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青春殺しと死なない彼女たち ①

 魔法少女(仮)の篠江(しのえ)先生とともに、僕のクラス――『特別臨時クラス』に向かう数時間前のこと。


 僕は王崎(おうさき)さんに運ばれ、初めて紫東(しとう)学園の敷地内に足を踏み入れた。

 学園内には校舎の他に、商店や公園、池や竹林といった自然までも配置されており、それは学校というよりは小さな町の様相を呈している。


 学校内には、たくさんの病ヰ(やまい)持ちがいる。ここで再び僕の病ヰが暴走すればどれだけの被害が出るかわからない。

 そのときは、王崎さんが、「血を吸って落ち着かせてあげる」と言ってくれた。


 だが彼女は万全を期し、できるだけ人がいない場所を通って保健室を目指したのであった。


 紫東学園には入り口がいくつもあるようだが、西側のとある入り口のすぐ近くに建つ校舎の中に、その保健室はあった。

 しかし保健室とは名ばかりで、中には最新鋭の医療機器が配備されているようだ。周りの部屋には、オペ室や患者用の病室なんかも存在していた。


そう、病ヰは病気なのだ。

 たくさんの病ヰ持ちを抱えるこの施設は、学校でもあり病院でもあるということなのだろうか。


 そして今僕は、そんな保健室の一室でとある人物と向き合っている。


 僕の背後には付き添いの王崎さんと、魔法少女姿の篠江先生の姿が。

 篠江先生はニ十歳の大人だが、現役の病ヰ持ちであり、元関東最強の『調停ヰ者(ホルダー)』であり、紫東学園の講師をしているという、やたら肩書きの多い人であった。 


 まあ、篠江先生は置いておいて。


 今は、僕の目の前に座る人に注目しておこう。

 手入れの行き届いていないであろうバサバサの長い白髪に、丈の長い白衣。しかし、シックな黒のパンツが彼女の印象を引き締めている。

 そのどこか胡乱な目は丸眼鏡で覆われており、双眸の下の隈がミステリアスさを添えている。

 彼女の顔色は悪く、目は虚ろで、なにを考えているのかわからなくて怖い。


 ともかく。今僕の目の前にいるのが、病ヰの研究者として有名な倉骨(くらほね)ノノ先生なのであった。


『病ヰ』。それは、約百年前に世界中に急に蔓延し始めた奇病。

 青春をすれば発症し、青春をすることで治る謎の病気。


 その発症元は宇宙から飛来した未知のウイルスだとかなんだとか、都市伝説めいた噂があるが、真偽は不明。


 病ヰにかかるのは中高生のみで、ほとんどの人間が高校を卒業する年齢になると病ヰは自然と完治する。


 そして、病ヰにかかったものは、その全員が超常の力を得てしまう。

 それでもこの世界の治安が維持できているのは、王崎さんを始めとした強力な病ヰ持ち、『調停ヰ者(ホルダー)』が目を光らせているからだ。


 そして、そんな病ヰにもっとも詳しいのが目の前にいる倉骨先生。

 彼女は、研究者でもあり医者でもあり講師でもある。ともかく、病ヰに関しては彼女に訊けば間違いないらしい。


 どうやら今は、この紫東学園で病ヰに関する様々な業務をこなしているらしい。


 僕は現在、彼女にある程度病ヰの症状を見てもらい、診断待ちの状態なのだが――。


「ねぇ、きみ」

 不意に呟き、ギィと木製の椅子を鳴らす倉骨先生。その椅子は高価なそれではなく、学校でよく使われるタイプの椅子である。ちなみに、僕もその椅子に座っている。


 倉骨先生は、正面から僕の顔を眺めながら。

「好きなお酒はなんだい?」

 光の宿らない目で、そう言った。


 直後、ぽこっと篠江先生が自分のステッキで優しく倉骨先生の頭を叩く。

「いったいなぁ、るいちゃん」

 呻きながら、頭を押さえる倉骨先生。

 そういえば、篠江先生の下の名は、涙琉(るいる)というらしい。


「ノノちゃん! 未成年にお酒の話なんかしちゃ駄目です! 好きなお酒なんてあるわけないでしょ!?」

 ぷりぷりと怒る篠江先生。二人は、旧知の知り合いなのだろうか。


「ごめん、ごめん。若者との話題なんて、なにも持ってなくてね。つい自分の得意ステージを展開してしまったよ。にしても、いつもより頭が回らないな」

 悪びれる様子もなく、倉骨先生は前髪をかき上げてみせた。


「あぁ。寝起きにぶちこんだ、きつけのウィスキーが効いてきたのか?」

 え。僕、アルコール入れた状態の先生に診断されてんの?

「え。僕、アルコール入れた状態の先生に診断されてるんですか?」

 声に出てた。


「あっはっは。安心したまえ、入村(いりむら)くん。私はお酒が好きだが死ぬほど下戸でね。きつけのウィスキーの代わりにウィスキーボンボンを食べただけさ」

「ど、どうしてお酒が弱いのに朝からウィスキーボンボンを?」

「どうしてって、目を覚ますために酒入れるの、なんかかっこよくないかい?」

 酒と酒入りチョコでは全然風情が違うとは思うのだが。それはもう、朝にチョコを食う普通の人だろ。


「あの量だ。さすがにアルコールはもう抜けてるから安心したまえ。今の状態は、そう、二日酔いさ」

 絶対違うと思うが、もう突っ込まないでおく。


 倉骨先生は、500mlのミネラルウォーターを一気飲みし、手の甲で口元を拭う。そうして彼女は唐突にこう言った。


「ああ、そうだ。きみの病ヰの話だったね。入村くん。そろそろ私の見解を述べようか」


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