093 災難の元サイグウ様
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チェニイが受けていた〈精霊発動の特訓〉のアオリを受け
彼の放った必殺火精技〈ズゾボン〉をマトモに食らった
商都ヨンギツァから到着した使者5人組…彼らは
〈エゴーファイブ〉を名乗った途端に、お約束(?)の大爆発に
巻き込まれてしまいました
…彼らがはるばる廃都に訪ねてきた事情とか、その他もろもろを
知ってる(たぶんそのあたりの一件を画策してた本人)である、学府院の
水精教導シェノーラは、ヤバい空気をいち早くに察知したのか、
ガドリングからは、いち早くトンヅラこいて
後始末は…つい今しがたまで安らかに水精宮で
呑気に微睡んでいたミリアへ押し付けたような空気が、
ぷんぷん漂っています
…え、なんでなんで~~!? 彼女は今回の一件に
何の責任もないのに~!?
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「ミリア様、舞台に上られる前に、コチラでお着換え下さいマセ」
どうやら彼女は表舞台である〈水精宮〉へ連れて行かれるようなのですが、その前にドレッシングルームへと、ユリア・イルーランは案内します。
〈何なの、その【舞台へ上る前に】ってのは?
なんかイヤ~な予感がするけど…まあ、ここまで来たら四の五の確かめてられない〉
〈そもそもなんで着替えるの? まあ現在の着衣は、オルトに連れ回されてガドリング廃墟見学してた外出着だから薄汚れてるし、姐様の前に立つなら正装してください! というコトなんだろうけど…何も今さら改まって…〉
ところが、ユリアがドレッサーに持ち込んだ衣装を見せられて、彼女もさすがに驚きを隠せませんでした。
「こ…これ、斎宮用の…しかも典礼儀式で纏う盛装じゃない!?」
「はい、私が御着換えの手伝いを致します」
斎宮の盛装は紫紺に染められ、しかも〈呪〉を縫い込めたシルクにウールを混ぜ込んだ、特製の極薄モスリン生地で裁縫されています。
「なんでこんなモノに着替えるの? なにが始まるっていうの…これから」
「時間がございまセン! 細かい事情は舞台に到着されてカラ、姐様がキチンとおハナシ致しますので」
有無を言わせぬ口調で強引にミリアは服を脱がされ、斎宮の衣装に着替えさせられました。
外庭に設えた水精宮の祭壇には、姐様ニキータ・ディーボックスと、彼女の部下たち。そして数人の大白猿エイプ・オムの警備兵たちが整列しています。
そして、彼らが取り囲んだサークルの中央には…。
〈ああ、やっぱり…こうなっちゃったのかぁ…〉
ミリアは事情を瞬時に理解し、ため息をつくしかありませんでした。
「まあ素敵! さすがは斎宮様ね…迸るオーラが本当に…眩しいわ!!」
ミリアが扉から現れた途端に、ニキータ姐様は立ち上がって叫びました。
…ったく…歯の浮いたお追従を言ってる場合じゃないでしょうに、姐様…
と、ミリアは心中で苦々しく呟くしかありません。
「貴女の力を貸して欲しいのよミリア! いえ、アナタにしかできないの」
ニキータの口上を聞いて、ミリアもこの時点でおおよその事情は察知しました。
「この人たちが、先ほどの爆発騒動で…?」
長々と伸びている5人組の男女が、水精宮の中央に設えらえた祭壇に寝かされています。
意識はなく、纏っている奇妙な衣装は…彼らのコスチュームなのでしょうか。
少し焦げているのは爆風に晒されたせいだろうけど、体の方は(多少、焦げ跡は見えるけど)さほど怪我をした様子はない。気を失っているだけのようです。
「警備モジャーの報告では、この人たちは…はるばる商都ヨンギツァから訪ねていらした方々だそうよ。〈エゴーファイブ〉と名乗ってたそうだけど」
「はあ…そう…なんですか?」
ミリアにはそう返答するしかありません。
「おそらく皆さん、ヨンギツァ市の有力者〈会合衆〉で間違いないと思うわ。私も詳しく聞かされてないけど、例の大都ジュレーンで執り行われる〈使徒様〉セレモニーの件で密命を帯びて、わざわざ廃都ガドリングへ訪ねて来られた…おそらく間違いないわね」
ニキータはそこで言葉を区切って、忌々しそうに付け加えました。
「ったく! シナリオを画策した張本人が、このドサクサに恐れをなして勝手にトンヅラしちまったからね…。詳しい事情は、ご本人たちが目を覚ましたら直に伺うしかないわね!」 ニキータがそこまで吐き捨てると、今度はミリアが尋ねる番です。
「けど姐様、なんで私がこんな格好させられて、水精宮祭壇に招かれたの?
お見受けしたところ、皆様のダメージは、危険な状態ではない筈よ。トライフォースの姐様だったら、水精の治癒術を駆使すれば…跡形もなく回復させられるんじゃない? なにもワタシが出る幕じゃ…」
「あなたの出る幕なのよ、今回は!!」
ぴしゃり、とニキータはミリアの言葉を切ります。
一瞬にして水精宮に、張りつめた空気が漂います。
ややあって、ニキータはまるで懇願するように言葉を継ぎました。
「というより、アナタにしかお願いできないのよ、ミリア」
「え………?」
どう答えていいのか、ミリアは言葉を返せません。
「あなたがここに来る前にニザーミア学府院で例の〈内火〉、導師トープランから…〈火〉を抜いて回復させたデュアルフォースの技。あれに比べれば、治癒術〈ダダネスト〉を使って5人分いっぺん回復させるのは、たやすい技でしょう。そこまでなら、私にだってできるわ…けどねぇ」
ここで、ミリアに顔を寄せて姐様は、ミリアにだけ聞こえるよう小声で告げました。
「怪我を負わせた原因、作ったのはチェニイ君の〈特訓〉なんでしょう?」
「うっ……」
痛いツボを圧されてしまいました。ミリアは…その直前に発した〈チェニイの叫び〉を、ダイレクトに受信していたから…知らんぷりもできず、返答に詰まります。
「だからね、ミリア。この皆さんの身体を回復させるだけじゃなくそっちの〈傷跡〉を除去して差し上げないと、コトは片付かないの。
この先…ヨンギツァ市の〈エゴー・ファイブ〉の皆さんと、どういう協力関係に発展するかは今後のナリユキ次第だけどね…余計な禍根を残すと面倒なのよ」
「つまり…この人たちから…あの爆発の記憶も…一緒に全消去しろと?」
「まあ、有り体にいえばそうね。こうなると〈チェニイ君の叫び〉を受け取ったアナタが最適任、というよりアナタにしか除去できないの。言ってみれば〈恐ろしい記憶の指紋〉を、被害者の心から完全に拭い去る作業だからね」
ココまで姐様に言い含められると、もはや抗弁する足場が残っていません。
〈チェニイのバカ、アホ! ドジマヌケ~!【リミッター解除】なんてするから、結局こういうバカ騒動を引き起こして、後始末をアタシに押し付けるンじゃないの! このツケは、必ず払ってもらうからね!!〉
怒りのぶつけようがないミリアは、呪いの言葉を心の中で呟くしかありません。
ザネル1&2章は2024年8月より、リニューアル編集を開始します
サネル3章は、2024年冬より掲載スタート予定です




