第二話「ハイネの再会、涙のロイヤル」
ハイネ──南方交易都市。
スラム街の泥臭い空気とは対照的に、石畳は磨かれ、噴水は陽光を反射して輝いていた。
人々は笑い、商人たちは元気よく叫び、香ばしいパンの匂いが通りを包む。
まるで、あの“事件”などなかったかのように。
だが、ダーク・アルコホルの視線は冷めていた。
どれだけ賑わっていても、この街が“隠れた獣”を抱えていることを、彼は知っていた。
「……この辺りだ」
ジルがつぶやき、角を曲がる。
そこには、洒落たカフェのテラス席で、数人の女性を囲むようにして座る金髪の男がいた。
「ロイヤル……」
ダークが名を呼んだ瞬間、男の動きが止まった。
金色の髪が風に揺れる。
女性たちの会話が途切れ、男の瞳がゆっくりとこちらを向いた。
「…………っ」
椅子を倒し、グラスを蹴り、ロイヤル・モンドは駆け寄った。
その目には涙が滲んでいた。
「……ダーク、ジル……っ、生きてたのかよ……!」
その瞬間、ハイネの喧騒が遠くなった。
男の胸に残っていたのは、ただ一つ──仲間の帰還。
*** 回想:7年前 ***
ギルド本拠地「蒼き円卓」──広間の一角、木製の長机には皿が並び、酒と笑い声が絶えなかった。
「ロイヤル、またナンパで遅れたな!」
「うるせぇジャンボール!これも情報収集の一環なんだよ!」
「ほんとーに? また失敗してスライム投げられたんじゃないの?」
エリザが微笑みながらお茶を差し出し、その横にはまだ幼いアークが座っていた。
「パパ、ジルおじちゃんに勝ったよ!」
「おい、それは言うな……」
ジルが珍しく恥ずかしそうに目を逸らす。
「ふふ、いい雰囲気ですね」
そう言って笑ったのは、当時の8番隊隊長──ムーン・クアール。
ダークはその光景を静かに見つめ、深く深く胸に刻んでいた。
*** 現在 ***
「……お前とまた会えるなんて、思ってなかった」
ロイヤルは顔をぬぐい、鼻をすする。
「俺は……逃げたんだ。ギルドが潰れた時、俺は何もできなかった」
「お前が生きててくれた。それだけで十分だ」
ダークの言葉に、ロイヤルはまた涙をこぼす。
「それより、気になる情報がある」
ロイヤルの表情が真剣になる。
「東にある都市・バドワ。そこに“姿の見えない鍛冶屋”がいるらしい。俺は確信してる。──ボンドだ」
「やはり……」
ジルが低く呟き、ホワイトが不思議そうに首を傾げた。
「なぁ、おっちゃん。さっきから泣いてばっかだけど、本当にギルドの人なの?」
「な、なんだこのガキぃ……口の利き方ってもんをだな……」
「ホワイト。ロイヤルはな、昔は“王子様”みたいにモテてたんだぞ」
ダークが茶化すように言う。
「今は“泣き虫のおじさん”だけどな」
「おいジルゥゥゥゥ……ッ!」
そのやり取りに、ダークは少しだけ笑みを浮かべた。
その夜。
一行は街を出る準備をしていた。
だが、空気が変わる。
「気配が……殺気だ」
ジルがすぐに反応し、闇の中から人影が現れた。
「指名手配狩り“サブゼ”……!」
ロイヤルが顔を引きつらせる。
「ダーク、奴らはヤバい。怪しいと思っただけで襲ってくる。スラムでも数人殺されてる……!」
「……ちょうどいい」
ダークの目が鋭く光る。
「ホワイト。実戦だ。死ぬ気で生きろ」
少年の拳が震える。
けれど、逃げるという選択はなかった。
「わかった。──強くなるって、決めたから」
黒き剣は、少しだけ抜かれた。
そして、白き歯車が静かに、音を立て始めた。




