【三】
「ふふ。それで、酷く惨めな気持ちで彼と別れたんだ。へぇえ」
あれから何日か後の、よく晴れた午後のこと。
私は中庭で、幼馴染であり悪友であるヴェラとお茶の時間を過ごしていました。
ヴェラ。
美しいけれど生粋の皮肉屋であり、今もニタリとした笑みを私に向けながら、面白おかしそうに私の身の上話を反芻しながら、紅茶に口を付けております。
優美を好み、攻撃的で、金剛石のように存在確かな我の主張を持っている。
私と何もかもが違う女性。
……けれど不思議と、気は合うのです。
なんででしょう?
「正反対すぎて、逆に気が合わないとも感じ取れないんでしょうよ」
私の心を読んでか、ニヤリと笑いながら、彼女はそんなことを言いました。
……本当に、なんで気が合うのでしょうね?
しかも――その関係に対し悪い気が、まったくしないのも不思議です。
むしろ清々しいくらいです。
上辺の意識の上では、言ってはなんですが、そんなに大切だとは思っていないはずなのですが――奇妙な関係です。
「まあとにかく、面白おかしいことになってたのね、そっちも」
「面白おかしくはないわよ……」
「そ。まあ私も、人のことはまったく言えないしね……」
空を仰ぎ、ヴェラは何も感じ入ってなさそうな表情でため息をつきました。
ヴェラもまた、最近、お家の関係で結ばれた彼に、婚約破棄を言い渡した身でありました。
なにがあったのかは――理由は聞けませんでした。
「ふうん。で、あなたもしばらくお家で休養?」
「まあ、ね。そうなると思うけれど、お家の責務は……婚約破棄した身で言うのも不誠実だけれど、きちんとこなしたい」
「真面目ね。お父様に怒鳴り散らかした私の家とはえらい違いみたい」
……これで社交界ではしっかりしてるんだから、大したものです。
「はぁ、それにしても……どこもかしこも、だわ」
「…………?」
意味の分からなかったそれに首を傾げましたが、ヴェラは気にすることなく、紅茶に口を付けていました。
「その、あー、ゼベス卿? 彼は幼馴染にいくら用立てしていたの?」
「セレスよ、セレス卿。……これくらい」
「結構な額ね。まあでも、自分で働いて用立てする分にはまだ美しさがあるような気がするけれど、無心してくるとなると、許容はできないわね」
「……セレスは自身のお家のお金はほとんど使っていなかった。ほとんど、私に無心したお金よ……」
「同情する点が無い男ね。運が無い」
ヴェラは顔を顰めてから、問いました。
「それで、その病弱な幼馴染っていうのは、どんな子だったの?」
その問い掛けに、カップの持つ手に自然と力が入ってしまいました。
……べつに、嫉妬があるわけではありません。
ですがその幼馴染だという彼女は、私の中で、惨めさと直結する象徴のように感じてしまうのです。
彼女は病弱であり、本当に辛い境遇にあったのかもしれません。
彼女は、悪くはないのかもしれない……。
「……ふわふわの金色の髪に、陶器のような白い肌の、少し幼く見える女性でした。一度、私のほうからもお見舞いに行ったので顔を合わせているんです。肌に映える、赤いイヤリングが印象的な女性でした」
私の応答を聞くと。
ぴたりと、ヴェラはカップを持つ手を静止させました。
そして、私の方へ、訝しげな視線を送ってきました。
「ど、どうしたの……?」
問うと、ヴェラは表情を渋くして、宙の幾か所に視線をやって、何事かを考え込んでしばし沈黙しました。
そして――。
ヴェラは二たび目の問い掛けを、険しい表情で、私に投げかけました。
「――その女の名前は?」




