089 ノギス師匠は感服…したけど秘密ね
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さすがにデネブラ山のトリさん撃退騒動、さらに
下山途中でモジャ公たち突然の襲撃…と、ドタバタ続きで
チェニイ自身も〈強制リミッター〉の後遺症にはヘキエキ
していたのか、この操作を解除することにはアッサリ承知し、
また怒り狂われるかと心配していたガブニードスも
ホッと一息つきました
…ちなみにガドリングへの到着後、いきなり溺れたという
カナヅチ体質は〈リミッター〉制限とは関係なく、
チェニイ生来のモノで、こればかりは仕方ありません
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「そういや、サンダユウはどこにいるんだ? 部屋に戻ってないのか?」
と、最初に気づいたのはチェニイでした。
ペットの動向をチェックするのは、もちろんミリアの役目なのですが…当の本人は疲れがたまっていたのか、ソファーに突っ伏したままダウン! ス~ス~と心地よい寝息を立ててお休みの最中です。
そういや、さっきオルトと〈ガドリング探訪〉に出かけてた時には、チョコマカとくっついてた筈なんだが…またどこかで勝手な冒険にでも繰り出したのか?
チェニイの記憶も曖昧になってしまいました。
「あ、考えてみたらリヒターもいつの間にか、いなくなってますねぇ」
今度は、ガブニードスが気づきました。
「っったく! つくづく団体行動ができねえヤツラだな」
「先ほどまでは、私と一緒に時計塔ポータルで、ノギス技師と相談をしてたのですけどね」 で、一緒にこの迎賓館まで戻って…そうしたらチェニイさんたちが戻ってなくて…それから彼は…どうしたんだっけ?
実はリヒターは、いったん迎賓館に戻った後、チェニイたちがまだ戻っていないことを知ると(このまま、不機嫌なガブニードスとツラ突き合わせてても仕方がない、と思ったのか)再び勝手に時計塔ポータルに取って返していたのです。
「尊師、結局その…生命科学研究所では、どんな研究を行っていたのでしょうか?」
リヒターは、ノギス技師に向かって単刀直入に問い質しました。
「ずいぶんとストレートにモノを尋ねるなぁ。リヒター君は」
さすがにオスカーも口ごもるしかありませんでした。先ほどオスカー本人の口からも
〈あの研究所では、少々不愉快な経験をした〉と事情をボカしながら語ったように、正直言ってあまり口にしたくない経験だったのでしょう。
「ま、ご推察の通り、自分はガブニードス君と同様、元NUA出身の技術屋だからな。あの〈生命科学研究所〉っつうヤツは、この北の大陸ノース・クオータを仕切っとるUNトラストが設立した設備だから、自分の所轄外なのだな。詳細は知らんし、語れもせん」
口にしたくもない…という態度がアリアリなオスカーの口調です。
その言葉に、下を向いてしまったリヒターでしたが、そんな彼の表情を眺めながら、オスカー技師は言葉を続けました。
「さっきも聞いたがリヒター君、アンタひょっとして…本当に身内の誰かが…その研究所で、何かあったのと違うか?」
「どうして…そう思われたんですか?」
不意に質問されたリヒターは、逆にオスカー技師に尋ね返しました。
「まあコレはカンなんだが、あんな秘密の研究所を知ってたり、興味を持ったりするザネリアンなんぞ、まずおらんからな。たとえその出身が、5種族外のルボッツといえども…な」
そうオスカーが答えると、やや間をおいてから、リヒターが返事をしました。
「実は10年ほど前、父があの研究所を探索しに入って、そのまま消息を絶ちました」
なるほど…と言いたげにオスカーは小さく頷き、やがて語り始めました。
「アソコは要するに…文字通りノース・クオータの生命工場だ。生命改造所と呼んでもいい、初期のノース・クオータ6種族も、あそこで合成された。なんでアンタの父君が、そんな場所に迷い込んだ事情は問わんが、ザネリアンがアソコの実態を知るなんざ、まずありえない事態だ」
リヒターはその言葉を聞いても、さしてショックを受けた様子はありませんでした。むしろ〈やはりそうだったのか〉と納得がいった感じさえ窺えます。
そんなリヒターに、オスカー技師は話を続けました。
「アンタ、このガドリングに来て、モジャ公たちに出会っただろ。どう感じた?」
今度はノギス技師がリヒターに尋ねる番です。
「正直、驚きました…というより、感動しました」
「ほう、感動した…とはな…なぜかな?」
「モジャ公というのは、エイプ・オムのことですね、正式名称は。〈人間猿〉という意味だ。ここへ到着する前にデネブラ山で襲われた連中と最初は全くの別物…と思ったのですが、あいつらと彼らは別種の存在と言うより、むしろ本来、ガドリングで出会った彼らのほうがオリジナルなのではないのか? と…感じざるを得なくなった」
「フンフン…」
「要するに〈大厄災〉の後で、彼らは何か意図的に先祖返りさせられたのではないか?
そう思わざるを得なくなったのです。正直言って、尊師が仰ったように6種族のうち1種族は〈ノーレム〉千年紀の後で意図的に滅ぼされた。それが正しいのなら、北大陸にいま生き残っている、われわれ5種族とエイプ・オムの間に何の違いがあるというのか?」
パチパチパチ
ここで手を叩いたのはオスカー・ノギス技師でした。
「なるほど…ご明察だ。けれどあくまで、その意見は〈仮説〉にとどめておくほうがいい、いまのうちはな。いずれ分かるときも来るだろう。キミは…その…世界の真実を突き止めるために、わざわざ〈風来坊の冒険者で、ついでに傭兵〉になったのと違うか?」
「そ…そんな大それたモノじゃないのですが…」
「ま、少なくとも〈ルボッツの衆〉にしては珍しい性格だよ。ルボッツは生来、面倒なコトに関わるのを本能的に避けて通るからな」
かっかっか、
と大声を上げてオスカーは笑いました。
…そういえば、尊師が大声をあげて笑ったのを見たのは、これが初めてでした。
やがて、階下でバタバタバタ、と音がしたと思うと、時計塔ポータルの階段を慌ただしく、ガブニードスとチェニイが駆け上ってきました。
「あ~! やっぱしココでアブラ売ってたのか、リヒター!」
二人を眺めて、チェニイは大声を出しました。
「ったく! ちょっと目を放したらコレだよ。本当に団体行動が取れないヤツだな」
「少なくとも、迎賓館でチェニイ様たちがデエトから戻るのを、ヒマこきながらお待ちしてるよりは有意義に過ごせましたけどね」
珍しく、リヒターもチェニイの文句に対して皮肉で返しました。
「で、チェニイさまの〈リミッター解除〉の説得ちゅうやつは、上手くいったのかな?」
オスカーも興味津々で尋ねます。
ガブニードスは意気揚々…と師匠に報告しました。
「案ずるよりナントカ…でした。チェニイ様もこのまま能力にリミッターが付いたまま今後、大都ジュレーンに赴くのは問題がある、と既に理解して頂いてましたので…」
「そりゃ結構なこった。じゃ始めようか、時間をムダにこいてる場合じゃない」
というワケで、再び時計塔ポータルの〈巨大プラネタリウム〉…正式には〈司巫儀デバイス〉と呼ぶそうですが…が再起動を開始しました。
考えてみたら、チェニイが右掌から〈キューブ〉を取り出して解放するのは、ラッツーク竪坑町の時計塔ポータルで、ガブニードスから〈リミッター〉措置を施されて以来のことになります。
左掌を上にかざして意識を集中させると、ボウ…っと手から六面体が浮き上がってくる…。自分の体ながら、これを眺めるのはやはり奇妙な気分だ。そうチェニイも感じます。
一面が3×3のブロックで囲まれたキューブが正立方体で構成されていて、それぞれが…現在はランダムな色模様で輝いている。
もっとも、チェニイにすれば〈それぞれの色を揃えてブロックを完成させる〉などという細工は思いつきません。
ただ、宙にフワフワ浮いているキューブを右手で撫でると、その動きに連動してキューブの各面が微妙な挙動で移動するのです。6色に色分けされた各面が組み合わさり、モザイクのように変化する…。
〈考えてみたらこれ、要するに色合わせの立体パズルなんだよな〉
今更ながら…というか…チェニイ自身は、このキューブをニザーミアの講堂で〈使徒召喚〉の儀式と共に渡されて以来、そんな基本的なことさえ意識していなかったのです。
なにせ〈召喚儀式〉では、キューブを取り込んですぐ、〈ファルスの呪縛〉というヤツで自分にも理解できない衝動に駆られ、学府院の講堂で大爆発!(といっても、今にして思えば精霊導師たちを衝撃でフッ飛ばし、外で待機していた見習いの精霊師たちを気絶させた、という程度で終わりましたが)してしまったのですから、細かいキューブの操作方法などを習熟する間などある筈もないし…。
それに、ラッツークの竪坑でチェニイが〈スコップ英雄〉に祭り上げられたのだって、キューブを操作した成果ではなく、単に左掌から〈何か分からない熱い波動〉が湧きあがってきて、それがミスリル鉱の所在を教えてくれた…いわば一種〈怪我の功名〉の延長にすぎません。
さらに…レスター島での〈対ゼイゴス決戦〉に至っては…リミッターをかけてキューブの能力を縛ったにも関わらず結局その〈縛り〉は勝手に外れ、やはり〈何だか分からないうち、ドサクサ紛れ〉で勝利した…のかさえはっきり分からない…事態で終わった。
「こりゃあ、想像以上に面倒なコトになっとるな」
オスカー・ノギス技師は、チェニイの掌から浮かび上がってきた、キラキラ輝くキューブを見つめながら、困惑したように呟きました。
彼は宙に浮かんだキューブを眺めながら、触れることなく右手のルーペ…のような形状をした器具を走査しつつ、データ解析をしていたのです。チェニイのこれまでの行動履歴もまた、このキューブにしっかり刻まれていました。
「チェニイ君の場合は…キューブのプロトコルそのものに妙な暗号が刻まれとる。よくこれでダール・グレン3女神と、まともな通信回線が継続できたもんだ」
オスカー技師の言葉を理解できる者は、この場にはいませんでした。ガブニードスですら、オスカーの言葉に首をかしげる始末です。
「それはつまり…チェニイ様のキューブに異常があるということ…なのでしょうか?」
「異常ではないな。キューブ本体は正常に作動とる、キミがワザワザ設定したリミッターも同様だ。解除するために正規の設定手順を踏めばよろしい」
「では…どこに問題が…?」
「要するに、通信コマンドのどこかにバクダンが仕掛けられとる…と考えれば分かりやすかろ。こればっかしは、本人自身の手でしか解除できん」
「けれどチェニイ様は…現時点で〈記憶喪失〉状態なのですが」
「だったらこのママの状態でキューブを〈解除〉すればよかろう」
「…って…それで…問題はないのですか?」
戸惑うしかないガブニードス(と、何となく不安に駆られたリヒター)をよそに、オスカー技師の返答は明白でした。
「問題があろうがなかろうが、やってみなけきゃ結論は出んだろ。要するに〈案ずるより生むがナントカ〉というヤツだな」
「そんな…モノでいいのですか?」
まだガブニードスには釈然としません。
「そもそも、プロトコルに手を加えて面倒なことをしたのはチェニイ君自身なんだろ? で、その本人が記憶喪失になっとるのであれば、バクダンの解除プロセスだって思い出せないから、破裂のしようもあるまい」
いわれてみれば、それはそれで尤もな話です。
「まあ、何にせよリミッターを解除して問題が発生したら、その時々で修正すりゃええ。
あとは一旦チェニイ君自身が精霊術を実地で試しゃイヤでもわかる。幸いこのガドリングには、フッ飛ばしても構わん廃墟なんざ、ゴロゴロしとるからな」
ちなみに、当事者であるチェニイ自身は…もう〈何だかしらないが、あとは勝手にしてくれ〉とばかり、この技師たちの会話を完全スルーしていました。
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ニキータの姐様が〈ファルスの呪い〉と語ったのは、おそらく
オスカー技師の指摘した〈妙なプロトコルが埋め込まれている〉
ということに関係あるのでしょうけれど…
ともかく、まずは〈縛り〉を解いてみないことには、
肝心のアーティファクト…与えられた宝物の〈キューブ〉が、
マトモに動作せず宝の持ち腐れです
もっとも、チェニイ本人はキューブの操作法を習熟…なんて全く
論外の〈脳ミソがバキューン!〉状態ですから、
そのあたりは、どうやってフォローするのでしょう?
ま、習うより慣れろって教訓もあるけど…実はそのお陰で
とんだトバッチリを喰らう皆様も、このあとすぐに登場致します
次回に続きます
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