第十七話「絶望の奥、呼び覚まされた宿命」
準決勝、第二試合。 ホワイト対 ハーザ・ゼイリム──
場内は、先ほどのダークとムサシの死闘の熱を引きずったまま、異様な静けさに包まれていた。
「始める前に、一つだけ教えてやる」 黒衣のハーザが、場の中心でぼそりと呟く。
「……あのスラムの片隅で、お前を拾って育てた老人──いたよな」
ホワイトの瞳が一瞬揺れる。
「……あれを殺したのは、俺だ」
──時が、止まった。
「……な、んで……」
ホワイトの指先が震える。 思考が追いつかない。だが、心はすでに怒りで満ちていた。
「お前が、どこまで育ってるか見てみたくてな」 ハーザの声はあくまで平坦で、まるで悪意も罪悪感もなかった。
「……殺す。絶対に、お前だけは──」
審判が迷いながらも試合開始を宣言する。
「始めッ!!」
ホワイトは歯を食いしばり、飛び込む。 鋭い踏み込み、繰り出される三連撃。
だが。 ハーザの剣が“見えない角度”から一閃。
──ドスッ!
肩を裂かれ、吹き飛ぶホワイト。 それでも、立ち上がる。
「神脳……解除……!」 歯車が回り始めるが、血が視界を曇らせる。
(ダメだ、動きが……読めない……)
ホワイトの刃が、空を切る。 再び腹部に打撃が走る。倒れた。
審判が止めに入ろうとした、その瞬間。
「まだ終わっちゃいないだろ?」 ハーザが剣を振り上げる。
──完全に倒れた相手に、ためらいなく刃を振るうその姿。
観客から悲鳴が上がる。
そして、その時だった。
「──もうやめとけ」
観客席の奥。
殺気が、会場全体を貫いた。
ゆっくりと立ち上がる一人の男。 黒髪、黒剣、黒き眼差し。
──ダーク・アルコホル。
その気配に、観客もハーザも動きを止める。
「そこから一歩でも動いたら……お前を、許さねぇ」
その声音は静かだった。だが、確かに“怒り”が滲んでいた。
──次回、黒き剣、再び抜かれる。