第三話「血の洗礼、サブゼとの戦火」
ハイネの外れ、東の街道沿いには古びた見張り塔があった。
かつては王国の検問所だったその場所は、今やただの廃墟。
だが、その廃墟に“音”があった。
──くちゃ、くちゃ、くちゃ。
指で何かを潰す音。
血のついた鉄片が床を転がる音。
「うふふ……うふ、ふふふ……」
サブゼ。
通称“指名手配狩りギルド”。
その幹部の一人──メイグルは、目の前で膝をついて震える老人の耳を弄びながら、楽しそうに笑っていた。
「いい声、出るじゃないのぉ……♪ 次はね、指……何本いけるかな?」
そこへ、足音。
──ザッ。ザッ。
空気が変わる。
「……やめろ」
低く、凍てつくような声。
廃墟の入口に現れたのは、黒いマントを纏った男──ダーク・アルコホル。
その後ろにはジル、ロイヤル、そして白髪の少年──ホワイトがいた。
「へぇぇ? 誰かと思えば──あぁん? あんた……まさか、“本物”?」
メイグルの目が見開かれる。
「黒き剣……ダーク・アルコホル……! マジで生きてたんだぁ!? やっばぁ……超最高!」
舌をペロリと出し、メイグルが血塗れの手を振る。
「でもさあ、俺たち、“手配賞金首”には目がないの。あんたら、死体でもいいからもらってくね!」
──瞬間、爆ぜるように殺気が弾けた。
ジルが前に出ようとした時──ダークが手で制す。
「ジル。下がれ。ホワイトにやらせる」
「……いいのか」
「戦うことでしか掴めねぇ強さがある。こいつにはその資質がある」
ホワイトは一瞬、驚いたように目を見開いた。
「僕が……?」
「怖いか?」
ホワイトは、唇を噛んだ。
震える手。早まる心音。
でも、目は──折れていなかった。
「やるよ。僕は、もう誰かが傷つくの……見てられないから!」
ホワイトが駆ける。
その姿に、メイグルは嘲笑を浮かべる。
「ガキが……舐めんなァッ!」
ナイフが、ホワイトの顔を狙って振り下ろされた。
だが、その刹那──
──カチリ。
ホワイトの中で、何かが“回った”。
身体が勝手に動いた。
ナイフをかわし、肘で腹を打ち、すぐさま後ろへ下がる。
「なっ……お前、何者だ……!」
「……わかんねぇよ。けど──止まれないんだ!」
殴る、蹴る。
その一撃一撃は拙くても、想いがこもっていた。
そして、隙を見て──
「ジル、今だ!」
「了解」
亜空間の裂け目から、鋭利な刃がメイグルの背後に現れた。
──ズシャッ!
声すら上げず、メイグルの身体は崩れ落ちた。
「……お見事」
ロイヤルが呆れ顔で言う。
「マジで……あの年でここまでやるか?」
「ホワイト」
ダークが、静かに近づいた。
「その歯車──お前の力だ。いつか、その“意味”がわかる時が来る。だが……その力を、どう使うかは、お前次第だ」
ホワイトは、ぐっと拳を握った。
「俺、守りたい。……誰も死なせたくないんだ」
「……上等だ」
──こうして、少年は“血”を知った。
剣に、痛みに、そして命に触れた。
その日、歯車は初めて“確かに”回り始めたのだった。