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086 敵の敵って、マジ味方なの?

 …………………………………………………

つい先日…到着したばかりの時に、まず挨拶代わりとばかり湖に入水して

溺れかけたチェニイが、その後救助され迎賓館に収容されて

フテ腐れていた折のことです

冒険者のカンというのか、チェニイたちの到着をガドリング側は予め

予知していたかのような振舞いに、リヒターは不審を抱いていました

なぜかというと、いろんな事情を考え併せれば〈魔女が隠棲しているという〉

廃都ガドリングに対して、送り出す側のニザーミア学府院がわざわざ

特使を送って通知してくるはずはないじゃないか? と考えたからです

たしかにその推察は当然のコトでした

ただ、リヒターが考え付かなかったのは…それも道理なのですが…

イレギュラー要因、ニザーミア内部に起こっていた軋轢…要するに

「学府院だって一枚岩じゃない、それどころか四分五裂のワヤクチャな

状況になっていた」ことを計算に入れていなかったことです

 …………………………………………………


「なあロボの大将、アンタこれからどうする?」

 ぼそり、とリヒターはガドリングの時計塔ポータルから迎賓館への帰途、唐突に尋ねてきました。

「どうする…って、もちろん私はチェニイ様たちと、大都ジュレーンへお供しますよ。そういえばアナタとは、このガドリングまでのお付き合いでしたね。この先も、放浪の冒険を続けられるご予定なんですか?」


「う~む…ソコが問題なんだよな…」

 珍しく? リヒターにしては歯切れが悪いようです。

「まあ、ノギス尊師の一番弟子としては、あのチェニイさんのこの先を見届けないと、筋が立たないんじゃないかなぁ、とか思ったりしてな…」

「はぁ? ナニ口走ってるんですかアナタは」


 そもそも〈ノギス尊師〉ってのは誰のこと?

 いつからアナタは彼の一番弟子になったの?…などなど、問い詰めたいことはいくつもあるけど、それよりガブニードスには、リヒターの最後の台詞が引っ掛かりました。


「チェニイ様のこの先を見届けるって、どういう意味なんですか?」

「いや…なあ、尊師が仰っただろ。チェニイさんのリミッターを再び解除する、とか何とか。ありゃあどういう意味だったんだ?」


 ガブニードスは返す言葉に詰まりました。事情をキチンと話せば、チェニイの〈使徒〉としてのゴタゴタまで話が及んでしまう…けれど〈どういう風の吹き回しかは分からないけれど〉リヒターはこの先々も、自分たちの旅に同行する決意を固めたらしい。となると、ここはある程度、かいつまんで説明しておいた方がいいかも。まあ考えてみれば、彼に話したところでナニか不都合が生じるワケじゃなし。


 というワケでガブニードスは迎賓館へ戻る道中、リヒターに〈チェニイ様〉の特異な立ち位置と、彼に起きた体の異変について語りました。


「ほあ~! まあ、あの人も尋常な経歴じゃないとは薄々分かってたけど、そんな事情があったとはねえ…それじゃあ、こんな奇妙キテレツな旅をワザワザ選んだのも納得するしかないわな…ただ、そうなると…今度はミリアさんまで率先して〈大都ジュレーンへ赴く〉ってアッサリと決めちまったのに、チェニイさんは全く異を唱えなかったのは、なんか妙じゃねえのか?」


 ガブニードスも、それに関しては同感でした。

「そーなんですよねぇ…それにチェニイ様にしたって、今になってリミッターを解除する、とか言われても〈何回、人の体をオモチャにすりゃ気が済むんだ!?〉とか言って怒り出す可能性が高いし…どう説得したモンか…」


 ところが、いざ迎賓館に戻ってみると、チェニイはおろかミリアまで不在でした。

「二人して、またどっかへ出かけてしまったんでしょうかね?」

「フン、本当に仲睦まじくてよろしいこって」

 リヒターは少々、オカンムリです。

 さらに〈御用があったら、いつでもお呼びくださいマセ〉とか言っていた、あの世話役の少女ユリア・イルーランまで肝心な時に不在なのですから話になりません。


 実はその頃チェニイとミリアは、姐様ニキータに言いつかったオルト・アリューインの案内で、ガドリング廃都の〈工事現場〉を見学していたのです。


「湖水が…逆流してる! どういうカラクリなのかしら!?」

 ミリアは湖の出口に設置されている堰から排水され、そのまま滔々と湖面の上へと逆流している様を眺めながら感嘆の声を上げました。

「このまま湖が干上がっていくと…沈んだ廃墟が浮かび上がることになるな」

 チェニイも、一種の大規模干拓工事(?)の様相には驚きを隠せません。

「最終的には全ての水を抜くワケではない。とりあえず大昔〈アベル・マート〉がブチ抜いてくれたクレーターの水位までは復旧するだろう。まあ、それで水没したもろもろの設備が完全に蘇るわけでもないが」

 オルト・アリューインは淡々と説明を続けます。


「その…アベル・マートってのは何なんだ? このガドリングを廃墟に変えてしまったバケモンか? そいつが大昔に暴れ回った、とかいう事件でも起きたとか?」

 チェニイが尋ねました。アベル・マート…とかいう名前に聞き覚えはないのですが、何かしら似たような名称なら、つい先だってどこかで聞いたことはあります。たしか〈カイン・マート〉とか言ったっけ…あれ、それ聞いたのって…どこだったかな?


「大昔のことは私にも分からない。〈大厄災〉と呼ばれる災難が起こったのは百年以上前のことだし、それで南北のクオート大陸は完全に分断された、と言われている」

「南の大陸は…ゼイゴス3世とかいう悪者帝王が支配する魔境になった、ってヤツか」

 チェニイが再び尋ねると、オルトはかぶりを振って答えました。


「魔境なのかどうか、そんなことはノース・クオートの民には分からない。あくまで分断された南の連中をめぐるウワサに尾ひれがついただけのことだ。ただ一つ確実なのは、彼らと我々…両方の種族同士で意思疎通が完全に遮断されたことだけ…」


「通う道が途切れた、ってこと? 南北を結ぶ紐帯半島がその時、切断されたの?」

 ミリアが言葉を継ぐと、オルトは妙なことを告げました。


「それだけではない。文字通り〈意志が通わせられなくなった〉という…要するに、コトバ自体が通じなくなったんだ。あの〈大厄災〉を皮切りにな。

 これで最初の千年〈ノーレム紀〉の御代は終わり、次の〈ガスナー紀〉が始まった。北の6種族は5種族に再編成され、同じく南も一つの種族が滅亡した。要するに5対5の種族が潰し合うバトルの時代になった、ということだ」

 オルトは淡々とした口調で、けれど相当不気味なサネルの歴史を語りました。


 ミリアにもジュレーンで〈ガスナー紀〉の歴史に関するあらましは伝えられていました。ただ、南のサウス・クオートとの交流がある時期を境にしてプッツリ途絶えてしまったのはなぜなのか。

 彼女はその真相は知らなかったし、それを尋ねることそのものが、この世界では一種のタブーだったのです。


 一方、ガドリング廃都においてもチェニイ一行に遅れること数日、コチラは一般的というか、東からの山脈越えではなく〈赤十字回廊〉の街道を北上して、他ならぬニザーミア学府院からもう一人の客が到着しました。

 ただし〈彼女〉のほうはビスワ河の河口正面に位置する水精堂からチェニイ一行のように堂々と入ってくるワケではなく、何やら隠密じみたルートを辿り、秘かにガドリング関係者と密会を行っていたのです。


「近年には珍しい千客万来ねぇ…シェノーラ。はるばる大都ジュレーンを経由して隠密旅行とはご苦労様でした。ここで会ったのは何年ぶりかしら?」


 姐様はわざわざ湖面に浮かぶ壮大な〈廃墟〉の一つを選んでガドリング関係者を交えた会合をセッティングしたのです。


「何年ぶり…ってコトはないでしょ姐様。ここでUNトラストの外交官と一悶着あったのは、ほんの二年前よ。ニザーミアの導師連中に真相は漏れてないけど。…姐様を除いては」

 くすくす…と二人は顔を見合わせて忍び笑いを交わします。


「それにチェズニ…ではなくチェニイ君…一行も実はタイミングよく3日ほど前にここへ到着しております。さすがにオレも彼の顔を見た時には、本当に驚きました」

 言葉を挟んだのはサガッツ・アリューインです。


「ああ〈召喚〉直後に学府院から逃げ出して、なんとラッツーク竪坑町で英雄様に成り上がった噂の〈ファルス〉サマのことね。実は私も召喚騒ぎの後に、お忍びで竪穴坑道を訪れて彼の姿を拝見したのよ。それにもう一人…あの大都ジュレーンからやってきた元斎宮様にも…ね。サスガに時間も足りなかったから、あのコが経営してた〈ビストロ姫様〉とかいう食堂で、彼女自慢の虫入りシチュウを賞味できなかったのはザンネンだったけど」

 そう語りながらケーブで隠していた装束を解いて、客人は顔を見せました。


「じゃ、シェノーラ様もあそこでチェズニ、じゃなくチェニイ…と会ったんですか?」

 サガッツは驚いて叫びました。

…サガッツといえば、チェニイがガドリングに到着早々、湖に転落して溺れた原因を作ってくれた姐様の弟子たちの一人です。


「まさかね! あんな場所でニザーミアの水精教導と、逃走中の使徒様が鉢合わせしたらシャレにならないでしょ? あくまでワタシは姿を変えて潜入捜査を試みただけよ」

「けどシェノーラ様、チェズニ君の風貌って以前とダイブ変わってマシタでしょ? よほど妙な人格が憑りついて、悪人ヅラになっちゃったとか…思いませんデシタ?」

 そう口を挟んだのは、チェニイ一行の接待役(を任じてた割には、結局ナニもせず…挙句に〈お茶会〉ではロクリス・ワインを盗み呑みして泥酔でブッ倒れた)少女ユリア・イルーランでした。


「ユリア! 人様を風貌でアレコレいうものじゃありません!」

 さすがに姐様ニキータも、彼女を(一応は)嗜めるのですが…そう言われると、ユリアの指摘にもそれなりの道理があるというか…以前にお茶会(というより呑み会?)で彼女自身が感じてしまった感想とも共通するので、あまり本気では怒れませんでした。


…それはともかく…

「シェノーラ、私はチェニイ君とミリアを、直接大都ジュレーンへ送り届けようかと考えてるの。今の〈物騒な〉騒動の真っただ中にある、あのジュレーンへ…」

 唐突にニキータ姐様は、シェノーラ教導に向かって切り出しました。


「姐様…それ、本気で言ってるんですか?」

 いきなり切り出されたシェノーラには、そう応えるしかありませんでした。


 ……………………………………

いったい現在、大都ジュレーンでどんな騒動が巻き起ころうとしているのか?

まあ、何となくニキータがちょっと前に〈お茶会〉で語っていた内容から

推測すると、激ヤバな状況が待ち構えていそうな気配は想定できるのですが

実はこれに加えて〈ノース・クオート〉大陸を巻き込んでいる問題は、

「狼が南から攻めてくるぞ~」的な使徒召喚のウソ騒動どころではない

大問題にまで発展し始めているようなのです…

次回に続きます

 …………………………………………………

「ザネル」は毎週月・水・金に更新いたします 


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