回帰編 第五話「幻と誓いと、揺らぐ未来」
──ラビーレ砦、崩壊の序曲。
幻覚に包まれたロイヤルの瞳が揺れていた。
「これは……っ、いつの記憶だ……」
目の前に現れたのは、かつて家族を庇い、処刑された父の姿。
「お前が、王族として何を守った?」
幻覚が責める。 幻が叩く。 過去が、現在を蝕む。
イナウ・フーアンは、ゆっくりと詠唱を続けていた。 「幻の中で死ねば、現実でも魂が壊れる。なぁ、王子様よ」
しかし──
「……誰が、お前の“芝居”に付き合うかよ」
ロイヤルの眼光が一閃。 その手には、小型のナイフが握られていた。
「幻覚の世界でしか演じられない悪役には、現実の俺は殺せねぇ」
自らの太腿にナイフを突き立てる。
──痛覚の反響。
幻覚が崩れ、現実が戻る。
「ッ……戻ったか……!」 ロイヤルが血を流しながら、剣を構え直す。
「……これ以上、俺の家族には指一本触れさせねぇよ」
イナウが初めて、眉を動かした。 「……面白ぇじゃねぇか」
幻覚と現実の境界が曖昧なまま、二人の戦いが本格化する。
──同時刻、バルドゥナ。
ジルが重傷を負い、空間を裂く力にも限界が見えていた。 帝王ロンリゴの槌が、空を割るたびに地が砕ける。
「こいつ……一体どこまで重くするつもりだ……」
ダークは傷だらけの手で剣を握りしめる。
「……ジル、まだ立てるか」 「……質問の答えに、“否”はない」
ふたりの背中が揃った瞬間──
「夢想神技──“零幻想”」
剣が、存在すら否定する“無”の形で放たれた。
ロンリゴの防御が間に合わない。 しかしその瞬間、帝王の鎧が“流動化”し、力を吸収しはじめた。
「……! この能力、ただ硬さを操るだけじゃねぇ」 「“物理法則そのもの”をいじってやがる……!」
──追い詰められる中、ダークは奥歯を噛んだ。
「……ここで、止める」
──その頃、砦ではエリザが、幼いアークを連れて裏門へ走っていた。
「お願い、アーク……もう少しだけ、耐えて」
アークは震えながらも、必死に母の手を握っていた。
「ママ……こわい……」
──その声が、誰よりも“人間らしさ”を帯びていた。
──次回、ロンリゴの最期。そして、エリザの決断。