第十話「白き歯車、命を刻む一撃」
五王国の剣士が集う大会会場──中立都市カラド。 朝靄を突き破るように、観客の歓声が会場を揺らしていた。
その中心で、少年は震えていた。
「出場番号十七番、ホワイト!」
名を呼ばれ、ホワイトは小さく息を呑む。 足が重く、喉が乾く。剣を持つ手に、わずかな震え。 だが少年は、一歩ずつ前へ進んだ。
──負けたくない。
その想いだけが、震える足を前へと動かす。
対して、観客の中から不気味な笑い声が漏れる。
「……うほ、ガキかぁ……たっのしみぃ……」
鉄仮面をつけた男が、鎖付きの短剣をゆらゆらと弄んでいる。 サブゼ幹部、“笑う処刑人”ケト。
「対戦番号二十七番、ケト・バレル!」
場内にざわめきが走った。サブゼの名は、あまりにも有名だ。
「始めッ!」
審判の合図と同時に、ケトの鎖が風を裂く。 ホワイトは飛び退き、寸でのところで避ける。だが、頬に一筋、赤が走った。
「ほらほらぁ、動きが鈍いよ? 怖いのかぃ?」
ケトの攻撃は止まらない。鎖の軌道は読めず、自在に宙を舞い、追い詰める。 ホワイトは必死にかわすが、何もできないまま時間だけが過ぎていく。
──怖い。死ぬかもしれない。 ──でも、逃げたくない。
観客席にいるダークが、静かに立ち上がった。
「ホワイト!」
その声は、ただ一言。
「恐れるな。“自分”を信じろ。お前の剣は、誰かを守るための剣だ」
その瞬間、ホワイトの中で何かが弾けた。
──カチリ。
脳内で、音がした。歯車が、動き出す。
「……ギア・ブレイン」
空気の流れ、ケトの重心、鎖の予測軌道。すべてが見える。 身体が、勝手に反応する。
ケトが鎖を突き出す。その動きの隙間を縫うように、ホワイトが滑り込んだ。 そして、渾身の一撃。
──ザンッ!
仮面が割れ、ケトが吹き飛ぶ。
会場は静寂に包まれた。
審判が手を挙げ、叫ぶ。 「勝者、ホワイト!」
歓声が、嵐のように巻き起こる。
ホワイトは息を切らし、剣を地面に突いた。 遠く、観客席でダークが頷いていた。
その目に、誇りが宿っていた。
──白き歯車は、今、確かに回り始めた。