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【ダークファンタジー】黒剣遺言: Monument bleuの逆襲  作者: トシマコフ
1章ギルド再結成編
3/32

第一話「黒き剣はまだ抜かれぬ」


 闇が、都市を包んでいた。

 月は雲に隠れ、星すら怯えているように光を放たない。

 空気は澱み、湿った冷気が骨の奥にまで染み込んでくるようだった。


 スラム──かつて王国の栄華を築いた者たちが見捨てた土地。

 そこに身を潜める男が一人。


 かつて「黒き剣」と呼ばれた男──ダーク・アルコホル。

 最強と謳われたギルド「Monument bleu」の創設者にして、その剣は戦場を切り裂き、希望を背負った。

 だが今、その眼は重たく、口は固く閉ざされている。


 「……七年、か」


 彼の隣に立つ、長髪の男。

 ギルド第三部隊隊長──ジル。口数は少ないが、かつての戦友であり、唯一、今も共にいる者。


 「復讐の刃を研ぎ続けるには……十分すぎる時間だったな」


 「その割には、随分と落ち着いてるな」


 「落ち着いているように見えるなら、それはお前の目が濁ったからだ」


 ジルがフッと笑う。以前なら、この冗談にすら苦虫を潰したような顔をしていただろうダークが、ほんの僅かに目を細めた。


 


 ふと、遠くで悲鳴が上がる。


 「やめろっ……! やめてって言ってるだろ!」


 路地の奥、薄明かりの中。

 数人の少年たちが、ひとりの小柄な少年を取り囲み、殴りつけていた。

 服はボロボロ、顔は血で濡れている。

 だが、その瞳だけが、折れていなかった。


 「……ジル、あれを見ろ」


 「どうする」


 「助ける。それだけだ」


 ダークは静かに立ち上がり、剣に手を添えた。


 


 「てめぇ、何様のつもりだよ!」

 1人の少年がナイフを振るう。


 だが次の瞬間、その刃は地面に落ちていた。

 ダークは一歩も動いていない。けれど、何かが──剣気のような“圧”が、少年たちを包み、動けなくさせていた。


 「命が惜しいなら、二度とこの街に近づくな」


 それだけを言い残し、ダークは倒れていた少年へ歩み寄った。


 


 「立てるか」


 少年は唇を噛みしめながら、ゆっくりと顔を上げる。


 「……あんた、なんで……僕なんかを」


 「理由なんていらねぇ。立ち上がろうとする奴は、それだけで強い」


 「……ヒルコ。僕の名前は、ヒルコ」


 その名を聞いた瞬間、ダークの表情がわずかに揺れた。

 ヒルコ──どこか懐かしい響きだった。


 「年は?」


 「十歳」


 答えた少年の白髪が、薄闇の中でも鮮やかに揺れる。

 小さな体に宿る、異様な芯の強さ。


 (……エリザの髪色に似ているな)


 (あいつも十歳になっていれば──)


 だが、それ以上は考えなかった。

 その先にあるのは、壊れてしまう感情だけだった。


 


 「名前、ダセェな」


 「え?」


 「ヒルコじゃ、強そうに見えねぇ。今日からお前は……ホワイトだ」


 「……勝手に決めんなよ」


 口では反発するが、その声はどこか嬉しそうだった。


 「ホワイト、お前……剣を握ったことはあるか」


 「……ない。でも、強くなりたい。大事な人を殺された……僕、あいつらをぶっ倒したいんだ」


 その目に宿る怒りと悲しみを見たとき、ダークの胸が軋んだ。

 まるで──七年前の自分を見ているようで。


 「なら、ついてこい。剣の握り方から教えてやる」


 「……本当かよ」


 「俺は約束は破らねぇ」


 


 ジルが後ろから近づき、ボソリと呟く。


 「……似てるな、目が」


 「ああ。……でも、そんな偶然もあるさ」


 ホワイトを見つめるダークの瞳には、どこか痛々しい優しさが宿っていた。


 まだ、気づかない。

 その少年こそが、自分がこの七年ずっと追い続けていた“希望”そのものであることに──。


 


 一方、王都。

 王宮最上階。重厚な椅子に胡座をかき、赤いワインを傾ける男がいた。


 ニンカシ・ビア。

 ビア王国第十二代、現国王。


 「……まさか、奴が動き出すとはな」


 側近が息を潜め、ニンカシの命を待つ。


 「サブゼを放て。やつらがどこに潜伏していようが、引きずり出してやる」


 その瞳には、冷たい憎悪と支配者の自信が宿っていた。


 ──黒き剣は、まだ抜かれてはいない。

 だがその鞘の奥で、確かに目覚めの時を待っていた。


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