回帰編 第六話「終焉の帝王、そして母の祈り」
──クロス帝国跡地・バルドゥナ、決戦の地。
帝王ロンリゴの鈍器が、物理の限界を超えて振り下ろされる。
「“重量を自在に操る”……そんなものではない」 ジルが苦悶の声を漏らす。
「この男……重力そのものを握っている」
重力の奔流が地面を砕き、周囲の大地が持ち上がる。
「面白ェぞ、英雄ども! だが俺に届く剣など──」
「あるさ」
ダークが剣を構えた。 「夢想神技《真式》──“想造界断・アルカ・ディスティニア”」
彼の剣が描いた空間は、現実の重力すら書き換えた。 剣が振られると同時に、周囲の世界が“白紙”になる。
「幻想を斬り、重力を断ち、現実を書き換える」
それが、想像を極めた“世界創造の剣”。
──ロンリゴの防御が、ついに追いつかない。
「ぐ……おおおおおおおお!!」 最後の咆哮と共に、帝王の体が、崩れた。
武力で築いた帝国が、静かに終わりを告げた瞬間だった。
ジルはふらつきながらも立ち上がり、ダークに頷く。 「……終わったな」
だがその瞬間、ダークの表情が曇る。
「……いや、これは“始まり”だったのかもしれねぇ」
──王国・ラビーレ砦 裏門付近。
エリザとアークは、森の中へ逃げ込んでいた。 だが、そこに“それ”は現れた。
──ビア王直属・暗殺部隊隊長、ニンカシの命を受けた追手。
「……やっぱり来たわね」 エリザがアークを背後に庇い、ゆっくりと歌を口ずさむ。
「この子だけは……絶対に生かす」
歌の力が、空気を癒し、敵の動きを鈍らせる。
「アーク、逃げて……どこまでも……生きて」
「ママっ!」
「ごめんね……最期まで抱きしめてあげられなくて……」
エリザが、敵の刃に貫かれながらも、アークを川へ突き飛ばす。
──水の奔流。
アークは叫びながら、流されていった。
──砦に、エリザの歌声が響いた。 それは、命を繋ぐ“祈り”だった。
──次回、全てを失った男が誓う“逆襲のはじまり”。