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青春を始めるのに遅いなんてことはない ⑤

 現在僕らがいるのは、巨大王崎(おうさき)さんのへその辺りだ。


 どうやら王崎さんは、いつの間にか大剣の血を隕石として打ち尽くしたようで、現在、彼女はなにも武器を持っていない。

 だからといって悠々と上を目指せたというわけではない。


 もうここまでくると、王崎さんの腕の射程範囲内に入る。

 王崎さんからしたら僕たちはコバエみたいなものなのであろう。彼女は、巨大な拳を開いて僕たちを握り潰そうとしてくる。


 しかし、今の彼女の体は巨大すぎて、その動きはコバエの僕たちからしたらあまりにもスローに見える。

 拳に近づきすぎなければ、まず脅威にはならないだろう。


 幸いなのは、王崎さんがその場から動けないことであろうか。

 きっと、花月さんが王崎さんの足を凍結させ、王崎さんをその場に留め続けていてくれているのであろう。


 僕たちを苦しめたのは、やはり血での攻撃であった。

 王崎さんの体から剥離した血液が、剣や槍や弾丸等……形も大きさも様々な武器になって僕たちを襲う。

 それらをなんとかかわし、ときには撃墜しながらただ上へと進む。


 撃墜役は、鍵市(かぎいち)さんと山乙(やまおと)さんが買って出てくれた。

 僕も病ヰで応戦したいのは山々なのだが、僕の病ヰでフェーズ2の王崎さんの血を無意識にでも取りこんでしまうと、コピーの能力で僕にどんな悪影響が出てしまうかわからない。だから、僕の病ヰでの撃墜は最小限に抑えたのであった。


「ねえ、ろいちゃん。桜歌(おうか)ちゃんの体、ほんの少しずつだけど小さくなってない……?」

「言われてみれば……」


 大剣を失ったことも関係しているのであろうか。今の王崎さんの全長は、大剣で東京を真っ二つにしかけたときよりも、一回りほど小さくなっているような気がする。

 つまり、彼女の血も、血を生み出す力も、無尽蔵というわけではないのであろう。

このまま攻撃を受け流し続ければ、僕らにも勝機があるかもしれない。

 ……まあ、彼女の血が尽きる前に東京が壊滅する方が早いのだろうけれど。


『――緊急避難速報。緊急避難速報。現在、先ほどとは別のフェーズ2が品川区に出現中。住民の皆さんはただちに避難を行ってください。不死性のある調停ヰ者(ホルダー)の方、巨大病ヰ持ちに特攻のある調停ヰ者の方、機動力に長けた調停ヰ者の方の応援を要請中。繰り返します――』


 灰谷さんは増援は望めないといっていた。だが、絶えず流れる緊急避難速報の影響だろうか。いつの間にか、空にも地面にも勇気ある調停ヰ者(ホルダー)が少しずつ集まり始めている。


 空中で、様々な光球が閃いた。空にいる調停ヰ者たちの、王崎さんへの攻撃だ。

そして、地上にいる調停ヰ者たちは住民の避難を手伝ってくれているのであろうか。


「王崎さんを救うんだ!」

「俺たちのヒーローを!」

 どこからともなく調停ヰ者(ホルダー)たちの声が聞こえてくる。


 彼、彼女たちも僕と同様、王崎さんに救われた一人なのであろう。

 そうでないと、規格外の相手に立ち向かおうと思う人間が集まる説明がつかないだろう。


「……」

 助っ人はありがたいが、僕の心はなぜか晴れなかった。

 なぜならば、人が集まればそれほど命の危機に遭う人が増えるというわけで――。


「? なんだ?」

 なにか嫌な予感がし、僕は上昇しながら王崎さんを射るように見た。

 すると。


「マジ、か……」


 僕は、目の前の光景を見てただ口を開けることしかできなかった。


 嫌な汗が全身の至るところから吹き出していく。


 巨大王崎さんは、厳かな動作で両手を胸の辺りに構えていた。彼女の手の前には、血の塊が出現している。そしてそれは、どんどんと大きさを増していく。恐らく、全身の血を一か所に集めているのであろう。


 その矛先は、東京には向いていない。


 王崎さんの手の平は、こちらに……僕たちに向いていた。


 つまり王崎さんは、今から全力で僕たちを消すつもりなのだ。絶対に避けることのできない、面の攻撃によって。

 

 僕と久玲奈(くれな)を乗せた布団はオートで上へと進んでいる。だが、僕らの移動スピードより、王崎さんの血塊≪けっかい≫の生成スピードの方が早い。もうしばらくすれば、僕と久玲奈の逃げ場はどこにもなくなるだろう。


 どうする? 逃げる? どうやって?

 攻撃される前に王崎さんを無力化する? どうやって?


 どうする?

 どうするどうするどうする!


 こうして悩んでいる間にも、王崎さんの血塊は巨大化を続けている。

 考えていてもしょうがない。灰谷さんの超能力を信じて、このまま上昇を続けるしか――。


「どうやらここは、あたしの出番のようですね」

 と。

 いつもの調子で気楽にそう言ったのは。

 鍵市さんに抱えられて空を飛ぶキョンシー少女、山乙雨梨(やまおとあまり)


「山乙さんの出番っていっても……。あんな攻撃、どうするつもりだ?」

「ふっ。入村(いりむら)さん。あなた、あたしのことを舐めていますね? あたしは、爪から毒を出すことができるのです。なにせ、キョンシーですから」

「あ、うん……? それは知っているけれど」


「あたしの毒で、王崎さんの攻撃を溶かしてみせましょう。ちょっくら、特攻してきます」


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