091 精霊発動、試射は誤射ですか!?
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チェニイに仕込まれていた〈キューブのリミッター〉解除の
プロセスは、オスカー技師の手によって、滞りなく…つか拍子抜け
するほど何事もなく終了しました
まあ、その結果で何か起こるとしたら(起こらないハズはないでしょうが)
それはソレ、今後の問題です
ただ、よく考えてみたら〈ファルスの呪縛〉つう地雷原が主因なのですが、
これまでに2度ほど大暴発したことと、主に〈火精〉のマナに起因したと
思われる、ラッツーク竪坑での〈スコップ英雄サマ〉の大活躍を別にすれば、
チェニイ自身がキューブを自分の意志で起動して精霊を駆使した経験など、
これまでほぼ皆無! だったのです
したがって、この超怒トーシロのチェニイには、一からキューブ操作法を
教えるしかありません
あとは〈習うより慣れろ〉原則に従うのみ!
…
ただここで一つ、重大な疑問が残ります
これまでチェニイに付き従って来たガブニードスは、今日にいたるまでなぜ、
チェニイに対して、アーティファクトたる〈キューブの使用法〉を
キチンと伝授してあげなかったのでしょうね?
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なんか…なし崩し的に、チェニイのアドバイザーというか指導教官というか…はてまた猛獣遣い役になってしまった感のあるのがオスカー・ノギス技師です。
当初はキューブに掛けられたリミッターを解除してやれば、チェニイに関しては、お役御免で終わったはずだったのですが、なにせニザーミア学府院に〈使徒召喚〉を受けたと聞いていたから、さすがに精霊術の基本レベル程度はマスターしていか思いきや、完全なド素人どころか…。
いかにチェニイが〈記憶喪失状態〉とはいえ、ここまで何も知らないパープーとなると、このまま大都ジュレーンに赴く羽目になれば、これはもう〈野に放つキティ・ガイ〉と大差ないことになってしまう。しかもリミッターが解放されたママの…。
まあ、元斎宮のデュアルフォース姫様がついているとはいっても、あまりにも心許ない…そう考えを改めて、ノギスは〈尊師〉つかお師匠様を買って出ることにしたのでした。
「だから! 左掌をブラブラさせちゃイカン! と言っとろうが! 溜まりかけた精霊マナをブツ斬りにすると、必要以上にピークレベルが上がって、しまいには制御できなくなるぞ!」
ノギスの叱責が続けざまに飛ぶと、チェニイもさすがにヘトヘトになります。
「って言われてもなぁ…どのへんで止めりゃいいんだ?」
「そーいう時は右手で留める! マナを減らしたい時には斜め下に降ろす! 手順はさっき教えたろうが、もう忘れたのか」
チェニイにすれば、精霊術だの…呪だの印だのと専門用語を指示されてもアタマが追い付きません。
「だからぁ! ンなことドコからも、教わった覚えがないんだってばぁ…」
最初に精霊術の基本…地水火風の4エレメントの組み合わせで発動するタームは38種類存在する、と伝えられた時点でチェニイはウンザリし、教わる意欲を失いました。
「いちいち、ンなことを頭に入れながらキューブを回すのかよ? オレにはムリだ、絶対にムリムリムリ!」
「ナニ弱音を吐いとるか! 38ターム…ちゅうのは攻撃系・攻撃補助系・防御系・恢復系・複合系の基本を合わせただけの数だぞ。言ってみりゃ〈初心者向け精霊術基本デッキ〉みたいなもんだ」
「…んじゃ、キューブで組み合わせる…その精霊術って、全部でいくつあるんだ?」
「原理的にいえばキューブの構造から積算して、4325京2003兆2744億8985万6千通り…それだけの組み合わせは可能だ」
チェニイはオスカーの返事を聞いて、一瞬アタマが真っ白になりました。
〈ダメだこりゃ、オレの知ってる世界の数字じゃない…〉
「まあ、それはあくまで理論上の数字でな。その組み合わせすべてが〈精霊術〉と紐づいてるワケではない。安心せい」
どうやら、ノギス技師に脅し半分のフカシを入れられただけのようですね。
「チェニイ君は〈群論法〉という言葉を知っているかな? この数理を応用すれば、基本的に〈精霊術〉と紐づけされたキューブの組み合わせ解析はカンタンに導かれる」
〈あ、そのグンロンとかいう言葉、ずいぶん以前にガブニードスからも聞かされたことがあったような…ないような〉
チェニイには、何かしら苦い記憶が蘇って来ました。
「言っとくけど、ソレはオレの記憶喪失以前の問題だ。そんな厄介な数学を持ち出されても、返答のしようがないぞ。教わる気もないからな」
「はっはっは…」
なぜか愉快そうに、オスカー・ノギス技師は笑いました。
何が可笑しいのやら…チェニイが苦虫を噛み潰していると、オスカーが答えます。
「ま、脅かすのはこの程度でよかろう。本題はここからだ」
〈使徒として召喚されたチェニイ君に与えられた〈キューブ〉はな。言ってみれば『正解をあらかじめ教えてくれるアンチョコ』みたいな存在でもあるのだ。
キミの意識が然るべく統一されれば、それに見合ったキューブの配置は勝手に組み合わされ、発動する。
あとは、その位置が決まったらキューブを右掌で固定し、解放すればいい。この手順さえ理解すれば、精霊術を駆使できる範囲は…それこそ無尽蔵だ〉
「なんか…さっきのクソ面倒な解説と打って変わって、カンタン明瞭だな」
チェニイには拍子抜けしたような気分になりました。
「実際問題、可能性のレベルで考えたら…ニザーミア学府院の首席導師オービス・ブランをも超越する術者なのだよ、チェニイ君は。彼は3精霊を駆使できるトライフォースだが…あるいは、ニキータの姐様以上の存在ともいえるかな」
フウ、と溜息をついてオスカーは言葉を続けます。
「問題は、その君自身の命令…キューブに直接アクセスするには、古代機械ダール・グレンの3女神を経由する必要がある、という点なのだ。この制御を間違えると、大暴発しかねない…君自身が以前、実際に無意識で体験した覚えがあるはずだ」
チェニイには、イタい思い出が確かにありました。
「けど…だとすると…そんなヤバげなバクダンを、オレが後生大事に抱えてても、まるで使い道がない無用の長物じゃないか」
「だからこそ、蛇口の締め方を最低限ここで習得しておかないと先々で、困ったことになるのだよ! すでに〈キューブ〉は君自身のアーティファクトと一体化しておる、もう元には戻せない」
オスカー・ノギス技師がチェニイを伴って〈特訓〉と称し、廃都ガドリングの湖面にまで連れてきたのもその理由でした。
「まあ、どちらにせよこの廃都ガドリングは、大改修する前にイロイロと基礎工事が必要だからな。ここは一発、チェニイ君の精霊術の特訓ついでに、廃墟の解体作業も手伝ってもらえると一挙両得だ。まずは手始めに〈火精術〉の基本からいってみようか」
「…と言われても、オレ…術の使い方の基本がいまイチ分かんないし…」
「だからぁ! ここはアンチョコを頼りにすればいいのだ! 火精術の「呪」は一番基本的な構造だからな。〈ズゾボン〉あたりは、心の中でスペルを唱えるだけで発動する」
「い、いいのか…?」
「かまわんよ、どうせこの近辺は廃墟しか残ってないから、一発ド派手に行ってみよう」
チェニイは恐る恐る、左掌を上に向けて〈キューブ〉を取り出しました。
ブウン…と鈍い音が鳴って、キューブはコマンド待機状態に変化します。
〈ここで右手を添えて…角度を合わせて…【ズゾボン】って唱えるのか〉
チェニイが心の中で叫ぶと、キューブの一辺の中心と4つの辺が、徐々に赤く染まり始めました。放っておくと、どんどん赤色が濃赤色に変化し始めます。
「そのへんで留めろ! その位置のまま湖面に向けて火精を解放しろ! ブッ放せ!」
オスカーの声に合わせて、チェニイは〈右手を引き絞る感覚を〉解放しました。
ズっどう~ん!
重低音が周囲に響き渡り、赤く輝く光の塊が、そのまま湖面に浮かんでいた廃屋に激突しました。
続いて夥しい瓦礫が一斉に誘爆し、さらに湖畔から奥に伸びていた藪や林にまで拡散してバラバラに破砕されたのです。
「はあ~……たかが初級の集団攻撃で、ココまで破壊が及ぶのか…こりゃ相当にビーム出力を絞らせないと、あっと言う間に人死にが出るなぁ…ま、近隣には誰もいない環境だから、問題は起きなかったけれど…」
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オスカー技師は〈たかが初級の対集団攻撃〉レベルの
火精試射でこの威力か…と心中では舌を巻きました
この成果は、チェニイ君には伏せておいた方がいいな、
慢心されても後々で面倒だし、ビビられても逆に厄介になる、と
…
ただ、近隣に被害を及ぼさないから良かった、というのは、
オスカー技官の相当な認識違いだったのです
廃墟を挟んだ灌木のはるか向こう側では、タイヘンな
大騒動がすでに巻き起こっていたのですから
次回に続きます
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