094 特訓には〈生きたマト〉が必要?
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チェニイが授けていた〈精霊発動の特訓〉のアオリを受け
火精の破壊技〈ズゾボン〉の大爆発をマトモに食らってしまった
気の毒な商都ヨンギツァの使者〈エゴーファイブ〉の5人組は
結局ガドリング水精宮の祭壇へと担ぎ込まれます
で、姐様ニキータの(強引極まりない)説得によって
〈なんでなんで~!? 今回の件でアタシは何の責任もないのに~!〉
と文句タラタラのミリアを急遽、斎宮に仕立て上げて…まあ実際、
彼女が斎宮役を演じるのはこの場合、まさしく最適任なのですが
ミリアにすれば、心中で呪いの文句一つも吐き捨てる以外、
なすすべがありません
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一方、湖の対岸では、オスカー技師はチェニイを伴って湖を半周し、ガドリング北側の森に着きました。
そろそろ廃都にも夕刻が訪れようとしています。向こう岸の水精宮からは森の陰に隠れて彼らの姿を認めることは出来ません、
「オスカー…師匠? さっき〈リミッター解放後の特訓〉とやらは、ひとまずお開き、とか言ってなかったか? なんで水精堂に戻らないんだ?」
夕暮れ迫る薄暗い森…ちょうど北側にかけて広場のような丘が開けていますが…こんな場所に移動させられたチェニイは不審を隠せません。
「事情が少々変わった。先ほど緊急に、ニキータから連絡が入ってな。モロモロの事情で、君らの大都ジュレーン行きが少々早まるかも知れん。それに、余計な客まで旅に加わる可能性が高まったのだ。おそらくそろそろ夕刻が迫る頃合いだから、君らの出発は夜明けを待ってのことになるだろう」
「はあ、そうなの?」
チェニイは気の抜けた返事をするしかありません。
「何をヒトゴトのように言っとるんだ! 要するにココ半月のうちに、君には最低限の〈キューブ〉使用法…精霊術解放の基礎を叩き込んでもらわないとイカンのだぞ」
思わぬ難題を押し付けられ、チェニイは戸惑うばかりです。
「…強行特訓、っていうヤツか。正直いって…精霊術38パラグラフだっけ…オレにそんな術を一気に習得する自信なんか…全くなかっぺし…」
チェニイはいきなり自信喪失の体です。
「それじゃ話にならん! 今のチェニイ君は、凄まじく斬れまくるナイフを両手に持った、〈キティ・ガイ〉状態なのだぞ! そんなアブナい使徒様を、おいそれとザネル世界に解き放てるか!」
少なくとも、それが自分の…NUAの技官として隠棲していた〈雷光のオスカー〉最後の使命になるだろう。オスカー・ノギス技師はそう決意していました。
「あの~、それで自分らは…その、何でココまで連れてこられたのですか?」
チェニイの後ろには、なぜか(強制的に徴用された?)ガブニードスとリヒター〈冒険者コンビ〉まで控えています。
「そもそもガブニードス君! 君が付いていながら、チェニイ君を〈リミッター〉で縛りつけるばかりで、全く〈使徒〉として教育を施さなかったではないか、いまの今まで!」
「はあ…」
ガブニードスにすれば(チェニイの日頃の言動から鑑みれば)イイワケしたい気持ちは多々あるでしょうが…ここは素直に押し黙るしかありません。
「けど、私については…ナニが何だか分からないのですが。だって自分は〈精霊術〉に関しては、全くのトーシロですし、単なる冒険者のルボッツだし」
おずおずとリヒターも手を上げます。
「リヒター君は先だって〈私の一番弟子〉を自称してくれたからな。そのココロザシは、ありがたく受け取っておこう。この〈不肖の使徒様〉に特訓を施すのを手伝ってくれたまえ」
リヒターは〈余計なこと口走っちまった!〉と内心、後悔しつつも言い返します。
「…って言われても、自分はナニすればいいのか皆目見当が…」
「なあに、ただチェニイ君の精霊術の〈マト〉になってくれれば、それでOKだよ」
「はあ~~?」
意味も分からず、マヌケな声を上げるだけのリヒターです。
「要は、このキレまくるチェニイ君の〈キューブ〉から繰り出される術! これを制御するのが第一目的なのだ。まあ、そのへんの灌木に比べれば、生きたマトが二人いるからな。チェニイ君の制御術にもブレーキが効いて、格段に正確性も上がるだろ?」
「ちょ、ちょと待テクダサイ!」
「それ、冗談ですよね!」
二人同時に、悲鳴が上がりました。
「ま、半分は冗談だがな…」
オスカー技師はニヤリ、と笑って話を継ぎました。…って、つまり半分は本気だった、ということなのでしょうか?
「どちらにせよ、いまは水精堂の迎賓館に君たちを戻すには間が悪いからな。しばらくはこの森で、汗をかいてトレーニングに励んでもらうのが良かろ?」
「…って、どういうこと?」
さすがに二人の狼狽ぶりが気の毒になったのか、チェニイが言葉を掛けました。
「先ほど話しただろう? イレギュラーの客が5人ほど、ガドリングに到着してしまったのだよ。私にも知らされてなかったのでね…少々トラブルになったのだ。
で、そちらの方は部下のモジャーたちと姐様…それに」
ここでオスカー技師は、少々言葉を切りました。これは言うべきなのかな…と、まるで躊躇ったかのような間合いでしたが。
「ミリアの斎宮様が対処してくれる筈だ。彼女に任せる、と姐様が仰せでな…」




