表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/95

088 チェニイあっさり決断す

 …………………………………………………

廃都ガドリングへ秘かに到着したニザーミア学府院の

水精教導シェノーラは、これまた秘かにガドリング関係者と

大都ジュレーンを巡って進行中の〈革命騒ぎ〉の情報を

ニキータ姐様にもたらしました

この会合をチェニイやミリアたちへ秘密にしていたのは、

第一にシェノーラ教導がチェニイ…いえ使徒ファルスを名乗っていた

人物を竪坑ラッツークで隠密に観察し

(あの折には竪坑でスコップ名人という称号で、さんざんミスリル鉱を

掘りまくってブイブイ言わせていたのですが)

正直いって、あまり芳しからぬ印象を抱いていたこともあり、

シェノーラ自身が同席を拒んでいた…という事情もあります

けれど、大都ジュレーンとはライバル関係にある

商業都市ヨンギツァから、今度は反抗の火の手が上がろうとしている

という情報は、そんな姐様ニキータを、ひどく悩ませました

さらに…ニキータがお返しとばかりシェノーラに語った情報は、これに

輪をかけて衝撃的なものだったのです

 …………………………………………………


「にわかには信じられないでしょうけど、事実なのよシェノーラ…」


 同席していたサガッツ、それにユリアもニキータ姐様と同様の驚きでした。とはいえここでは口をはさむわけにもいかず、ただ耳をそばだて息を呑みつつ、ニキータの話を聞くしかありません。

〈大都ジュレーンで起きつつある革命騒ぎ?〉VS〈大魔王ゼイゴス粉砕?〉の情報…さながらこの場はバクダン情報のぶつけ合い、合戦じみた雰囲気に包まれてしまいました。


 ただ、この場の全員が共有できたのは、大都ジュレーンは〈このままでは済まされない。大変な騒動がこの後すぐ、勃発するだろう〉という予感です。


「チェズニから直に聞かされた…という姐様の言葉を疑う理由はないわ。でも…なぜ、あの大魔王ゼイゴス…いえゼイゴスCEOって呼んだ方が正確かしら…あいつが唐突に、このノース・クオータにやってきたの? 〈大魔王襲来〉なんて、ニザーミアが仕組んだ単なるガセネタだった筈なのに…」

 シェノーラは、思わず頭を抱えました。


「詳細なことは、私にもはっきりとは分からないの。伝わってくるチェズニの意識も途切れ途切れだし、ゼイゴスとの出会いに関しては、時々誰かの奇妙なノイズが混じるから」

「ファルス…いえチェニイ君…の意識ではなくて?」

 シェノーラが尋ねると、困ったような表情でニキータが応えます。


「それは…分からないけど、ともかく二人が…いえ正しくはその場にガブニードス…あなたにとっては〈ガストニーフ〉かしら…彼も同行して、レスター島に到着したチェニイ君たちと例のゼイゴスCEOが対決したのは確かよ」


「それで、ゼイゴスは…チェニイ君に真相を告げ、巧みに説得しようとしたけど失敗して、結局は殲滅されてしまった、というコト?」

 シェノーラは言葉を畳みかけました。

 けれどその口調は喜び勇んで…、とはまるで真逆の絶望的な響きすら帯びています。


「そこの結末が謎なのよ。チェニイ君は…例によって〈ファルス〉の呪縛が発動してブチギレを起こしたのは確からしいけど、それでゼイゴスが〈ヒサンな最期を遂げた〉のか、それとも混乱に乗じてまんまと逃げおおせたのか、チェニイ君本人にも分からないみたい」


「ゼイゴスに、例の〈フェイス・ダンサー〉の技を使われた、って可能性もありますね」

 シェノーラは、忌々し気に吐き捨てました。

「そうね…アレの技術に関しては、サウスの方が本場だから」

 フェイス・ダンサーはいわば〈ニセ記憶を植え付ける〉技術とも言えます。もちろんそれだけではなく、強い暗示や恐怖…さらに術者の技能が高ければ尊敬や愛情といった感情さえ、自在に操ることが可能な…かなり性質の悪い一面もありますが…。


「そういえばシェノーラ、あなた水精局で以前、自分のお弟子さんに、その技を掛けたことがあるでしょ?」

 なぜそれを…と言いかけて、シェノーラは思わず口を自分でふさぎました。

「いえ…それは…部下が、ワタシの…ラッツーク竪坑町への潜入が危険だ、と危惧したものですから、大丈夫よ…私には秘技があるからと、安堵させるために一発…」


「ムチャクチャ、恐ろしいバケモノに変身して見せたでしょ?」

 どこで知ったのか、姐様には全部お見通しでした。

 返す言葉も見つからず、シェノーラは押し黙るしかありません。


「ま、水精局へ戻ったら、キチンと彼女にお詫びすることね。アレは、かけた相手にかなり強いトラウマを植え付けてしまうこともあるから。

…そうそう、そのお弟子さん…ラクーナ水精師さん、っておっしゃったかしら?」

「ハイ…あの…彼女が何か…」


「今は、ジュレーン水精宮の元斎宮ミリアに相当、入れ込んじゃったみたいよ。つい先日にニザーミア学府院を襲った大事件〈内火ナイカ〉騒動の折に、火精導師トープランの命を救った大恩人ですからね、ミリアは。

もっとも、恩を受けた側からはカンペキに、仇で返されたけど…。

ちなみにナイカ騒ぎの折に、ラクーナさんはデュアルフォースの秘儀をニザーミア水精宮で目撃して以来、完全にトリコになっちゃったみたいね、ミリアに…」

 くすくすと、さも愉快そうにニキータは忍び笑いを漏らしました。


〈あのミーハー娘が…もともと彼女、ソッチの気もあるのは知ってたけど、水精局へ戻ったら、一度かなりキツく締めんとイケナイわね〉

 シェノーラはそう決意しました。

「と…ころで姐様、いま気づいたのですけど、この場にオルト君が見当たらないんですけど、彼は…どうしたのですか?」

「ああ、オルトは今、別の用事でチェニイ君たちの許へ行ってもらってるの」

「チェニイ…君たちの?」


「この廃都ガドリングの本当の姿…というより、ここがこの先、どういう場所に変わっていくのか、予め知ってほしくてね」

「それはいいのデスけど、姐様…」

 ここで声を上げたのはこの場でずっと静かにしていたユリア・イルーランです。


「チェズ…チェニイさん、なんかアタシには気になるんですよネ。昔のチェズニ君とはかなり様子が違うみたい…。性格も変わってるし、能力も…」

 唐突なユリアの発言に、眉をひそめる姐様とシェノーラです。

「どう変わった…と思うの? あなたから見て」

 シェノーラが尋ねると、困ったようにユリアは口ごもります。

「たとえば…そのぉ…」


「姐様。チェズニは元々、北の漁村レイヨルドの生まれでしたよネ。子供の頃から〈例の舟〉の操作にも長けていたし、海での荒仕事もお手のモノだった、って…」

「そうよ…それが、どうしたというの?」

 ニキータは怪訝そうに応えました。


「じゃあ間違っても水に落ちて溺れそうになる、なんて醜態を晒すはずがないですよね」

 と、言葉を引き取ったのはユリアの脇で控えていたサガッツ・アリューインです。

「最初にガドリングの水精宮へ来たときに、彼は足場を踏み外して湖に落下し、あやうく溺れそうになったんです。オレらが慌てて引き上げたんで、事なきを得たけど…」

 サガッツの脳裏には、あの騒ぎの光景がまざまざと蘇って来ました。


 使徒様…とか言ってたけど、あんな有様でココから先、本当に大丈夫なのカシラ?

 タイヘンな使命を大都ジュレーンで果たさなきゃならないというのに…。

 ユリアが感じていた〈心配の種〉は、多かれ少なかれ、ここに居合わせていた全員が共有していたものでもあったのですが。



 さてその当事者であるチェニイたちはそんな彼らの心配など知る由もなく、オルトと別れたあと、ようやく迎賓館に到着していました。

「いやー、マジで疲れた~」

 

 実際、チェニイとミリアが、オルトに案内されてこの廃都ガドリングで目にしたものは、彼の想像をはるかに超えたものでした。

 それは「廃都」どころか、これから復興する新たなノース・クオータの芽生え…率直に言って、チェニイには今しがた目にした光景を咀嚼し、記憶にとどめるだけでも大変なことなのです。それはミリアにとっても同様なのですが…。


 迎賓館の客室へ戻って来た二人を、待ち構えていたのはガブニードスでした。

「チェニイ様…長いお出かけでしたが…どちらへ行っておられたんですか?」

 恐る恐る、ガブニードスはチェニイに尋ねました。

「オルトに誘われてミリアと二人で、再建中のガドリングやらビズワ湖の堰堤やら、見て回ってたんだ。壮観だったぞマジで。一度ガブニードスも見るといい」

 

 バッスン、と大音を立ててその場のソファーに倒れ込んだミリアもまた、ため息をついて語りました。

「もう、アタシもアタマん中はおなか一杯! しばらく休ませてもらうわ」


 そんな二人を前にして、ど持ち出せばいいのか…と悩みはしたものの、ここは避けて通れない局面だ。ガブニードスは〈オスカー・ノギスが提案した例の件〉を切り出しました。


〈またオレをオモチャにして、アタマん中に妙な細工をするつもりか!?〉

 チェニイは再び激怒し、ガブニードスに食ってかかる!

 …

 かと覚悟していたのですが、チェニイからの返事は、意外なものでした。

「そうだな…オレにも異存はないよ」

 と、淡々としたものです。


「いい…のですか? チェニイ様はその…」

「それってオスカー・ノギス技官の提案だろ? オレに反対する理由はないな。

 で、どうするんだ? 今からあの〈時計塔ポータル〉へ戻って措置するのか?」

「………」

 あまりに拍子抜けした答えに、逆にガブニードスは返答に困ってしまい、思わずミリアの方へ目を向けました。


「そうよね、またデネブラ山騒動の二の舞はカンベンして欲しいモンね。チェニイ英雄様が、結局は錫杖一本であの巨大なトリさんに立ち向かう姿なんか、もう見たくないし」

 ミリアはソファーに突っ伏したまま、そうチェニイに告げました。


「何だよそれ、ムチャクチャな言われようだな」

 チェニイは不満そうに口答えしますが…。

「だって本当のコトじゃない。結局、あの鳥を追っ払ったのは、アタシの水精術がヒットしたからでしょ? あとはガブニードスの空中技と、リヒターが準備してたカンシャク玉のお陰よね。英雄チェニイ様は、みんなの前で偉っそーに命令してたダケじゃない」

「お、オマエなあ…!!!」


 またここに来て、二人の痴話ゲンカが始まっても困るので、ガブニードスはあわてて口を挟みました。

「けれど…そのぉ…チェニイ様のリミッターを解除するとなると…再び…」


「再び…ナニが起こるっていうんだ? それに考えてみりゃ、例の〈ゼイゴスとの対決〉の時だって、結局はそのリミッターとやらはキチンと発動せず、挙句の果てに暴走しちまったじゃないか。

…んまあ、オレが自分の口から言っちまうのもナニだけどな」


 チェニイ自身の口からそう言われてしまうと、ガブニードスには返す言葉もありません。「じゃ、行ってらっしゃいチェニイ。アタシ、ここで待ってるから」

 ミリアは再びソファーに突っ伏し、お休みモードに入りました。


「おいおい、一緒に時計塔に行くんじゃないのか?」

「アタシが一緒に行って、ナニか役に立つ? もう…アタシすっごく眠くて眠くて…しばらく休ませてよぉ~~」

 仕方がないなあ…チエニイは覚悟して、ガブニードスと共に時計塔へ向かうこととなりました。


「ステキな英雄様にヘンシンした姿、楽しみに待ってるわ…オヤスミ♪」

 すぐ、スヤスヤと寝息を立ててしまったミリアでした。


 ……………………………………

 実際このあと、ミリアの期待通りチェニイは

(ステキかどうかは別として)大変身と遂げる

ことになるのですが…

当然ながら〈いいコトばかり〉は起きません

それ相応の代償を、チェニイ自らが背負うことと

なりますが…それはまた別の話です

次回に続きます

 …………………………………………………

「ザネル」は毎週月・水・金に更新いたします 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ