第八話「焚き火の宴、語られぬ絆」
風が、木々を揺らしていた。
虫の声が遠く、星は静かに瞬いている。
戦いの連続だった日々の中で、今宵だけは、静かな夜が訪れていた。
──パチ、パチ……。
火の粉が、焚き火の上で弾けた。
「……ふぅっ。やっぱ酒は焚き火の下が一番ね」
ロゼがカップを掲げる。
ロイヤルがすかさず隣に腰を下ろし、酒瓶をもう一本引き寄せた。
「まさかロゼとまたこうして酒が飲める日が来るとは……人生、捨てたもんじゃないなあ」
「アナタ、また調子いいこと言って。昔もそうやって女の子に逃げられてたじゃない」
「うっ……! それは今、関係ないだろ!」
ジルは焚き火から少し離れた木に寄りかかり、酒を静かに口にしていた。
彼は昔から、こういう場では語りすぎない。
だが、仲間の声には耳を傾けている。
「……懐かしいな。あのときの拠点、エリザが飯作ってたっけな」
ボンドが道具袋を整えながら呟いた。
「エリザのスープ、めちゃくちゃ優しい味してたわよね」
「……あの味、忘れてねえよ」
ダークの口元に、微かに影が差す。
そのとき、ジルがふと火の向こうを指差した。
「……剣を振ってる奴がいるぞ」
皆の視線が集まった先──
少し離れた空き地で、ホワイトが一人、木刀を振っていた。
体を大きく、無駄なく使い、ただ黙々と。
「本当に……剣が好きな子なのね」
ロゼが言った。
「アナタの息子だったら、って……思っちゃうわよ。あの姿」
誰も、何も言わなかった。
だが、誰もがほんの一瞬だけ、胸の奥で何かがざわついた。
──やがて、ホワイトが剣を納め、焚き火へ戻ってきた。
膝を抱え、少し離れた場所に座る。
「……みんな、楽しそうですね」
その呟きに、誰もが一瞬だけ言葉を止めた。
「……僕も、いつか──
あんなふうに笑える日が来ますか?」
その問いに、応えたのはダークだった。
「来るさ。必ずな」
その声には、迷いも偽りもなかった。
炎が揺れる。
影が揺れる。
そして、夜は静かに更けていった。