087 革命の気配
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チェニイ一行を追いかけてきた(ワケではないのですが)
ニザーミア学府院の水精教導シェノーラですが、
彼女の行動をよく観察していると、どうもこのお姉サマは
彼女の師匠(?)である竹を割ったようなニキータと違って、
裏仕事…と言い切るのも何だけど…隠密行動が得意なようです
まあ、自分の部下をイジリ倒すのが大好きのお茶目な性格は
お師匠様譲りのようですが
…
ともあれ、彼女が廃都ガドリングへ到着したことで、
事態はさらに切迫しそうな空気に変わりました
ちなみに、ニキータ姐様の部下たちとのやり取りを眺めていると、
シェノーラ教導とは、かなり気脈が通じ合っている様子です
…
けど、それって問題ないのでしょうか?
だってシェノーラは一応…末席とはいえ、
れっきとしたニザーミア学府院側の、指導者なのですよ!!
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「革命が起きるっていうの? あの大都ジュレーンで!?」
シェノーラからもたらされた情報に、さすがのニキータ姐様も絶句するしかありませんでした。たいていのことでは驚かない豪胆な彼女だったけれど、さすがに〈革命騒ぎ〉が勃発するかもしれない、という知らせは寝耳に水のバクダンだったのです。
「にわかには信じられないでしょうけど、事実なのよ姐様…」
シェノーラは淡々と語ります。
オルトやサガッツ、それにユリアたちもニキータ姐様と同様の驚きでした。とはいえここは、耳をそばだて息を呑みつつ、ひたすらシェノーラの情報を聞くしかありません。
「だけど…その〈カクメイ〉騒ぎの仕掛け人は誰なの? まさか…ジュレーン政庁の裏切者が秘かに暗躍して…なんて物騒な話じゃないでしょうね?」
「まさか! あそこの連中は上から下まで〈事なかれ主義〉のカタマリなんだから。例のリチャス市長をはじめ、全員がUNトラスト外交官の言いなりよ」
こほん、と咳払いしてシェノーラは言葉を継ぎました。
「仕掛けてるのは〈商都ヨンギツァ〉の〈会合衆〉たちよ。さすがに今回の〈使徒様〉騒動のドタバタにあきれ果てて、決起するみたいね」
「はあ~~~!」
ニキータの姐様も、その名前を聞いて溜息をつくしかありませんでした。
「ここに来て、今度はヨンギツァの会合衆は総決起ときたか…本当にもう、次々と…ドブと下水から、いろんな魑魅魍魎が湧いて出ること、でること!」
お初の名称に戸惑った方もいらっしゃるとは思いますが、実は本編第1章冒頭で、〈ヨンギツァ〉という都市の名前は、チェニイとの会話の中にさりげなく登場しているのです。
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実はチェニイが〈使徒召喚〉儀式の最中、「ファルス様」と火精導師トープランから呼ばれたのにブチ切れ、
「なんでテメエらの命令に従わにゃならんのだ!」
とタンカを切って逃走。ガブニードスに手を引かれて麓の竪坑町ラッツークへ逃げ込んだ…その後での出来事です。
「働かざるもの食うべからず」
的なヨールテ親方の命令で、チェニイが叩き込まれたのは露天掘りの竪坑。ここでミスリル鉱を(ズブの素人なのに)掘らされるという、今にして思えば、かなりキケンな作業だったのですが、その竪坑のお師匠様? だったのが、若いながらもスゴ腕の鉱夫にしてルボッツの若者、ジェスローでした。
彼は作業を始めるにあたって、得々とミスリル鉱がいかに高価で重宝な金属か、という一席を得々とぶち上げてくれたのでした。
「ま、ガラ金属は他にも、ここではよっけ採れようから、いろんなカナモノも精錬しよるけどのぅ、やっぱ一番の稼ぎは純正ミスリル鉱じゃな。
ノース・クォートでミスリルやテクタイトの産地、ちゅうたらここ以外だと西の大都ジュレーンとか、赤十字回廊の中心商都ヨンギツァ、あとは呪われた廃都のガドリングくらいか。けど廃都になんぞ今日び、好きで近づくアホは滅多におらんき、のぅ」
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あの時点では、まさかチェニイ自身が「呪われた廃都」ガドリングへの旅を敢行することになるとは、夢にも思わなかったのですが、それは置いといて…。
ミスリルやテクタイト鉱の産地として、師匠のジェスローが挙げたのが「商都」として名高いヨンギツァでした。
地理的にいうと、このヨンギツァは東西と南北に伸びている、ノース・クオートの〈赤十字回廊〉同盟市にあっては、ちょうど中央に位置する…文字通りのターミナルなのです。
ちなみに政治と文化の中心・大都ジュレーンはちょうどこのヨンギツァから赤十字回廊の東側30キロメルトの位置にあたります。
〈商業都市〉というだけあって(?)住民たちは…主としてラフルヤ・エルフ族なのですが…一種の独立志向が高く、水精種族セイノールのように精霊の学術院である「ニザーミア」ベッタリでもないし、また政治的にも「会合衆」と名乗る町の有力者たちの合議制で運営されているのです。
「そんなところに〈使徒様の降臨〉だの〈使徒様によるサウス・クオート征伐〉だのとジュレーン経由で情報が流されたら、それこそ…ただでさえ反ニザーミア学府院の気風が高い会合衆たちは面白くないに決ってるでしょう。
別に私が何か焚きつけなくても、勝手に向こうで燃え上がってくれるわよ」
シェノーラはそう語りながらも、なぜか顔には〈ほれ見たことかザマア〉と書いてある…ような表情を見せています。
「けどアナタ…例の〈使徒代理人〉登場の噂も、今回はさりげなくヨンギツァの連中にバラ撒いたんじゃないの?」
ニキータに図星を指摘されて、シェノーラも一瞬、すごくバツの悪い表情になりました。
「そりゃあ…ねえ…ジュレーンの官僚連中が得々と自慢げに吹聴してりゃ、そんな噂も羽が生えてヨンギツァの会合衆にまで飛んでくわよ、根も葉もない、ってワケじゃないし」
ハア…とニキータはそれを聞いて再び溜息をつきました。
「けど…姐様…そうなるとチェニイ君たちはそんな鉄火場に、みすみす飛び込んでいくことになりませんか?」
「そうなるでしょうね、当然」
ニキータは、すげなく返答するしかありませんでした。
「姐様…考え直してはどうかしら? いまは時期が悪すぎるわ。大騒動が必至のジュレーンへ元使徒のチェニイ・ファルス君と、それに前斎宮姫のミリアさんを…しかも二人そろって〈失踪して行方不明〉のコンビを送り出すなんて、火に油を注ぐようなもの…」
シェノーラは勢い込んで話しかけました。
「いえ、別に私は…その…使徒〈ファルス〉様に強い含みがあるワケじゃないのよ。チェニイと名乗ってる彼がチェズニ君を憑代にして乗っ取った、と言いたいワケでもないの。
むしろ、それを言い出すとしたら…それこそ姐様が…」
そう言いかけたシェノーラは、あわてて自分の口をふさぎました。
まずい、余計なことを口走ってしまった…。
けれど、それを意に介さずニキータは、シェノーラに向かって静かに話しかけました。
「あなたの耳にはまだ入っていない情報を教えておくわ、シェノーラ」
ニキータの表情には「姐様」らしい凄味と、淡々とした平静さが同居していました。
思わずゴクリ…とシェノーラは唾を呑み込み、姐様の口元に引き寄せられています。
「実はファルス様…チェニイ君はね、すでに〈使徒様〉に与えられた…というよりニザーミア学府院に降臨させられた使命とやらを、とっくに果たしてしまったようなの」
………?
ここに会した一同は、ニキータの言っている言葉の意味が分からず、怪訝そうな表情を浮かべるばかりです。
「分からない? 要するに、サウス・クオートの支配者〈大魔王ゼイゴス3世〉とやらは、すでにチェニイ・ファルスの手によって殲滅されてしまいました!
…そう言ってるのよ!」
シェノーラは驚きの余り、口をあんぐり開けたまま凍り付いてしまいました。
「だ…だれがそんな…デタラメな戯言を…姐様に吹き込んだんですか?」
ニキータは、笑みを受けべながらシェノーラに告げました。
「チェニイ君…いえ、この場合はチェズニ…本人から直に教えてもらったの」
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考えようによっては、ニキータ姐様の最後の台詞も、一種の
「フライング」と言えなくもないのですが…だって、現時点では
ゼイゴス(大魔王?それとも本人の弁を借りればゼイゴスC.E.O?)の
死亡は確定していませんから
けれど、それに関わらずこの事実は、ひょっとすると
この先の展開を占ううえで、とんでもないバクダンに
化けるかもしれませんが…まあ、すでに大都ジュレーンを
舞台にした〈ファルス〉劇は、現在まさに進行中なのです
次回に続きます
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