではあるが、グレースが着ているのは高級な仕立ての物である。貴族だと一目でわかってしまった。

「わたし、商会の職員ですのよ。バカンスに行くのじゃありません。ねえ、マイラ?」

 グレースがぴしゃりと言った。

「ええ、ええ。お嬢様は優秀な職員なのですよ。お間違いなく」

 マイラもぴしゃりと言った。


「な、なんだぁ? この娘っ子ども」

「おい、そいつらは放っておけ。それより積み荷をいただくぜ」

 偉そうなヤツが黄色い歯を見せて、がははと笑った。

「へい! おかしら」

 黄色い歯のヤツがおかしらだった。

 最後にジョージが縛られて、専務に向かって、ぽんっと投げ出された。

「パパぁ、ごめんなさいぃー。ぼくのせいでぇー」

 とうとうジョージは泣き出してしまった。

「ジョージ、いいんだよ。おまえのせいじゃない。それよりだいじょうぶか。痛いところはないか」

 さいわい、血は出ていないようだ。

 抱きしめてやろうにも、専務もぐるぐる巻きだ。パパー。ジョージ。とおたがいに呼び合っている。

 かわいそうに。


 そもそも。

「なんだか、がっかりね」

 グレースがぼそっと言った。

「海賊と言ったら、肩飾りのついた襟の高いコートを着て、片腕が鉤爪になっているものじゃなくて? ねえマイラ」

「そうですね、お嬢様。なんか小汚いシャツとズボンだし、帽子もかぶっていませんよ」

「ほんとだわ。もしかしたら偽物かしら。せめて腰布くらい巻けばいいのに。ねえマイラ」

「ええ、ええ。ほんとですよ、お嬢様。帆にドクロマークもつていませんよ。海賊の風上にもおけませんね」


「おいこら、貴様ら。なに勝手なこと抜かしてんだ? 鉤爪なんか、つけるわけねえだろう。不便で仕方がねえ」

 そう言ったのは黄色い歯のおかしらだ。でも、よく見ると海賊はみんな黄色い歯をしていた。海賊って歯を磨かないのかしら?


「あなた」

 グレースがぴしりと言った。

「おかしらならおかしららしく、コートを着なさいな」

 こんな小娘、無視すればいいのに、どうにも無視できない気迫がある。だいたい、なんで偉そうなんだ? おかしらはここで怯んではいけないと、ぐっと胸を張った。

「あんなもの、重くてじゃまだろう」

「それを我慢してこその海賊じゃなくて?」

「そうですよねぇ、お嬢様。こいつら気合が足りません」

「うるせえな、もうだまれ」


「あらやだ、こういうの逆ギレっていうそうよ。マイラ知ってた?」

「聞いたことがありますよ。お嬢様」

「「やあねぇ」」


「もう、ほんとに黙れ!」

「だいたい、卑怯なのですよ。子どもを人質にするなんて」

 グレースが止まらない。乗組員たちはこれ以上海賊を煽っては、何をされるかわからないと、ひやひやするが。

「そうですよね、お嬢様。海賊と言ったら、悪者をやっつけて金銀財宝を貧しい人たちに配るものじゃありませんか。それをこいつらときたら、襲う船からして間違ってますよね。鶴亀商会は悪者じゃあありません!」


 お嬢様がお嬢様なら、侍女も侍女だな。その義賊はどこの情報だ。


「おいこら。おれたちゃ冒険小説のヒーローじゃねえぞ。略奪したら売りさばいて儲ける。それが海賊だ」

「「あらあ」」

 グレースとマイラが、目をまん丸くした。それから

「「ええー」」

 と、ひどくがっかりしたように目を伏せた。

「なんだよー! 勝手にがっかりするんじゃねえよ!」

「だってー」

 グレースが言った。

「そんな海賊はいやだわ」


 おかしらが、ぐっと言葉に詰まった。

「海賊ってそんなもんだろ?」

 グレースとマイラが、じとっと横目で見た。

「お、おれたちだって、好き好んで海賊をしているわけじゃねえよ。おれたちなんか、どっこも雇ってくれやしねえ。食い詰めてしかたなく海賊や盗賊になるんだ」

「あら、どうして雇ってもらえないのかしら?」


「おれたちゃ、みんな孤児なんだよ。親が死んだやつもいりゃあ、捨てられたやつもいる。そんなガキは、橋の下や港の倉庫の陰でこっそりと生きているんだ。ろくに読み書きもできねえ。家もねえ。やることといったら、盗みとケンカ。そんなヤツを雇ってくれる慈悲深い雇い主なんかいねえんだよ」


 お嬢様が社会の闇に斬り込んでいく。乗組員たちはハラハラしながらその様子を伺っていた。


「孤児院は?」

「そんなもの、百個あったって足りやしねえよ。孤児が何人いると思ってんだ」

「あら、そうだったの」

 グレースが首をかしげて思案する。


「それは知らなくて悪かったわ」

 え⁉

 みんなびっくり。貴族のお嬢様が、海賊に謝った。ありえない。というか、本来ならば貴族と海賊が顔を合わせることがないのだが。

 でもグレースはそんなことは気にしない。素直に知らないことは知らないと言うし、悪いことは悪いと言う。見栄を張って取り繕うほうがみっともないと思うのだ。


 あのバカ王子は、城下に頻繁に下りていたくせに、そんなことにも気づかなかったのか。ほんとにポンコツだな。

 第二王子殿下なら、対処してくれるだろうか。

 それは後程だ。今は目の前の海賊を何とかしないと。


「仕事があれば、海賊はしなくて済むのかしら?」

「そういうこったな」

 すっかり毒気を抜かれたおかしらは、素直にそう言った。

「そう。ならば、南国まで行って荷物を取って来てくださらない?」


「「「はあ⁉」」」


「ちょっちょっちょっ。お嬢様、さすがにそれは出来かねますよ」

 専務が焦りまくった。

「あら、ちゃんと契約を結ぶわよ?」

「いやー、でもー」

 専務の反応が正論である。

「ままままってくれよ」

 おかしらも焦る。

「いくらなんでも、おれたちみたいなごろつきに、仕事を任せちゃダメだろう?」

「あら、できないのかしら」

「いやいや、できるよ。できるけども! それとこれとは話が違うぞ」

「そお? できるなら、やればいいじゃない。真っ当な仕事がしたかったんでしょ?」


 そ、そうかぁー?


 全員が首をひねった。

「お嬢様、さすがですぅ。海賊による配送の実績を上げて、バカ王子に突き付けてやりましょうよ」

「そうねー。第二王子殿下に売りつけてもいいわね」

 えへへ。グレースとマイラは、悪そうな顔で笑った。


「さあさあ、そうと決まったら縄を解いてちょうだい。さっそく契約よ!」




 海賊船の名前はブラックパール号。おかしらの名前はキャプテン・ワレン。

 こうして、鶴亀商会とワレン海賊団との契約が結ばれた。

 いいのか? 笑。


 もちろん航海中の食料と水は各寄港地で供給される。報酬は任務完了を持って支払われる。仕事の結果によっては、次の依頼もする。

「責任重大よ! お気張りなさって!」

「イェスマム‼」

 海賊たちは、南を目指して遠ざかっていった。




「おねえちゃん、すごいね!」

 ジョージがにこにこと話しかけてくる。

「こらこら。お嬢様と呼びなさい。不敬だよ」

 専務が注意するが、グレースは気にしない。「おねえちゃん」いい響きだわ、と思う。

「海賊をやっつけちゃったね」

「やっつけてはいないわね。社会の闇を一つ暴いただけだわね」

「……やみ」

「そうよ。世の中には、目に見えないものがたくさんあるんだから。ジョージはちゃんとお勉強しましょうね。バカ王子みたいにならないように」

「うん! バカ王子にならないように、たくさん勉強する!」

「えらいわねー」

「えへへ」




 四か月後、ブラックパール号は無事に王国へと帰ってきた。報告を受けて、グレースは港へ出迎えに行った。

 馬車から下りてきたグレースの前には、海賊たちが一列に並んでいる。グレースを見ると彼らは、一斉に腰を折り、右手の掌を差し出した。

「「「「おひかえなすって」」」

 あらあら、なんの儀式かしら。目をまん丸くしたグレースにおかしらがニッと黄色い歯を見せた。

「無事にお勤め、果たしてきやした」

「お疲れ様。無事に帰ってこられて、よかったわ」

「へい! これもお嬢のおかげでござんす!」

 海賊たちはまた一斉に頭を下げた。

 ……お嬢ってなんだ。海賊用語か。


 それからワレン海賊団は、ワレン海運と名前を変えて、鶴亀商会の開運事業の一端を担うようになった。

 おかしらは、孤児たちを集めて下働きをさせるようになり、人手も増えて、事業は大幅に拡大した。鶴亀商会以外の仕事も請け負うようになって、今や業界大手の海運業者である。


 グレースが、第二王子殿下にチクったら、孤児院も増えた。孤児院では、読み書き計算も教えてくれるという。

 第二王子殿下は、バカ王子と違って頼りになる。

 

町から浮浪児の姿が少しずつ減っていく。


 グランヴィル公爵家の双子の片割れが、海賊をも手なづけたと、もっぱらの評判である。


  おわり


短編に設定したいのに、できない。なぜ。

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