第十一話「漆黒時限の刻、ジルの真剣」
ホワイトの勝利から一夜明け、会場の熱は冷めていなかった。 街のあちこちで少年の名がささやかれ、地元の新聞には「白き歯車、若き天才」の見出しが躍る。
しかし、会場の奥。控室の片隅で、ひとりの男は無言だった。
ジル──ギルド3番隊隊長。ダークの右腕にして、亜空間を操る沈黙の剣士。
「次は俺か……」
小さく呟き、腰の剣を確認する。 戦う意味──それは言葉にはしない。 だが、かつて交わした誓いが、今も心の底で燃えていた。
「第2試合、ジル・ノワール 対 サブゼ幹部“影喰い”ラウズ!」
黒ずくめの男が、仮面の下で舌なめずりをする。
「噂に聞く空間を裂く力……面白そうだね。どこまで耐えられるか、試してやるよ」
観客席でホワイトが手を握る。「……ジルさん……」
審判の合図が響く。
「始めッ!」
瞬間、地面に異常が起きる。ラウズの影がじわりと広がり、足元からジルを引きずり込もうとする。
「“影葬陣”か……」
ジルの瞳が鋭く光り、刹那、空間がねじれた。 ──ドシュッ! 次の瞬間、ラウズの腕が空中に現れ、真横に吹き飛ばされる。
「な……なんだ今の……!」
「これが、漆黒時限──ダークネス・ディメンション」
ジルの剣が、異次元の扉を切り開く。 ラウズが叫ぶ。「クソッ……空間ごと斬ってくるだとッ!?」
そのまま、斬撃が地面を割り、影の術式を無力化。 最後の一閃。
──シュッ。
ラウズの肩口に斬撃が走り、膝をついた。
審判が叫ぶ。 「勝者、ジル・ノワール!」
ホワイトが声を上げた。「すごい……」
観客が静まり返る中、ジルはそっと剣を納めた。
「……次は、お前らの番だ」
その呟きは、誰にともなく告げられた。 そして、サブゼの幹部たちは不敵に笑っていた──
──戦いは、まだ始まったばかりだ。