第九話「集え剣士たち、試し刀の予兆」
「……伝説の太刀、『月哭ノ刃』が賞品だと?」
焚き火が消えかけた夜明け、ロイヤルの声が周囲の空気を変えた。
「カラドって中立都市でな。五王国合同で開催される剣術大会の目玉賞品らしい」
ロイヤルは情報屋仕込みの帳面を広げ、熱のこもった眼差しで言葉を継いだ。
「この太刀、ただの伝説じゃない。“月の記憶を斬る”って異名がある。ムサシが現れないわけがない」
その名に、ダークの眉がぴくりと動く。
「月哭ノ刃……ムサシが興味を示すには、十分だな」
「よし、出よう」
ジルが静かに立ち上がる。「ホワイトも一緒にな」
「僕……!」
ホワイトは思わず拳を握りしめた。「出ます。絶対、勝ちたいです」
こうして、一行は剣士の聖地と呼ばれる都市──カラドへ向かった。
◆
剣の都・カラド。
中央広場には巨大な剣のモニュメントがそびえ、観客席はすでに各国の貴族や騎士たちで埋まっていた。
市街地の一角には大会登録用の帳場が設けられており、各地から集った剣士たちが行列を作っている。
「見ろ、あれ“首斬りのユーグ”じゃねぇか……」
「ほら、あの仮面……“灰の仮面”のメルグだよ」
物騒な名前が飛び交う。
その中に、ひときわ異質な気配があった。
──黒装束。
──顔を見せぬ。
──サブゼ幹部、複数名──潜入完了。
その奥、仮面を外すことなく出場登録した影が、微かに呟いた。
「……“黒き剣”出てきな……。大会を“処刑場”にしてやるよ」
◆
夕刻、空がオレンジから紺に変わり始めたころ。
大会本部の上段席に、一人の男が姿を現した。
黒い羽織。腰に三本の刀。目を伏せたまま、ただ静かに風を感じている。
「……刀が、俺を呼んでいる」
風が彼の青髪を揺らす。
Monument bleu──五番隊隊長、ムサシ。
“剣を求める者”が、ついに姿を現した。
そして、明朝。
運命の剣術大会が、開幕する──。