第十四話「選ばれし者、沈黙の背中」
剣術大会──準決勝。 その組み合わせは、すべて“運命”に委ねられた。
くじ引き形式の抽選箱に、最後の4人が立つ。
──ダーク・アルコホル ──ムサシ
──ホワイト ──ハーザ・ゼイリム(サブゼ最強幹部)
会場中が固唾を飲む中、順番にくじが引かれていく。
審判の声が響く。
「第一試合──ダーク・アルコホル 対 ムサシ!」
「第二試合──ホワイト 対 ハーザ・ゼイリム!」
その瞬間、観客席がどよめいた。
ダークとムサシ──黒き剣と剣喰らい。 そして、白き歯車と、サブゼ最強の狂剣鬼ハーザ。
「……なるほど、面白い組み合わせだ」 ムサシが口元を緩め、静かに太刀を撫でる。
「アナタと交える日が、ようやく来たか」
ダークは一言も返さず、ただ目を細めた。
一方、ホワイトは張り詰めた面持ちでハーザを見つめていた。
「……あれが、あの人たちが警戒していた“真のサブゼ”……」
ハーザは何も言わない。ただ、淡く笑ったように見えた。
そのとき。 控室の片隅で、ジルがゆっくりと腰を上げる。
「……俺は、ここまでだ」
ホワイトが振り返る。「えっ……ジルさん?」
ジルは無言で、ダークの肩に手を置く。
「“裏”は俺がやる。任せた」
ダークはわずかに頷く。「頼んだ」
誰にも気づかれぬよう、ジルは観客席の影へと消えた。
その目は、観客の上段席──特別席のさらに奥に潜む“異質な気配”を捉えていた。
(奴ら……大会の裏で何かを仕掛けている)
──影の狩人が、沈黙のまま舞台を降りる。
夜。準決勝を明日に控え、各選手に静かな時間が与えられた。
ムサシは月を見上げ、独り言のように呟く。
「この刀で、何を断つか。何を残すか。……それを決める夜だな」
ダークは静かに剣の手入れを終え、剣を立てた。
「決着をつける。……全てに」
そして、ホワイト。
眠れぬ夜の中、焚き火の前で木刀を握り締める。
(僕はまだ、弱い……でも──)
「守るんだ。みんなを。僕は、僕の剣で……」
その瞳に、恐れはなかった。 焚き火が風に揺れ、歯車が静かに回り始める音がした気がした。
──運命の準決勝。 ──真に強き者たちの戦いが、始まる。