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【ダークファンタジー】黒剣遺言: Monument bleuの逆襲  作者: トシマコフ
1章ギルド再結成編
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第四話「バドワの鍛冶火、ボンドの意志」

バドワ──ビア王国東部の山間都市。

 遠くからでもわかるほど、街全体が鉄と火の匂いに包まれていた。

 鍛冶屋たちの金槌が鳴り響き、煙が空へと昇る。


 だが、その喧噪とは裏腹に、街の一角にひっそりと佇む一軒の店があった。

 看板は朽ち、入り口の鐘も錆びて音が鳴らない。

 通りすがる者は誰も近づこうとしない。


 「……ここだな。ロイヤルの言ってた“誰も寄りつかない鍛冶屋”ってのは」


 ダークが扉を押すと、ギィィと重い音を立てて開いた。


 


 店内は煤けていて、薄暗かった。

 棚に並ぶ武器はどれも埃をかぶり、売る気配も感じられない。

 しかし──その奥。

 鍛冶台の前で背を向ける男が、無言で鉄を打っていた。


 ──ボンド・アロンアルファ。

 ギルド「Monument bleu」第7番隊隊長。かつて“鉄の魔術師”と呼ばれた男。


 


 「……来たのか。生きてたとはな、ダーク」


 ボンドは振り返らずにそう言った。


 「何年も経った。今さら……何をしに来た」


 


 「仲間を集めに来た。王国を潰す。そのための力が、必要なんだ」


 「……はっ。どの口が言うか。あんたが王の命令に従って、あの日ギルドを留守にしなけりゃ……」


 その声に滲むのは、怒りではなく、悔しさと虚しさだった。


 


 *** 回想:七年前 ***


 ボンドは鍛冶場から逃げる途中、遠くに見た。

 崩れゆくギルド本拠地。

 泣き崩れるエリザ。

 剣を振るい、血に染まりながらも人質を救おうとするダークの姿。


 ──そして、炎の中でエリザが抱きしめていた小さな影が、川へと落ちていくのを。


 


 *** 現在 ***


 「……俺はもう、あの日から止まってる。ここで、何一つ鍛えず、ただ火だけ見てた。ギルドはもう……終わったんだよ」


 そう言って背を向けたボンドに、静かに声が届く。


 「でも、終わってません」

 ホワイトだった。小さな手をぎゅっと握りしめて、まっすぐ見ていた。


 「僕……あの人たちを、取り戻したい。奪われたものを、取り返したい。……だから、力がほしいんです」


 ボンドはその声に、かすかに眉を動かす。


 「強くなきゃ、仲間も守れない。何も守れない。僕……僕、誰も死なせたくないんです!」


 その言葉に、何かが――確かに響いた。


 


 数秒の沈黙の後、ボンドは無言で炉の火をくべた。

 カチリ、と金属音が響く。


 「……武器なら、仕上げてやるよ。戦う覚悟がある奴にな」


 「じゃあ、今すぐ作ってください!」


 「……ああ!? お前……もうちょいしおらしくしろ!」


 ロイヤルが笑い、ジルが肩をすくめ、ダークは目を細めた。


 


 ──再び、炎が灯った。

 それは武器の火ではない。

 止まっていた心が、再び“戦いの火”を宿した瞬間だった。


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